第五十七話「読めない気配:前編」
「もう、あまり身勝手な行為は止めてよね」
自身を見上げるカミラに
子供みたいに説教をされるルーカス。
「今回はうまくいったからよかったけど
今度からはちゃんと命令を待ってから」
そう苦言を呈されるが、
「ああ、悪かった。もうしない」
それを遮って彼がそう言う。
まるで感情のこもってない返事で
それ以上の干渉をふさぎにかかる
という反抗期の子供じみた
ルーカスの試みは
「・・・・はあ」
成功したようだ
呆れたと言わんばかりに
ため息をつきながら
「まあ、いいわ。
ついてきて、部屋に案内するから」
彼を部屋へ案内し始める。
一階のある角部屋。
ドアを開けると中にあるのは
ベッドと机と、棚と、それぐらいしかない。
トイレもキッチンも共有らしいので
ここにはない。
カーペットも敷いていないむき出しの木の床や
ベッドに着いている鉄の取っ手や仕切りは、
その部屋の無機質さを余計に際立たせている。
「今は・・・15:00ね
19:00になったら夕飯だから
ここに居てね?
私が呼びに来るから」
「ああ、わかった。
それよりも、出歩いていいか?」
カミラにそう尋ねるルーカス。
「まあ、別にいいけど」
「無茶はしない」
「わかってるならちゃんと守ってね」
彼女はそう言い残して部屋を出ていく。
ルーカスは少し間をおいて、廊下へと出ていった。
何か目的があるわけではない。
あの狭苦しい部屋にいるのが
ただ退屈そうだと思ったからこうして出歩いているだけだ。
(・・・・・・本当に何百人もこの城塞にいるのか?)
だが、そんな彼もそんな疑問を
持つほど城内は静かで、
人の気配すら感じられない。
(まあ、感染者が大量にいるとして
気配がしないってのは、
弱ってんのか、
配慮が行き届いてんのか、
何かが起きたのか・・・・)
そんなことを思いながら廊下を歩いていると、
そこで初めて人と会った。
上の階から
ぞろぞろと
階段を下ってくる人たち。
それも何十人も。
「人居たんだな」
皆、革命軍の兵士なのだろう。
彼らが分厚いコートを着るのは相変わらずのようだ。
(俺ってどう認識されてるんだ?
挨拶は・・・しないほうが・・・・いや、した方が自然?)
そんなことを思っていた彼だったが、
その兵士たちは誰一人として彼と目を合わせない。
いや、彼らの目はどことも焦点が合っていないようにも見えた。
(・・・・気味が悪い。
というか気配が薄い、
本当にそこにいるのか疑わしいぐらいに)
まるで眠っているのかと思うほど力のない人々。
その目は前を向いていたり、
上を向いていたり、
横を向いていたりと
彼らの視線はあちらこちらに散らばっている
(あれが患者か?)
だとすれば納得がいくだろう。
あの生気のなさも
彼らが今、病に侵されながら
病院かどこかへ移動している最中であるならば理解ができる。
それに、どこか顔も赤いような気もする。
(だったら近づかない方がいいな)
そう思って、彼らから離れようとした。
後ろを向き、元来た道を戻ろうとした。
その時、
彼の視界の端に妙なものがうつる。
青年から中年まで年齢の様々な兵士たち。
とは言いつつも、成人済みの男ばかりである彼らの中に、
特段の背の低い者がいた気がした。
それも子供ぐらいの背の誰かが。
「あ?」
急いで後ろを振り返るルーカスだったが、
「・・・・いない?」
ルーカスの視界にはその背の低い誰かどころか、
兵士たちすらいなくなっていた。
「・・・・・何だったんだ今の」
そこから彼らの後を追おうと
兵士たちの消えた出口の方に行っても
そこには誰もいない。
「・・・・・・」
(意識が飛ぶ次は幻覚か?
不死身だと思ってたけど案外終わりが近いか?)
そんなことを思い自嘲して見せる彼だったが、
それぐらいでしか目の前で起きた現象を説明できないのだ。
(外に出るか?)
その出口から
彼らが何なのかさぐるため
外へ出ようとするルーカス。
そんな彼に声がかかる。
「ルーカスさん」
彼の緩んだ気持ちが一気に引き締められ、
その声の方から一足飛びで離れる。
まるで奇襲にでもあったかのような彼の動きに
その声の主はたいそう驚いた。
「ひゃ、ひゃあ」
「・・・・」
(あの列の後ろにいたのか?)
それがサラだとわかっても、彼はその目つきを緩めない。
むしろ彼女だからこそ距離をとったのだ。
「ど、どうしたんすか?
朝から変っすよ?ルーカスさん・・・」
「・・・・・・・」
(意識は・・・飛ばない)
「なんか私しちゃいました?」
今にも泣きだしそうな顔でそう訴えかけてくるサラであったが
今の彼には演技にしか見えない。
しかし、これでは日常生活に支障が出てきてしまう。
これからも任務で彼女の指示を仰ぐこととなるのだから
これ以上、喋らないようにしても、絶対にしゃべるようになる。
サラが接触してこないならこれでいいのだが、
彼女がルーカスによく話しかけてくれる以上
(・・・無理にやっても、無意味か)
そう思い至った彼は
警戒を解き、サラに近づく。
「悪い、ちょっとびっくりした」
「もう!!なんすかそれ!」
頬を膨らましながら
怒りをあらわにするサラだが、
「はあ」
どこか安心しているようでもあった。
「なんか用か?」
「いや、別に、特段用があるわけじゃ・・・
その、ここだと書類仕事もないし、暇だなあって・・・・」
ルーカスからの質問にも
彼女は口をもごもごさせながら
歯切れ悪くそう答える。
「リリーはどうした?」
「リリーは、まだ疲れが抜けてないみたいで
着いて早々眠っちゃいましたね
だから、本当に何もすることなくて」
「・・・・そうか」
彼も暇だからこうやって出歩いているのだが
サラもこの場所自体も不気味でたまらない。
(どうしたもんか・・・・)
ここでサラといるのも嫌だが、
無理に距離をとれば今後の関係の悪化につながる。
なので彼は、
「なんか、暇つぶしのあてはあんのか?」
「それがないんすよぉ」
サラの相手をすることにした。
(意識が飛ぶかもしれんが受け入れるしかない・・・・)
しかし、そんな彼の不安は幸運にも外れることとなる。
サラの部屋に招かれたルーカスは
そこで、トランプみたいなゲームで遊びだした。
二人は携帯食料をつまみながら
そうやって遊ぶ二人。
ルーカスはいつ意識が飛ぶかと
冷や冷やしていたが、それが起こることはなく
普通にゲームは進んでいく。
「はい、私の勝ちで~す」
「・・・・・」
「少しは悔しがってくださいよ!」
無論、彼にそれを楽しむ余裕はなく、
最初は動きもぎこちなかったが、
次第にゲームを楽しめるようになっていった。
「なあ」
「なんすか?」
そんな中、ルーカスが
実に楽しそうに遊ぶサラに質問する。
「なあ、ここに人は何人いる?」
ふとサラならこの城塞がどういう状態なのか
分かるのではないかと思い至ったのだ。
「ああ、人っすか?・・・・・んん?あれ?」
流れでサラに
この建物の気配を
探ってもらうことになったが、
「・・・・わかんないっす」
何とも気持ちの悪い答えが返ってきた。
「わかんない?」
そんなことがあるのかと
聞き返してみるが、
「ぼやけててわかんないんすよ・・・・
皆病気で弱ってて、気配が薄いのか、
もう違う病棟に移ってるのか・・・
思えば、そういうこと聞いてませんでしたね」
よく分からないということしか
わからないらしい。
「まあ、夕食の時聞けるらしいですし
その時聞きましょう」
「・・・・・・ああ、そうだな」
そうやって二人は
気になることは後回しにして
夕食時まで時間を潰すことにした。




