第四十七話「分断戦:中編」
カラは森を跳びまわり、
索敵する。
木を蹴り、枝を掴んで自身を投げ、
また枝を掴んだり、木を蹴ったり、
そんな風にアクロバットな動きで森を移動していく。
(超感覚)
身軽な動きで距離を詰め、
感覚を研ぎ澄ませて自分の部下を襲った犯人を探し出そうとする。
(あの速度と軌道・・・
信じられないけど、本当なら後2km
1km範囲じゃ絶対に捉えられない距離ね)
たかが数kmの距離、
クラス4にかかれば簡単に移動できる。
移動し始めて数秒後、
カラはまた超感覚を発動し、辺りを探った。
すると
(・・・!!)
何かを感じ取ったようだ。
頭の上にある耳がピクピクと左右に動き、
鼻を鳴らし、五感を総動員してその正体を探る。
(・・・・これって・・)
不可解そうな顔で
当たりを見渡すと、
その視界の端にそれがいた。
大量の木の葉の下、
少し盛り上がったそれにカラはためらいなく
弓をひく。
その瞬間、そこからサラが飛びだし、走り出した。
「待て!!」
カラの怒号が響くが彼女は走り続ける。
カラはサラの金髪を追いかけ、追い越し、前に立つ。
しかし、その瞬間、彼女の足がぬかるみにとらわれた。
いや、数舜前は、全くもっと普通の地面だったのだが、
カラが地面に触れた瞬間、
足が地面につかり、ぬかるみに捕らわれたように
なってしまう。
だが、
「ふん!」
彼女が土を操作すると、
ぬかるみがなくなり、地面は普通の地面となり
カラは簡単に抜け出した。
その間に
逆走して逃げ回るサラを
「待てって言ってるでしょ!!」
カラは再び、木を伝って追いかける。
また今度は彼女の後ろへと降り立つが
その瞬間、カラの降り立った地面が崩れて下に穴が開いた。
その穴はサラが離れるたびに広がっていき、
もう手でがけを掴むことすら出来ないカラだったが
彼女がそこへ落ちることはなかった。
「この程度!」
彼女は宙に浮いた。
落とし穴に落ちようと、引っ掛かった本人が空を飛べれば
それは意味をなさない。
少しずつ上昇するカラは
まず弓を収納し、手を後ろにやって
手のひらを後方へ向けた。
弓は手で触りながら念じると勝手に小さく折りたたまれて、
背中にある機会にぴったりと張り付く。
そうやって両手を空けたカラは
後ろに向けた手のひらから
風を一気に噴き出す。
手のひらから飛び出す風は
ビュンッ!!
という音共に凄まじい風圧でカラを押し出し、
一瞬でサラに追いついた。
矢のように飛んで来る彼女の蹴り足が
サラの背中へ迫ろうとしたその時、
サラは突然、横へ倒れる。
避けたのだろうが、
あまりに急な動きに体がついてこず、
そのまま少し転がって気にぶつかるサラ。
カラはサラの正面数メートルの位置に着地し、
後ろを振り返って、彼女を見た。
「いったぁ~」
涙目でぶつけた頭をさすりながら
頭を上げるサラの目がカラのものと合う。
「・・・」
顔が引きつり、崩れた笑顔で
「お、お久しぶりっすね、カラ」
そう声をかけると
「ええ、久しぶりね、サラ」
カラは冷たくそう返してくれた。
その目はまるでゴミでも見るような冷徹な視線を送り、
サラを見下ろしている。
「あははは、こんなところで会うなんて思いませんでし」
「動かないで」
そう地面に手を置きながら話しかけるサラを遮って
カラは背中の収納スペースから弓を取り出し、
展開した。
ガチャガチャと音は立てながらも
金属製とは思えないほど動く弓は
長方形はあっという間に弓の形を取る。
展開された後、弦が張られ、
彼女は尻尾で足に着けてあるホルスターのような物から矢を取り出し、
それを取って構えた。
「元友人のよしみです。
ここで投降すれば命はとりません。」
「・・・・・・・」
サラはその場から動かない。
カラと目を合わせたまま動こうとしない。
「あなたの中では得意の土魔法かもしれないけど
私たちに通じるはずないでしょう。
無駄な抵抗はやめて」
思いやりも情の欠片もない
その声がサラの元へ届くが、
サラは降伏する様子は見せない。
「そうですか」
その様子を見て、
矢を引く手に力を籠めるカラ。
その時になってサラが口を開いた。
「・・・熱くなると注意が疎かになるのは変わらないんすね」
怪訝な顔をするカラ。
だが、彼女もあることに気づき、
横へ大きく跳んだ。
そこへあの黒い化け物が迫ってきていたのだ。
カラがいた場所にその巨体で突っ込み、木々をなぎ倒していく。
「なんでアイツが」
嫌な予感が一瞬よぎるが、
その後ろからカラにとって聞きなれた声が響いた。
「大丈夫!!?」
その声に安心して、カラはそちらの方を向いてしまう。
「あなたは?」
「大丈夫に決まってるでしょ」
二人が顔を見合わせ、声を掛け合った数秒後、
彼女たちがふと周りを見ると、
あのひとりと一匹が視界から消えていた。
しかし、見えていなからと言って
彼女らに敵の補足ができないはずがない。
感覚を研ぎ澄ませば、
カラとメーガンは周囲1kmに敵がいるかいないか
くらい把握できる。
だが、
「いない!?」
二人ともその事実に驚いた。
「どういうこと!?」
「わかんない!」
二人の驚嘆の声が辺りに響き、
困惑が彼女らを包む。
一方、そこから、更に2kmほど離れた場所に
サラとルーカスはいた。
ルーカスは化け物の姿から
人間に戻っていて、
当たりに落ちたドロドロとした石油のような黒い液体は
地面に落ちるなり、すぐに蒸発し、消えてなくなる。
「これ変なガス出てませんよね?」
「知らん」
不安げなサラの問いにルーカスは淡白な三つの文字で返した。
本当に知らないのだからどうしようもない。
というか、
ルーカスはそんなことよりも別の事に興味があるようだ
「それ便利だな」
彼が指さしたのは
サラが持つボタンの付いた板だ。
そこそこ厚みのある手のひらで握れる大きさをした板。
あのトランシーバーとも少し似ているそれに彼は興味が引かれているらしい。
「え?
ああ、そうっすね
本当にすごいっすよ。
この地点設定機もすごいっすけどね」
サラが足で示したのは
彼女の足元にある
黄色の光を放ち地面に張り付く
黒色の機械だ。
「それで転移ができるんなら
このまま逃げ回るってのはできないのか?」
彼は問う。
その機械でやって見せたのは
紛れもない、あのテオがコップでも取るみたいに
やっていた瞬間移動だ。
どうやらあの機械のボタンを押せば、
転移が可能のようで、
それをやると、ボタンを押した者とそれに触れていた人は服と共に、
この光を放つ機械がある地点へ移動していた。
「その機械をつけまくった後、
移動しまって、あいつらの魔力切れを待ってから
楽に倒せすとかはしないのか?」
だが、そうもいかないらしい。
「すいませんが、それは無理っすねえ
コイツはテオ兄様の魔導銃と同等かそれ以上の大発明品っすが
そんなやりたい放題できるもんじゃないんすよ
一地点へ一日一回だけっす。
この機械もあと何個かありますけど」
そう言いながらジャケットの内側から
地点設定機を三つ出すサラ。
「後これだけしかないんすよ
後三回移動すると今日はもう終了っす。
それに、こいつらって
まだ開発途中で、これも全部、試作機らしいんで、
予備もないですし、ここで使い切っちゃうのはちょっと」
再びそれらの機械を懐にしまいながら
彼女は肩をすくめ、
「なので」
彼に向き直る。
「後はよろしくお願いしますね」
そう言って彼にあの魔導銃を持たせるサラ。
少しからかうような表情が混じる顔で
彼女はルーカスにショットガンを押し付ける。
彼はそれを受け取ったが、
「ああ、それはいいんだが・・・」
「どうかしたんすか?別の銃がいいっすか?」
意外なことを言い始めた。
「いや、なんか剣とかないか?
近接武器だと嬉しいんだが」
「ああ・・・・そうっすねえ」
そう言って彼女は腰のベルトに差してあった
大型のナイフを手に取る。
長さにして60~70cmほどある
大きなナイフ。
黒色の刃には黄色の光が浮かび上がっている
それを取っての方を向けてサラはルーカスに渡した。
「これしかいないんすけど、いいっすか?」
「いや、これで十分だ」
ルーカスはナイフを受け取り、
片手にナイフを持ち、片手には自分の魔導銃を持つ。
「ルーカスさん、これ使えるんすか?」
「いや、前、素手で刀と戦った時、
再生能力を見せないのは難しいと思ったから
武器の一つでもあれば自然に防げるかなと」
「ああ、なるほど」
「っていうか
ここで、変身は?」
「んん~」
サラは悩みで声が漏れる。
彼女は悩んだ末、
「まだ、ダメっす」
そう言った。
「簡単に倒せる相手じゃないですから
ここでとり逃すと大惨事になりかねません。
まあ、追い詰められればわかりませんが・・・・」
サラはわずかに目線を下にする。
そんな彼女にルーカスは質問を重ねた。
「相手のことは知ってんのか?」
「へ?」
予想外の質問だったのか、
驚いて声を出してしまうサラ。
「いや、簡単に倒せる相手じゃないって」
当然の疑問をぶつけると、
「ああ、あははは、そうっすね
知ってますよ。そりゃあ、相手はカティア騎士団の騎士、ですし」
話し声の勢いがどんどんとなくなり、
軽く下へ向いていた視線はあちらこちらに行って、
ルーカスと合うことはなくなってしまった。
「・・・そうか、ありがとう。
じゃあ、そろそろ始めるか」
ルーカスは少しサラの様子を見た後、
そういって話を終わらせた。
「ええ、そうっすね
じゃあ、よろしくお願いします!」
サラは彼をおいて、どこか遠くへ走っていく。
ルーカスは武器を構え、音のする方を向いた。
「あんだけ喋ってたら、さすがに気づくか?」
彼の心が昂ぶり、高揚が彼を包む。
黒色の管が彼の全身に浮かび上がった。
「この服もいいな」
黒いジャケットにインナー、カーゴパンツ、大きなブーツ
テオに与えられたその服飾品たちを着ていると
すこぶる調子がいいらしい。
何度かその手に持ったナイフを振ると
刃が風を切り、大きな音を鳴らす。
ルーカスは自身の成長と
その服の効果に惚れ惚れしていた。
「ナンデだろうなあ
戦いになるとこんなに楽しいのは
本当にここ最近はタノシイなあ」
心臓の高鳴りに呼応するように
彼の着ている服に黄色の光を放つ
ストライプが浮かび上がり、
周りに電気のようなものもこぼれ出る
そこへ迫りくる二人の獣人の影。
その気配を感じ取ると
彼の口角が自然とつり上がっていく。
その狂気に満ちた笑顔で
お楽しみの瞬間を待ち構えるのだった。
「サア、やろうか」




