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evil tale  作者: 明間アキラ
第三章 「順応」 ー第三地区編ー
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第三十三話「休戦」

飛び交う砂塵、踏み足で宙に舞う瓦礫


数秒のうちに

部屋のあちらこちらから聞こえる衝突音


それはすべて二人の男がやったことだった。


(速えな)


ルーカスがアダムの踏み込みから逃れるために

後ろへ、左右へ、時には前へ跳ぶ。


しかし、アダムは彼へ確実に追いつき、

拳での一撃を食らわせてきた。


「うぐっ!」


(リリーは・・・ガス欠か)


リリーは後ろで壁を背にへたり込んでいる。

外傷はあまり見られないが、凄まじい汗と蒸気を

体から発生させて、辛そうに浅い呼吸を繰り返していた。


(援軍は期待できない

むしろ相手の増援の方が来る)


アダムの拳がルーカスの腕の上から突き刺さる。


(逃げ回れる相手でもない)


そう思って自身の頭を守るため防御を固めた。

だが、そこで止まったのをチャンスと言わんばかりに、

防御の上から拳の雨あられが降り注ぐ。


ダダダダダダという

何重にも重なって聞こえる打撃音と

腕の残像が何本もルーカスの目に残るほどだ。



着ている服も破け、その中の肌も切り裂かれる。

黒い管が浮き出た肌が見え傷が入ってもすぐに治るものの

またすぐに新しい傷が出来上がる。


ルーカスは本能的に手を頭の近くへ置いて、

それを前にクロスさせ、頭へのクリーンヒットだけを防いだ。


だが、もちろん、守られていない彼の腹部や足への

打撃はすべて綺麗に当たることとなる。


「ぐっ! アアァ!!!」


何十度目かのアダムの右拳が腹に刺さろうとしたその時、

ルーカスの速度も上がる。


一瞬だけアダムと同じ速度に追いついたかと思うと

二人の右拳がお互いへ同時に当たり、

二人は互いにズルズルという音を立てながら後ろへ飛ばされた。


バチンッ!!

という音と共に二人の間に距離が開く。


(リリーはガス欠、あのアダムってやつはブチぎれてて俺以外目に入ってない、

他の連中はいるかいないかわからんか・・・・)


周りをぎょろぎょろと見るその目の白と黒が入れ替わり、すぐに戻る。


「ハハ」

ルーカスの口角が上がる。


「モウこうなったらシカタねえか?」


そんな時だった。

突然、アダムから

「え」

と声が漏れ、目から涙が零れ落ちた。


「嘘だろ、アリス、おい」

誰かの名前をつぶやきながらうろたえている。


(なんだ?)


頭を押さえながら、俯き縮こまり

まるでこの世の終わりのような顔で泣くアダム。


(チャンスか?)


ルーカスが体に力を籠める。

「アアアアア」

腕の先が暗くなり、体表を穴のような黒が覆っていく。


スーツの下から何かが突き上げ、破ろうとしたその時、

部屋の穴の一つから海守組の組員が何人もぞろぞろと魔導銃を持って部屋へ入ってきた。



「チッ」


ルーカスは舌打ちをして、体を普通の人間に戻す。


(こっちもやんなきゃいけないのか)

そう思い、彼が組員らに向き直った時、

その銃口が一斉にアダムへと向いた。


「撃てえ!!!」


火の玉がアダムを囲う。それらはアダムの周りで掻き消えていて、

彼がそれに大した反応を示すことはないが、

周りを見渡し、ルーカスを睨んだ後、


「・・・・・・」


彼は何も言わずに天井を突き破り、

屋根を伝って、そのまま遥か彼方へと跳んで行ってしまった。


そして、ルーカスは組員たちと向かい合う。


壁にへたり込んでいるリリーもどうにか立ち上がり、

彼らと戦う姿勢を見せるが、事が起こるより先に

見覚えのある顔が彼らの前へ現れた。


「すまない、もうあんたらと事を構える必要はなくなった。

だから、頼む。もう矛を収めてくれ。」


ジョージだ。


ルーカスは後ろを振り返り、リリーと目を合わせる。

リリーも頭の上に?を浮かべながら彼を見る。


その次の瞬間から組員たちの態度が180度切り替わり、

まるで高級クラブのVIPみたいな待遇になる。


彼らの誘導に従って、歩いていくと

ソファが並んだ応接間のような場所へと通され、

二人はソファに並んで座らされた。


その向かい側にジョージが座り、開口一番

「申し訳ない」

と言い、薄い頭皮をあらわにして必死に謝りだした。



「・・・・」


何を言って良いのかわからないルーカスは反応に困り、

リリーは終始無言だ。


「・・・その、よく知らないんだが、

とりあえずあのアダムってのはあんたらの味方じゃないってことでいいのか?」


「ああ、その通りだ」


「・・・・どうなってんのか俺らにはさっぱりだよ」


「本当に申し訳ない」


「・・・・・・」



ルーカスがジョージに応対していると、

肩に何か重みがかかる。

そして、それが無くなったかと思うと

またかかり始める。


「あん?」


そちらを見るとリリーの頭がグワングワンと揺れて、

彼の肩に度々寄りかかっていた。


「ええと、私はやっぱり出てましょうか」

「・・・・・その方がいいかもな」


その言葉を聞くとジョージは外に出ていき、

リリーはグーグーと寝息を立てて完全に眠りに落ちていってしまった。


ルーカスも少しソファに体を預けゆっくりと深く呼吸をする。


(サラがうまくやってくれたのか?

全く最近は急でよくわからないことが多いな)


上を見上げ、物思いにふける。

すると、部屋のドアがノックされ、


「すいません。今よろしいでしょうか」


少し震えた小さな男の子のような声がドアの外から響いた。


「・・・どうぞ」


ルーカスがそう言うと、入ってきたのは幼い男児だった。


和服のようなものを着ているその子供は、草履が片方脱げていて、


足をドロドロに汚しながら彼らがいる部屋に入ってきて、頭を地に付けた。


「ぼ、僕のせいで皆様に多大な迷惑を、おかけしました!!」

たどたどしい声で言葉をつなげ彼らに向かって謝り始めた男の子。


「・・・・・・・・」

ルーカスがなんともなさげに

彼を見ていると、更にドアを叩くものが現れる。


「す、すいません。若、何をなさっているんですか、皆さん疲れてんすよ

こっちきてください」


「え!? あ、ごめんなさい! ほんとにごめんなさい!」


必死に謝りだす子供は組員に連れていかれ、また部屋には静寂が戻った。


(・・・・・俺も休もうかな)


そうやってルーカスが目を閉じようとした時、

今度はノックもなしに扉が勢いよく開かれる。


バンッ!

という音と共に

入ってきたのは二人の女。

片方は見覚えのある金髪のエルフで

それに肩を貸しているのは獣人の和服を着た女だ。


(巫女? 和服はさっきもいたか

あの坊ちゃんもそれっぽかったし)


その獣人がルーカスを見つけると

「あんた、サラはんの仲間よな」

と言った。


「・・・・・・・多分」


「なんや、多分て

じゃあ、この娘頼んだで」


彼の元気のない声に、彼女はそう言い放って

横の椅子にサラを座らせて部屋を出ていった。


彼の横にいるサラの右腕には包帯でぐるぐる巻きに固定され、

他にも多くの切り傷がある。


座らされてからも死んだように動かない。


「・・・・死んだか?」

ルーカスがふとそう口にすると


「勝手に殺さないでください」

とサラは心底しんどそうに口を開いた。


「報告でも聞きましょうか」


「アダムとジャン、海守組とやりあって、ジャンを殺害。

海守組は、多分死んではないはずだ。

それ以外は知らん。というか、こっちが聞きたい。何があったんだこれ」


「わからないのによくあんなに人煽れましたね」


サラの疲れた顔に少し笑顔が戻る。

いたずらっ子のような笑顔で微笑んでいる。


「・・・まあ、そうした方がよさそうだったし、

煽りは・・・・なんでできたんだろうな。我ながら人の悪口を言うのはうまいらしい。」


「そりゃ上々っす。リリーさんは強いんすけど感性が独特なんで

察しのいいルーカスさんがいてくれてよかったすよ」


「そりゃ、どうも。

そんで、これは何が起きてたんだ?」


「ここの跡取り息子のお坊ちゃんが人質に取られてて、

海守組本部が中央政府から派遣されたあのアダムっていうのと他数名の傀儡になってたそうっす。」


「へえ」


「・・・・聞いた癖に興味なさそうっすね」


「まあ、終わったことだしな。でも、少しはスッとしたよ」


「お坊ちゃんって言うと、あの子か」

「会ったんすか?」

「さっき、足ドロドロにしたまんま

ここにきて頭下げてきたよ」


「へえ、そうっすか・・・・・・できた子供っすね」

「みたいだな」


二人の会話が途切れ途切れになっていく。

段々と部屋全体を静寂が包み

気づいたころには三人ともソファで眠っていた。


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