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evil tale  作者: 明間アキラ
第五章 「暗躍」 ー第二地区防衛編ー
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第五十七話「読めない気配:後編」

元の部屋に戻ってきたルーカスは

何の異常もなく床に就いていた。


与えられたラフな

薄い茶色の半袖シャツと

短パンを着たルーカスはベッドに横たわる。


「・・・・・これ、どう見えてるんだろ」


自分の手足を見た。体を見た。

気味は悪いが、どこか落ち着く自分を見た。


黒い管の浮かび上がる手足、

服で見えていない、体の中心に近い場所では

もうその管はくっきりと鮮明に浮かんでいる。


首元から上は

まだ目立たないが、

あの黒一色の服を脱いで、外を歩けば

すれ違う人々は皆、彼の方へ振り返るだろう。


「この戦いが終わったらどうなんのか・・・

はっ、まあ、どうでもいいか、

生きてるかもわかんねえし、その時に考えよう。」


未来は知らない。

考えたくもない。


その考えなしが

今はうまく働いたのか、

疑いと不安でいっぱいいっぱいだった

彼も少し落ち着き、冷静に今日を振り返ることができたようだ。


(感染症蔓延ると城塞に来たと思ったら

サラと遊んで、高そうなご飯を食べて

部屋で寝転んでいる・・・・・・俺らは何してんだ?

思えば、感染どうのこうのの話は俺にもサラにもされてないな・・・・・

確かに会わせるのも危険だろうが

視察とかしないでいいのか?)


不穏で、不気味ではあったが

振り返ってみれば

何もない一日だったように思える。


(・・・・寝るか。)


いったん、面倒臭いことは忘れて眠るルーカス。


いつもなら

それこそ意識が飛ぶように眠り、

次の瞬間には朝が来る彼だったが

今夜は様子が違う。


(ん?誰だ?)


それは部屋の外で誰かが話す声だった。


女のものであろう

(サラ?)

そのヒソヒソと話す声と気配は

非常になじみのあるもので、

彼の意識は完全に呼び起こされていた。


もう時刻は深夜を回り、

部屋の外は真っ暗のはずだ。


だというのに、

喋るにとどまらず、


コンコン

とドアをノックが始まる。


(なんか用か?)


少しためらいながらも

ベッドから降りるルーカス。


彼は恐る恐るベッドを降り、

ドアに近寄り、ドアノブをひねる。


そして、扉を開くと

想像通りサラがいた。


しかし、予想と違ったのは

彼女がスケスケのネグリジェ姿であったことだ。


「ルーカスさん・・・・」


頬を赤らめ暗闇の中に立つサラ


甘く、熱い、アルコールの混じった匂いを放ち、

肩は呼吸に揺れ、

透き通るような白い肌は少し火照り、

それを汗が滴り落ちる。


淫靡な雰囲気を漂わせながら

内側から爆発しそうなほどの

情動に突き動かされる彼女がそこにはいた。


豊満な体つきに

透き通るような白い肌、

金色の柔らかな髪、

美麗と言わざるを得ない顔。


それが迫った時、

大概は

焦り、どもり、慌てながらも向か入れるか

その体を抱きしめ、ドアを閉めてしまうのか

そのどちらかだろう。


しかし、今、ルーカスの頭は真っ白だった。

そして、

それは、決して情欲からくる興奮によってではない。

それは、恐怖によって起きていた。


彼の目の白と黒が入れ替わる。

首元の黒い管が浮かび上がり、隆起する。


(・・・・・意識は飛んで、ない)


それを確認し、

彼女をその不気味な目で見つめた。


(ナンカ違う)


不思議と夜目の利いたらしい、

彼は、その目でじっくりと

サラの顔を見、少し違和感を覚えたらしく、

彼女の顔を掴む。


自然と頬に手を当てる形となり、

何か勘違いしたのか

サラは目をつぶった。


何かを待つように

そうしたらしいが、


「目を開けろ」


そんな彼女へ

小さく、低い、高圧的な言葉が届いた。


サラは、少し不思議そうな顔をしながら

目を開け、彼を見つめ返す。


その次の瞬間、頬にあった手は

首に行き、サラを持ちあげていた。


「ぐっ、は、な、なに」

「アイツの目は青いんだよ」


苦し紛れに口から漏れた言葉に

ルーカスは言葉を返す。


「アイツは金髪碧眼っていう

エルフ代表みたいな面してる。

オマエみたいなどす黒い赤目じゃナイ。」


彼が見ていたのはサラの目だった。

真っ白な頭でも、彼の目に飛び込んできた

その瞳は彼にとてつもない違和感を与えたのだ。


「何がしたいのかは知らんが

気配も読みづらいなあ、オマエ誰だ?」


感じた気配も

なぜかぼんやりとしていて、

その不気味に暗い赤い目も

到底サラには思えない。


「さ、サラっすよぉ

サラ・クラウディア」


だが、その女はそう答えた。


彼の問いに喉を締め上げられ、

苦しそうな彼女は苦悶の声を漏らすが

その力が緩む気配はない。


「る、ルーカスさん、や、あ、がッ!」


持ち上がった彼女の口の端から

白い泡が出る。

眼から涙が溢れ、

足がじたばたと動き、

彼の手を掴み、抵抗する力は強くなっていく。


白い肌が赤くなり、

呼吸の音も聞こえなくなる。


「ッ!ッ!」


それを見ても

一切力を緩めないルーカスだったが、


「あ?」


そんな時、サラに異変が起こった。


彼が異変を感じた赤い目、

それがゆっくりと色を変えだしたのだ。


真っ赤な瞳が徐々に

青へと変わりだす。


それを見た瞬間、彼の体から力が抜けた。

立ってはいるが、手の力が一気になくなり

サラは床へと落ちる。


「ゲホッ!ゲホッ!オ゛ッ!ゴォ!」


汚い声でせき込み、床に泡と唾液を垂れ流して、

えづくことしかできないサラ。


ルーカスは

(ああクソ!)

体が思うように動かないことを恐怖し、怒りを募らせていた。


(どうなってる!)


構わず絞めてしまおうと

思っていた彼の手は、今や一切動かず、

できることは、ただ下で這いつくばるサラを眺めるだけ。


そのサラは

色々なものを

「ゴホッ!ゴホッ!」

とせき込みながら吐き出していた。


体を震わせ、

ゆっくりと自分の体を見つめている。


「な、なんすかぁ、げっ、げほっ!!

ご、ここどこぉ・・・・」


そんなことをつぶやきながら

顔を上げ、周りを見た。


すると、

「ぎゃあああああ」

絞められてまだ間もないはずの喉から

絶叫を響かせ、彼女はうずくまりだした。


三角座りで体を覆い隠し、

プルプルと震えながら

ルーカスの方を見る。


彼はまるで怨敵を見つめるような

眼光で彼女を捕らえ、今にも

食ってかかりそうだ。


「ご、ごめんなさい、

ごめんなさい、ごめんなさい

ごめんなさい」


その視線に睨まれた彼女は、

その顔を真っ青にしながら許しを乞う。


何に謝っているのかは本人もわかっていないが、

ルーカスのその目は彼女にそれをさせるほど

恐ろしいものだったようだ。


「・・・・・アンタ、サラか?」


体の硬直が解け、

自由に動かせるようになったルーカスは

何やら様子のおかしいサラに声をかける。


「へぁ? そ、そうっすよ?

きゅ、急に何すか?」


彼女は、目に涙を浮かべ、

死刑判決でも受けたような顔をしていたが

彼の声を聴いて、少し顔を緩め、

なんでそんな当たり前のことを聞くのだろうと

キョトンとした様子でそう答えた。


「・・・・・」

「あ、あの・・・」


ルーカスは黙りこくり、

彼女を見つめる。


敵意は薄れたが、

疑念は残ったままだ。


(今、何が起きたんだ?)


眼の色が変わった。

そして、なにやらサラの様子が変わった。


それが何を意味しているのか、

何が起きたのか、彼には分からなかったため、

とりあえず

「・・・森に潜伏してた時、

俺に鼻をどうしろって言った?」


質問をしてみた。

彼女がサラなのかそれを知るための質問。


「え?いや、あの・・・・

変形して、塞いでくれって言いましたけど

・・・・そんなに嫌でした?」


「・・・・・」

(合ってる・・・・)


予想外にも

それは当たっていた。


泥にまみれながら

何日も森に潜伏し続けたあの日々のやり取りは

彼ら二人以外が知る由のないものであり、

それを答えられてしまうと、

ルーカスが彼女を疑う理由はない。


「だ、だってあんな場所にあれだけ居たら

絶対臭いじゃないっすか

嗅がれたくなかったんすよぉ」


(・・・・さっきのは何だったんだ?

目が赤くなってただけ?

にしてはさっきの・・・・

ああ、もう。

頭使うのは俺の役目じゃないだろ・・・・・)


力なくそう訴える彼女に

ルーカスが向ける眼にはすでに

疑念すら消えかけていて、

サラも安心を取り戻したらしい。


「はぁー・・・・・・

それに、く、首絞めは、まだ早いっすよぉ」


「・・・・・・・・あ?」


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