第三十四話「休憩時間:後編」
雪桜に連れていかれた先は、
あの若が捕らえられていた屋敷と同じような和風の家だった。
ガラガラと扉を横にあける雪桜。
「上がって上がって」
そう言いながら、玄関で彼女が下駄を脱ぎ、
ドタドタと中へ入っていく。
「デカい家だな」
「あの人、海守組の幹部家系っすから
そりゃ金はあるでしょうね」
「へえ」
そんな風に話していると
「そっちの部屋で待っといて」
そう遠くから聞こえる。
その声の通り三人は畳の敷かれた部屋で座布団で座った。
程なくして彼女が部屋に入ってきて
「沸いたで
まずは女子からいくか?」
「じゃあ、それでお願いします」
そう言ってリリーとサラが立ち上がり、案内された先には、
個人の家にあるには分不相応な大きさの脱衣所だった。
「・・・・風呂屋?」
「んなわけあるかいな
ウチの家や」
三人は各々服を脱いでいく。
布と肌がこすれる音が鳴り、
彼女らの体がそれぞれさらけ出されていった。
「あなたも入るんですか?」
「なんや嫌か?」
「そういうわけではなっすけど・・」
「固いこと言いなや、それに腕使えんのやろ
手伝ったるわ」
リリーは何も言わずに
服を脱いで、風呂場に入っていく。
女性的な体の膨らみは人並みかそれ以上にはみられる彼女の体は
とても筋肉質でその筋がくっきりと浮かび上がっている。
そして、その体には顔や腕と同じ無数の縫い跡と火傷の跡、
雪桜もサラも目が吸い寄せられるほどの戦歴を物語る体だ。
だが、それが彼女なのだ。
自然にリリーは服を脱いで、浴場に向かっていく。
「服はそこ入れといて、
あ、後、先に体洗ってやあ」
後ろから聞こえるその声に後ろ手で返事をしながら
入ったその前に広がっているのは
いったい何人が入る想定なのかと問いたくなるような
大浴場でいくつも体を洗う場所があった。
いくつもの湯船、シャワーを浴びる場所がずらりと並んでいる。
そして、その後ろはガラス張りだ。
その曇りガラスの結露をふき取り、
外を覗くと、そこには石造りの温泉が広がっている。
しかも、そこは天井が開いていて、外気の感じられるその大浴場は
ごつごつとした石が並べられ、床も固く冷たい石が見え隠れする露天風呂だった。
一方、脱衣所では、裸の雪桜がサラの服を脱がしている。
並んだ二人は、二人とも同じぐらいの背丈だが、膨らみの大きさはずいぶんと違った。
雪桜も小さいわけではないが、サラの体の前では平凡と呼ばざるを得ないだろう。
それは服の上でも明らかだ。
「・・いっ」
折れた右腕に刺激が走り、少し声が漏れてしまうサラに
「大丈夫か?」
と優しく声をかける。
「痛いんやったら体拭くだけでもいいと思うで?」
「・・・・」
「そんなに入りたいんか?」
「・・・・・」
目をそらし、恥ずかしそう顔を赤らめながら少しだけ首を縦に振るサラ。
「はいはい、じゃあ力抜いて」
目を閉じて体の力を抜いたサラに
向かって雪桜が手をかざす。
彼女も何かを念じるように目を閉じると、
サラの服が彼女から浮いた。
そして、少しずつ破けていく。
ビリビリと繊維が裂ける音が響き、包帯を残しながら、
その豊満で、締まるところは締まっているサラの体が露になっていった。
そして、破けていった服が雪桜の手元に集まっていき、
「はい、終わり」
その声と共にサラが目を開けると
雪桜の手には彼女が来ていた服がすべて元通りになっており、
それを抱えていた。
「・・・・・クラス4の魔法って便利っすね」
「こんなしょうもないことに使ったんは
これが初めてやわ」
抱えているそれを彼女は魔法で浮かして
脱いだ服を入れる大きな木の網目上の入れ物に入れた。
「それにしても・・・・・」
彼女がサラをよく見る。
「なんすか」
雪桜の目が彼女の胸に吸い寄せられる。
「こんなもん付けて、ようあんな動けるなあ」
そう言って雪桜は不思議そうな顔で胸を触った。
その手が彼女の柔らかな双丘、大山に吸い込まれ、指が沈んでいく。
「ごっついなあ」
感触を楽しむように
少しだけ握る彼女へサラが声をかけた。
「そんなに楽しいっすか」
今にも右手が飛んできそうな態勢の彼女とは裏腹に平静を装った声が彼女に届いたが、
その視線は明らかに敵意と怒りが込められていて、簡単に雪桜に伝わってくれた。
「ごめん、ごめんて
でも、女でも気になるやろ、こんなん!」
謝りながらも開き直る雪桜に
「・・・・はあ」
大きなため息をつきサラは温泉の方へ向かう。
その後ろに雪桜もついていき、
「ごめんやん」
三人は並んで体を洗う。
それぞれ綺麗な銀色と金色、茶色の髪を洗い、
戦いで着いた汚れを洗い流すと、
三人は外へ出た。
「なんで、こんなのが個人の家にあるんすか」
「別にウチの代で出来た湧けちゃうからしらんわ。
何代も前の祖先の誰かがこういうの好きやったんやろ」
外気が感じられる露天風呂
そこへゆっくりと浸かっていく三人。
「はあ~~~
生き返るわ~~」
雪桜は感情が漏れ出て、体を伸ばす。
リリーも満足げに足を延ばし、目を閉じていた。
「さっきの大浴場といい、
一人で使うには広すぎないっすか?」
サラは小さく座り、いたずらっ子のような顔で
雪桜にそう聞いた。
「実を言うと、ウチは大家族やねん。」
「へえ、どれくらい?」
「ええと、両親に弟三人、妹二人、
じいちゃんとばあちゃんも住んどるし、
いとこもたまに来るかな」
「そりゃ凄いっすけど、
今はどちらに?」
「戦えん家族は遠くに避難させとる。
今は革命だの、来とったアダムだの
色々あったし、これからもあるやろ?
戦える兄弟たちは今も組本部の復旧やっとるわ。」
「それで、あなたは温泉でくつろいでるわけっすか」
「さ、さぼっとらんわ!
ほ、ほら、お客さんもてなすはちゃんとした仕事やろ?」
「どうだか」
三人に束の間の癒しのひと時が訪れる。
おしゃべりもそこそこに、体へと染み渡る湯の暖かさを感じていた。
流れるお湯の音に、顔に当たる少し冷たい風の感触、
体が少し艶を持ち、ぬめりがついているような気もする。
体の芯が暖かくなっていき、三人の体が緩んでいく。
サラの足も心なしか楽になっていた。
そこから数十分、三人がそこから動くことはなく、
ある一人も含めてため息が漏れた。
「はあ」
どうやら一人は
「おせえな、あいつら」
意味が違うらしい。




