第五十八話「事後」
「何でここにいるかわかるか?」
ルーカスは、
縮こまって、三角座りをにしている
サラに向かってそう言った。
「え、えっと・・・ここは私の部屋?」
彼女は、自分の体に顔をうずめて、
チラチラと顔を上げながらも、
決して目を合わせないようにして、
くぐもった声を響かせる。
「何言ってんだ、俺の部屋に決まってるだろ」
「え!?」
本当に驚いたらしい彼女は
紅葉のように顔を赤く染め、
両手でそれを覆いながら
体をさらに縮こまらせていった。
「何だその反応」
「わ、わけがわからないんすよ!
急に眼が覚めたみたいな・・・・」
気が動転した様子の
彼女は時間も気にせず
大声でそう言う。
「あんたが急にこの部屋に来たのは
何でだ?」
「わ、私が来たんすか!?」
「そうだよ」
「う、嘘ぉ・・・・・・」
顔どころか、
彼女の真っ白な肌すら
真っ赤に染まる勢いで赤くなるサラ。
三角座りをするには、
少し邪魔に思える大きな胸のソレを
自身の膝で押しつぶし、極限まで小さく、まとまっていく。
「え、ええと、その・・・・私、列車に乗った時から
今まで意識がぼんやりしてて・・・
確かにここで部屋貰ったことも
覚えてるんすけどなんか意識が変で・・・・」
「・・・列車から?」
「はい」
「じゃあ、アンタがここでやったこともあんまり
記憶にないんだな?」
「ええ!?
そ、そんなにヤバいことしちゃったんすか、私!?」
「・・・・・・・本当に覚えてないのか?」
その問いにも、
「し、知らないっす!
ほ、本当に!
さ、さすがに夜這いは、まだ早いと言うか
何というか・・・・」
サラは、恥ずかしそうに、後ろへ下がりながら
部屋の隅でもごもごと何かをつぶやきだした。
「はあ」
「ひ、あ、あの、な、何があったんすか?
これってシてたわけじゃ」
彼の口から漏れたため息にすら声を上げそうな
サラへ
(嘘か、どうかは・・・・わからんな。
まあ、その時は)
更に彼の視線が突き刺さった。
「ひ、ひぃ」
ルーカスとサラとの力の差はもはや歴然だ。
その状態で感じる圧力はきっと凄まじいものなのだろう。
例え、それが味方とわっていても
恐怖は感じざるを得ない。
「お、落ち着いて、落ち着いてください・・・・
な、なんでも、る、ルーカスさんがしたいなら
首絞めでもなんでも」
だが、それ以上に
彼に不機嫌でいられることは
彼女にとって相当大きな意味を持つようだ。
両手を前に出し、身振り手振りを大きくしながら
彼女は早口でそう言う。
「・・・・いや、もういい。
俺も悪かった。」
ルーカスも追及しても意味はないと判断したのか、
敵意を弱め、彼女を見た。
「ふぅ、そ、そうっすか。」
それに安心し、
サラからため息が漏れ出る。
「もう夜も遅いから、早く寝ろよ」
「・・・・・え、帰るんすか?」
が、彼のその言葉に
食い下がり始めた。
「ああ、ここ俺の部屋だって言ったろ
サラが帰るんだよ」
「いや、あの、その・・・・・」
「?」
何か言いたげな態度のサラに
ルーカスは、心底不思議そうな目を向け、
次の挙動を待った。
「・・・ほんとうに帰っちゃいますよ?」
彼女のその言葉も
「ああ、なんだ?
別に送ってもいいぞ」
(暗いのが怖いのか?)
真に彼へ届くことはなく、
「ええ・・・・
ま、まあ、ルーカスさんがそうしたいなら・・・・」
二人は夜も遅い中、
城塞の廊下を歩きだした。
肌着に近い二人が
深夜、廊下を徘徊する。
二人とも明かりは必要ないらしく
何も持たないまま暗闇の中をまるで
昼と変わらない様子で練り歩いている。
そんな中、
「ん?」
ルーカスが何かに気づき、振り返った。
「どうしたんすか?」
「今、近くに気配は?」
「んん?いや、ごめんなさい、
やっぱりここは気配が感じずらいと言うか
何というか・・・・」
(今、人影が・・・)
そう彼が思った時、
「どうかされました?」
突然前から声がした。
咄嗟に前へ出て構えるルーカス、
その後ろへ隠れるサラ
慣れた動きの二人で、
特に、サラの顔は
すっかり戦場に出る時の顔つきだ。
「だ、誰っすか?」
声の先には明かりが見える。
ほのかな赤い光。
ランプの中にともった火が怪しく揺らめき
廊下を照らしている。
それが近寄り姿を現したのは
「ウィリアム?」
「こんな夜更けにどうされたんですか?」
あの白い髪の少年だった。
「あんたこそ、こんな時間にどうしたんだ?
子供が起きてる時間じゃないぜ?」
「あははは、確かにそうですね
でも、こう見えて、
僕も腕に覚えはありますし
非常時で仕方ないとはいえ、
この城塞を任せられてるんですよ?
今は夜の巡回中です。」
誇らしげにそう答える
彼の姿は年相応といった感じだが
その憂いの無さと落ち着きぶりは
決して物を知らない子供のものではない。
風体がどうあれ、
一端の兵士なのだと
彼は態度で物語っている。
「・・・・そうか」
「ええ、大人の皆さんは
今、皆感染症で倒れちゃいましたし、
子供でも頑張らないと」
健気で純粋。
模範的な青少年。
そんな感じを思わせるウィリアムに
「・・・・・悪かったな。子供なんて言って」
ルーカスは一応、非礼をわびた。
「いえいえ、子供なのは事実ですし」
それでも謙虚な姿勢を崩さない彼は
「でも、そういうことなので、
お兄さん方は何を?」
改まってそう問う。
もう何を信じればいいか
わからなくなりつつある
ルーカスは少し戸惑いながらも
「・・・・・サラを部屋まで送るんだ。」
それだけ答えた。
「あら・・・・・・ああ、なるほど」
ルーカスの答えを聞き、
彼の後ろにいるサラの姿を見た
ウィリアムは納得したようだ。
きっと、ルーカスと考えている子とは違うのだろうが、
彼の黄色の目が二人を見て頷き、
「じゃあ、行きましょうか」
先頭を切って歩き出した。
彼を一番前にして、
少し距離を空け、
三人はサラの部屋へと歩みを進める。
そんな中、
「う、うわ」
ルーカスに着かず離れなかった
サラの足が突如もつれ、前に倒れた。
「・・・・・」
普通に転んだ彼女を
ルーカスはつい反射的に
受け止めてしまう。
今の彼にとって
それぐらい大したことではない。
だが、
自然と彼は触れることとなるのだ。
彼の目の前に広がるのは
薄い紫色のネグリジェに覆われた
艶やかな背中。
それが彼の前に広がると言うことは
彼が下に滑り込ました腕は当然
「・・・・・」
柔らかな感触によって包まれる。
「あ///」
サラから声が漏れ、
ルーカスにも彼女の熱い鼓動が伝わった。
「・・・・・」
が、彼は意にも返さず
彼女を元の態勢に戻すと
前へ歩かせる。
(意識は飛ばないか・・・・)
「え?・・・・え?」
何か言いたげな
サラは放っておかれて
そのまま、三人は彼女の部屋に到着した。
「じゃあな」
その言葉に
「ええ!?
こ、この流れで帰るんすか!?」
サラは思わず、顔を赤らめたまま
驚きに満ちた素っ頓狂な声を上げてしまう。
「???」
一方、ルーカスはいたって
不思議そうな顔で彼女を見つめ返した。
「何すかその顔!」
不満たらたらな様子の皿だったが、
「早めに寝ろよ」
ルーカスは元来た道を帰っていく。
その背中を
信じられないと言った様子で見つめる
彼女だったが
ウィリアムも頭を下げて
ルーカスの方へついて行ったを見て、
「・・・はあ、寝よ」
自身の部屋に戻っていった。
「いいんですか?」
そんな風に彼女を置いていく
ルーカスの元へ
ウィリアムがとことこと歩いてきて、
横から呼び止めるが
「・・・・何が?」
彼は何もわかっていないようだ。
と言うよりも、
今は様々なことが頭を駆け巡っているせいで
そんなことを考えている余裕がないらしい。
「ええ・・・・・」
しかし、彼が変であることは
流石に少年のウィリアムにもわかる。
「・・・もしかして、僕より年下だったり?」
「18だよ」
「そう言うことじゃないんですが・・・」
「あんたは?」
「14です」
「あんた・・・俺のことどう見えてるんだ?」
「鈍い人だなあって」
皮肉も通じない
ルーカスはそのまま自分の部屋へ戻り、
不安と戸惑いで頭を埋め尽くしながらも
再び眠りについた




