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evil tale  作者: 明間アキラ
第五章 「暗躍」 ー第二地区防衛編ー
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第五十五話「目新しい女」

ルーカスは通信に従い、駅へと歩いていく。


駅には多くの兵士たちが集い、

思い思いにしゃべっていた。


(・・・・・多いな)


人の多さに戸惑うルーカスだったが

そんな彼のトランシーバーから指示が聞こえる。


「ルーカスさんは一号車に入ってください」


それに従い一号車を目指すルーカス。


一方、他の兵士たちは

前もっと何かを知らされているようで、


「予定通り、二号車から四十号車までだ。

事前の規定通りだぞ!」


全員、列車の前で自分の銃の点検と

荷物確認を指示役の前で行い、

列車へと乗り込んでいた。


そんな彼らの横を通り抜けて

ルーカスは一番前の列車へと乗り込む。


他の号車よりも

比較的狭い車内だが、

空席ばかりで、そのうちの一つの四人席に

リリーとサラが向かい合って座っていた。


「今日は大丈夫っすか?」

「ああ」


心配の声を投げかけるサラ。

ルーカスも、この緊張感で

不安はどこかへ消え、平静な様子となっているのだが、


(サラに近づくとあれが起こる・・・)


冷静であってもその疑念はぬぐい切れないようだ。


その証拠に、彼は隣の四人席へと腰かけ、

その一番端、サラから一番遠い場所へと座った。


「な、なんでそっちなんすか?」

「・・・・・・こっちがいい」


余りに不自然な行為だ。

しかし、かたくなに口を開かない彼が

当然のように二人の方を向くと、


「ま、まあ別にいいっすけど」

サラは納得したらしい。


彼女はそう言った後、

「じゃあ、今回の任務の説明をしますね」

仕方なく今回の任務について説明し始めた。


「今回は第二地区へ移動っす。

そこの防御力強化らしいっすね。

人員の配置は向こうで

指揮を執ってるゼノさんが決めるんで

今は考えなくてもいいそうです。」


「・・・・こっちの防御は良いの?」


「いいみたいっす。

カティア騎士団もあれで大分損害を被りましたし、

攻めては来ないだろうとのことなんで、

守りはテオ兄様とハンター達でやって、

応援要請のあったこっちに私たちを送るとのことっす。」


「・・・そう」


「今度は随分と大所帯なんだな」

「ええ、彼らも補充要員です。」

「何が起きたんだ?」


リリーが口をはさんだ後、

ルーカスも遠くから彼女へ質問する。


「それについてはもうそろそろ来るはずの人に

説明してほしいんすが・・・」


どうやらルーカス以外にも待ち人がいるようで

サラは目をつぶった。


「ああ、もうちょっとで来るみたいっすね」


気配を感じ取れたようで、サラが目を開ける。

すると、それか数秒後

一号車へ誰かが乗り込んできた。


黒に紫の混じった髪をした短髪の女性。

人間のようで、

(モデルみたいな体つきだな)

そういう女だった。


タイトな紫色ミニスカートに

白いシャツを胸元を緩めしながら着て、

その上から紫のジャケットを羽織っている。

その彼女は、

「あら、遅れちゃったみたい?」


三人がそろった様子を見て、

申し訳なさそうにそう言った。


「大丈夫っすよ」


サラに促され、

その女はルーカスの斜め前に座り、

長い脚を組む。


「ごめんなさいね」


顔の前に手を置いて

ウインクをしながらルーカスに向かって謝ってきた。

きっと許して貰いやすそうな相手に向けてやっているのだろう。


「・・・・・・・」


彼は彼女を眺め、


(感じたことない気配、

サラと同じくらいの魔力だな。

あんまり強くなさそう・・・・・か?)


そんなことを考えていた。


何だか横からの鋭い視線が

ルーカスへ突き刺さるが、

彼は気にしない。


ルーカスは彼女の顔にも目を向けると、

それに自然と視線を合わせて笑顔を向けるカミラ。


(最近は美男美女ばっかに会うな)


クラス4や3というのは顔までのいいだろうか。

さっきの態度と言い

自分が美人であるということをしっかりと理解し、

活用して生きてきたのだろう。

そんな風に思わせてくる女だ。


(敵じゃない・・・のか?

厄介そうなやつではあるが・・・)


もう疑心暗鬼となりかけていたルーカスが

疑える理由を探し出していると


ピュルルルル!

と汽笛のなる音がした。

その音と共に列車がゆっくりと動き出す。


ゆっくりと発進していったそれは

どんどんとその速度を速めていった。


「・・・あのカミラさん」


貼り付けられたような笑顔のサラが、

向かいの四人席の端からルーカスの席の方へ近づき

身を乗り出しながらカミラに話しかける。


「はい?」

「スルイの現状を教えて欲しんすが」


「ああ、はい、そうですね・・・

でも、まずは自己紹介からしましょうか

初めましての方もいるみたいだし」


そう言って彼女はルーカスを見る。


「・・・どうも」

「お名前は?」

「ルーカスだ」


「はじめましてよね?

リリーさんとサラさんはお会いしたことあるけど、

ルーカス君は最近入ったの?」


「ああ、最近テオに拾われたんだ」

「何歳?」

「18」


「ふふ、いいわねえ」


妖艶な笑みを浮かべる

カミラと呼ばれた女は

そう呟きながら、

じっくりとルーカスの全身を

品定めでもするように見回す。


「あの・・・」


それを遮るようにサラが声をかける。


「・・・・あらごめんなさい。

こんな可愛い子に会えるの久しぶりで舞い上がっちゃって」


(・・・・変な奴だな)


「初めまして、私の名前はカミラ、カミラ・スカーレットよ。

第二地区、南端の都市スルイに布陣してる

第二地区担当官ゼノさんの副官をしてるわ。

よろしくね」


少し前かがみになりながら

手を前に出すカミラ。


「・・・・ああ」


少し汗の滲んだ

小さな色白の手が

突き出された彼の手を包む。


「ふふ、じゃあ、

救援を呼んだ訳とスルイの現状について話しましょうか」


そして、今度は全員に笑顔を向けた後、

カミラは話を始めた。


「今回の応援要請は、

スルイの兵士たちが原因不明の伝染病に

犯されたことによるものです。」


「伝染病?」


サラが神妙な顔でそう聞く。

さっきまでの不満げな顔はどこかへ行ったようだ。


「ええ」


そして、カミラも

冗談っぽい態度が消えていて、

真剣な顔つきになっていた。


「伝染病って、どんなんっすか?」


「発熱に、頭痛、腹痛に嘔吐、眩暈。

大体風邪みたいな症状がほとんどですけど

兵士の半数以上がそれに感染したんです。」


「半数以上っすか!?」


「ええ、もう防衛陣としての機能はないに等しく、

病原体の特定も出来てませんから

予防策も打てません。」


「だから、あなたがわざわざこっちまで来たんすか?」


「ええ、他に方法なかったですし」


「あなたにその病気は移ってないんすか?」


「どうとも言えないですね

移ってるけど発症してないのか

移ってないのか、確かめようがないですもの。

治癒魔法を使えるミアさんも今は本調子が出ないみたいだし、

どうしようもないって」


「ミアさんもかかっちゃったんすか?」


「それもわかりません。

だけど、あの人は停止した防衛機能をほぼ一人で賄ってます。

そして、最近、騎士の動きが怪しくなってきてまして

ほぼ毎日戦場に出てるんです。

しかも、相手は損傷の少ない段階で退いていく。

連戦の疲労でああなっても不思議ではありません。」


「そうっすか・・・・」


「病原菌が溢れるところにあなた達を呼んだのは申し訳ないですけど、

騎士の事もあるし、その場しのぎでも応援が必要だったんですよ。

ごめんなさいね」


「いえいえ、厄介事を迅速に処理するのが

ウチの部隊の役目っすから」


「そう、本当に感謝します。」


丁寧に彼女は頭を下げる。


「ミアさんもゼノさんも

一人で騎士を追い払ってるから

みるみる疲れていってて・・・・・

なのに、あの人のためだからって言って

全く休まないんですよ。

これでやっとあの人も休めるわ」


「任せてください。

空いた穴はウチで塞ぎますんで、

それよりその伝染病が厄介っすね

衛生面をきっちりするぐらいしか

今のところ対策がなさそうですし・・・」


「こっちでもやってはみたんだけど

徹底できなかったわ。

無理に兵士たちに制限をかけちゃうと

色々問題が出ちゃうし・・・

でも、騎士の動きに対応を急ぎ過ぎたのが

ダメだったんでしょうね

もっと慎重に動くべきだったわ」


「まあ、詳しくは着いてからっす。

報告感謝します」


「いえいえ、当然のことですから」


そこから二人は報告を終えて少し雑談をし始めた。

近況報告に近い物から段々とたわいのない物へ

最近そっちの様子はどうだ、

部隊で何が起きたのか、

その服はどこで買ったのかとか。


リリーは二人の話に飽きてもう寝てしまったようだ。


一方、ルーカスはぼけっと外を眺めていた。


「ルーカス君とは長いの?」

「いえ、まだ・・・一か月弱ぐらいっすかねえ」

「なのに随分となじんでるのね」


そんな話を二人がしていても

彼は外を眺め続ける。


(とりあえずサラとは距離を置こう。

やれることはやっておかないと・・)


サラと話さないように。

あまり顔を合わせないように。


彼は自分にできるのはそれぐらいだと信じてやまないのだ。


そうやっていると、

案外周りなど気にならなくなってくるもので、

時間もどんどんと流れていった。


「・・・・・・・」 


外の大自然が前から後ろへと流れて行くように

時間は見る見るうちに過ぎていく。

そうやって、時間を潰していると、


「何見てるの?」

横から女の声がした。


いつの間にか

カミラがルーカスの正面へ移動し、

一緒に外を眺めていたのだ。


「・・・・・・風景を見てる。」


後ろへの警戒はしていたため

ルーカスは彼女が近寄ってきたことに驚きはしなかったが、


「何か面白い物見えた?」

「・・・・別に何も」


親しげに話そうとする姿勢には少し驚いた。


(こんな態度の俺によく話しかけてくるな・・)


しかも、彼女の体が近づいていく。

同じような位置から外を覗き込もうと近づき、

体が少しふれ合う。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


何も言わずに二人で同じ窓から

外を眺める時間が続く。

互いに視線を合わせることもなく、

ただ目の前を通り過ぎていく見飽きた緑の森林と

そこにいる魔獣を眺める、意味のない時間。


「・・・・本当に何もないわね」

「・・・・・そう言ったろ」

「自然が好きなの?」

「・・・・別に」

「不思議な人」


流石に

彼女も付き合い切れないと言った感じに

笑いながら元の席へ戻っていく。


そこからは何事もなく、

列車は第二地区へと到着した。

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