第三十九話「出会いは唐突に:前編」
ルーカスとリリーが訓練を終えた夜、
ルーカス、リリー、サラ、ゴーギャンとそのほかの兵士たちは
海守組が用意した会場で夕食を食べていた。
大広間にバイキング形式で並べられた料理を
兵士たちが蟻のように群がって取り、
テーブルで騒ぎながら、酒を飲んでいて、ちょっとした宴会になっている。
その中、ルーカスたちは一つのテーブルに固まり
比較的静かに食事を進めていた。
「サラさん大丈夫なんですか?」
「大丈夫っす。」
ゴーギャンは心配そうな顔をして、
慣れない左手で皿をカチャカチャ鳴らすサラに声をかけている。
サラは誰にも何も感じさせない完璧な笑顔で
「ちょっと食べづらいっすけど、三日ぐらいこれでいけたんで」
そう嘯いた。
リリーは相変わらず、さっきまでの訓練もあってか
四つか五つに盛られた料理をどんどんと消し、跡形もなくなると
おかわりをしに行っている。
そして、ルーカスは平静を装って、食事をしているように見えたが
その実、気が気ではなかった。
それはある一人の言動が原因だ。
この会場には四人で来たのだが、
一人の行動一つ、言動一つがどうも彼に違和感を残した。
「ご飯っすよ~~~」
とサラに呼ばれ、四人で会場までの移動中、そいつはこんなことを言っていたのだ。
「そう言えば、ゴーギャンさんはこれ知ってます?」
おしゃべりなサラが世間話的にしていた
この話、雪桜に教わったあの両手を合わせる行為のことをゴーギャンに聞いた時のこと。
「ええ、知ってますよ。『いただきます』ですよね」
「そうです。そうです。これってどういう意味なんすかね?」
「いただく命と作ってくれた方に感謝をするためのはずです。」
「へえ~、そうなんですか~」
この高い声でしゃべるサラを見たのが久しぶりなので、
それはそれで気になっていたルーカスだったが、
その説明を聞いた時、彼は少しだけ違和感を覚えていたのだ。
そうして、会場に着いてから、ルーカスからゴーギャンへの違和感は加速する。
まず、彼がとった食器は箸だった。
取る食事に関しては別に違和感はない。
だが、料理を取って席に着いた時、彼は手を合わせたのだ。
とても慣れた所作、まるで何百回もやってきたような様子で、
そして、「いただきます」と呟き、箸でものを食べ始めた。
(・・・・・)
ここは第三地区、あの海守組の雪桜も手を合わせて合掌していたことを見るに、
ここの風習としてそれが浸透しているのかもしれない。
他の組員や兵士たちがやっている様子はなかったが、地域差もあるのだろう。
しかし、彼にうっすらと残った前世の記憶らしきものが
彼に不思議な既視感を感じさせたのだ。
(あの食べ方、雰囲気、見覚えがある。
それに、違和感のある言動がちらほら・・・・)
ルーカスは明らかに量の増えた食事を頬張りながら、
ちらちらとゴーギャンの方を見る。
「・・・・」
彼は彼で普通に夕食を食べているだけだが、
その所作一つ一つが周りから浮いて見える。
その2mはあろう体躯の大きな手で小さな箸を器用に使いながら
魚の骨を取り、綺麗に焼き魚を食べる。
皿には骨だけを残して、綺麗に食べられた魚が残っていた。
周りとの違いを見れば一目瞭然、
リリーなんて皿は細かな肉片でまみれ、兵士たちも同で、
あのサラですらそんな調子であるのに
彼の皿は綺麗なのだ。
もちろん
(いや、あいつが綺麗好きってだけかもしれん)
そういうことだってある。
しかし、ある事実が、ルーカスの頭からこびりついて離れなかった。
(でも、アイツが魔導銃を作ったんだよな・・・)
サラから聞いた魔導銃の開発者という、
その事実が合わさり、ルーカスの目にはゴーギャンがさらに怪しく見える。
(そもそも、不思議だったんだ。
なんで、銃なのか、杖とかじゃダメなのか
銃口からなんで魔法を撃つ必要があるのか
確かに人である以上、銃は使いやすいはずだ。
だけど、あのトランシーバーと言い、
敵が持ってない技術をなんでこうも持ってるのか・・・)
(それに、いわゆる異世界転生ってのはここじゃそこまで不思議なことじゃない。
ここまで明らかに転生したらしい跡がいくつもあった。
しかも日本人っぽい奴が多い。
んで、俺の目の前にいるアイツも・・・)
彼の鋭い眼光がゴーギャンに突き刺さり
「ど、どうかしたんですか」
ガタイのでかい大男が明らかに
ルーカスを怖がりながらそう言ってくる。
「ルーカスさん、どうしたんすか?」
サラも不思議そうにルーカスを見てきた。
「・・・・悪い、なんでもない」
(別に問いただすような事でもないか・・・・)
そう思い直して気にしないようにするが、やはり彼は気になってしまう。
いちいち頭を下げるその仕草も、腰の低い態度も、言葉遣いも、
全てが怪しく見えて仕方がない。
そして、彼の態度は明らかに外へ出ていたらしい。
ゴーギャンの顔に汗がにじみ、明らかに気まずそうだ。
サラは明るい笑顔で大丈夫と言いつつ、フォークを食べ物の上で滑らせ皿に突き刺している。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
同じテーブルにいるため、自然と視線は合ってしまい、
目が合うたびに、あのガタイの大きい男が見る見るうちにびくついていく。
次第に耐えられなくなって
「あ、あの、どうかしたましたか?」
ゴーギャンの方が口を開いた。
「・・・・・・・ちょっと、外行かないか?」
その疑問が喉に突っかかっていたは食事もあまり喉を通らないルーカスも
とうとう直接彼を連れ出した。




