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evil tale  作者: 明間アキラ
第四章 「戦争」 ークリ平原の戦い編ー
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第五十三話「不穏」



「サラか?」


ルーカスに与えられた寝室のベッドの上。

そこにサラがいた。


「・・・・ルーカスさん」


弱々しく毛布にくるまるサラは

生気の薄い眼でルーカスを見つめている。


(・・・・なんで居るかは・・・)


彼もとりあえずサラを見つめ返し、


(聞かない方がよさそうだな)


部屋の中へ入った。



サラは任務を終えて、

周りからルーカス以外がいなくなるとずっとこの調子だ。

何かに怯えているように震えが止まらず、目に力がない。


テオに報告する際は

すっかり元通りになっていて、

ルーカスも治ったかと思っていたが、

そこから時間が経つと元通り、

このような有様になってしまっていた。


「・・・・」

「・・・・・」


二人で黙っていると、

サラが口を開く。


「こ、こっち来てくれませんか?」


消え入りそうな声で

弱々しくそういうサラ。


「・・・・・・」


ルーカスは黙ってベッドに腰掛け、

靴を脱ごうとした。


(・・・・・何を求められてる?)


どうすればいいかわからない。

彼の背中にサラの視線が突き刺さるが、

彼にはどうすることもできない。


(・・・・俺に何を求めてるんだ?)


ここまで数週間か、

行動を共にし、色々あった仲ではある。


結構な時間、会話もしたし、

何日も森の中に、任務のためとはいえ、

二人で暮らした。


ただ、それだけでルーカスの心が開くわけではないようだ。


(・・・・・どうすればいい?

というか、何もしたくない。寝たい。

憔悴してるのはわかるが

俺にその治療は難しすぎる・・・・)


その余りの空気の重さに耐え切なくなりかけていたルーカス。


とりあえずサラの方を向こうかと思ったら、


(・・・・・)


また、体が動かなくなっていた。


(またこれだ!

変身の副作用か?)


金縛りのように指先までびくとも動かず

思考と瞬きぐらいしかやれることがない。


(動け!!

ああ、クソ!!

なんでだ!?)


彼が脳みその中だけで、

うごめき、そうしようと奮闘している。


そんな中、サラが口を開いた。

消え入りそうな声でルーカスに語り掛け始める。


「ル、ルーカスさん?

どうしたんすか?」


布の擦れる音が聞こえ、

サラの気配が、吐息が彼に近づいてくる。


「こ、こっち見てくれないんすか?」


サラの手がルーカスの肩に乗り、

そのまま胸の方へ伸びてきたが

そこで初めてわかった。


(・・・・触感がうすい?)


明らかに体が触れ合っているのはわかるが

それで得られるはずの感覚があまりにも薄い。

触られていることが辛うじてわかる程度だ。


(気が緩むとこうなるのか?

だが、何で寄りにもよってこんな時に・・・・)


せめて体の自由がきけば、

歓迎出来た部分もあるかもしれない。


しかし、今の金縛り状態で

何かが起きても彼はどうしようもない。


そんなことなど一切知らないサラは

ルーカスへ言葉を続けていった。


「ルーカスさんって労働員だったんすよね?

私たちみたいな人ってどう思ってたんすか?」


「・・・・・・」

(急に何だ?)


「ど、どう思ってましたか?」


震えた声で懇願するように

そう聞いてくるサラ。


質問に驚きながらも

(口開くのか?)

喋らなければ不自然なので口を開いてみる。


すると

「・・・・私たちみたいなっていうのは?」

案外喋れた。


体が動かないものだから

口も動かないものだと思っていたが

どうやら喋ることはできたらしい。


「こう、クラス0から見た

上位クラスの人たち・・・」


その言葉を聞いて、

考え込んだルーカスは、

少し時間をおいて、


「・・・・・どうでもいいと思ってたよ。

強いて言うなら・・・・嫌いだった」


そう答えをだした。

自分たちにかかわりのない存在、

ただ嫌いになるには十分すぎる要素が彼の生涯にはある。


「・・・そうっすよね」


震えながらも

どこか安心したような声で

彼女はそう答えた。


「それがどうかしたか?」

「・・・・・い、今はどうっすか?」


「・・・・さあ

もう人間でもなくなっちまった。」


目を動かし、自身の手を見る。

動かない手にはいつも通り、

黒い管が浮き上がっている。


「・・・・人を殺す時、ためらったりしないんすか?」

「・・・しないな」

「なんでそんな強いんすか?」


(強い?強いか・・・)


自身の化け物となった体を見つめながら

強さについて考えてみる。


確かに強くなった。

きっと魔力とか身体的なものは圧倒的にそうなった。


しかし、彼の心にはそういうことに関して

全く実感がなかったのだ。


「俺が?」


突然、降って湧いたような自分の力。

体は変化し、感覚もどんどんと変わっていく。

それでも、心根だけは全くもって

あの時から変わっていない。


あの子供の前に立ったあの時から

少したりとも変わっていない。


それが彼に疑問を抱かせていた。

果たして自分は変わったのだろうかと。


「・・・強いっすよ

私なんて、足引っ張っちゃってましたし」


だが、サラから見れば

彼の強さは圧倒的だった。



大規模な魔法の発動に、

カティア騎士団の聖騎士二名を相手取り

両方を討ち取ってみせる。


この作戦だけでも

サラにははっきりと伝わっていた。



「全部サラの計画通りだろ」

「それは・・・そうですが」


実際その通りだ。

これはサラが計画し、サラが行ったこと。


だが、彼女の中はどうしても

そういうことで自分をほめることができないらしい。


線路に与えられた武器を敷き詰めるのも

あの二人の騎士をうまく嵌めたのも、

それですなわち自分がすごいのだと余り思えないようなのだ。


「テオはだいぶあんたのこと買ってるみたいだけど?」

「・・・・あの人はみんなに甘いんです」

「へえ」


「あの人は全部自分できるし、優しいから。

誰かが失敗しても何も思わないんすよ。

その後、自分で全部後始末して、

終わらせるんです。」

「・・・・そうか」


その言葉を最後に二人の間で

沈黙が流れる。


が、彼女の頭がルーカスの背中に付けられ、

より距離が縮まっていく。


「・・・・私はあれで良かったんすかね」


そうやってぼそぼそと語り掛け、

ルーカスのジャケットを握りしめる。


ルーカスは何をされているのか全く分かっていないようだが、

黙って、彼女の声に耳を傾けていた。


「あの二人、ちょっとした知り合いだったんすよ

喧嘩別れしたんで、仲は最悪になんすけど」


「・・・・・・・」


「全部私が悪かったんす。

私がもっとちゃんとしてれば

もっとやりようが、

殺さないで勝てたかも

ルーカスさんに変身させないで・・・・」


「・・・・殺したのは俺だ」


「私が殺したんすよ

あたしが命令したんです。

あたしが許可して、やってもらったんです。

あたしが・・・・」


すすり泣きが響く。


「あたしがカラとメーガンを・・・・」

「・・・・・・・・」


泣き始めてしまうが

ルーカスは相変わらず動けない。


(どうすりゃいいんだよ、ほんと)


ただ止まった体で正面を見つめるしかできない



そんな彼の意識が

突如、ぷつりと切れた。


瞬きをした後、彼を待っていたのは外の景色、

早朝、アパートの屋上から喧騒の止んだ

街並みを見下ろすその視点だった。


「・・・・は?」


テオの瞬間移動のような場所の移動。

飛ばされた時も確かこんな風だったと

彼は思っていたが、それとは違うことがあり過ぎる。


まず、自分の体だ。

彼の体は、少し疲れたような、よく休めたような、

そんな変な状態であった。

だが、食事を終えたあの状態でないことは確かだ。


そして、周りの時刻。

あの時は夕日も沈んだ完全な夜であり、

テオと食事をした後はその夜も深かったはず。

しかし、今はどうだろうか。

朝日が差し掛かる早朝に変わり、

昨日見た酔っ払いが宴会をしていた場所で

今は鼻ちょうちんを浮かべながら眠っている。


「・・・・何が起きてる!?」


口から驚きが漏れ、

体を見る。


何も変わらない

黒い管の浮き上がった体だ。

もうそれにすら安心感を覚えてくる。


呼吸が乱れ、頭がぐちゃになってくるが、


(とりあえず、部屋に戻るか・・)

そう思って

見るのは初めてな階段を下りて、

自身の部屋に戻っていく。


ドアを開け、ベッドを見ると

そこではサラがすやすやと眠っていた。


何も着ないままベッドでぐっすり寝息を立てている。


(明らかに時間が経ってる・・・・)


「う、うう~ん?」


彼の慌てた動きで

サラも起きてしまい、

こちらを覗く。


眠い目が彼の方へ向き、

彼女の顔がほころぶ。


「おはよ~っす」


その顔は朗らかで、

昨日の暗さはどこへやらだ。


「・・・・おはよう」


彼の頭には戸惑いと驚きが付きまとう。


だが、そこからの時間は案外平凡で、

何事もなく進んでいった。


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