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evil tale  作者: 明間アキラ
第三章 「順応」 ー第三地区編ー
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第三十二話「一転攻勢:後編」


民家の上へと駆け上がる二人、

その後ろから触手が迫っていた。


サラは、痛みの余韻で吐きそうになりながらも

化け物の気配を感じ取り、小声でささやく。


「来るっす」


その言葉を聞いた雪桜は彼女を担いで上へと上がっていった。

もうさっきまでの俊敏さは発揮できないが、

それでも素早い身のこなしで階段を駆けあがり、

窓の外へと出て、二人は屋根へと登っていく。


「まだ来るっす」

「おう」


そのまま雪桜は民家の屋根から飛び降りる。

後ろでは民家から触手が屋根に突き出ては引っ込み、

壁を突き破って、どんどんと民家がボロボロにされていた。


「飛んでください!」

「あんまもたへんぞ!」


雪桜がサラを脇腹に抱えながら空中に浮かんだ。


浮遊し、小走りぐらいの速度で、化け物の方を向きながら

後ろに向かって空中を進んでいく二人の前に瓦礫の中から化け物がまた体をあらわす。


「サラはん? これでどうすんねん。」

「屋敷の地面にあいつを立たせればいいんです。」

「そうか、じゃあ」


二人はどこか安堵していた。

化け物は必ず歩いて自分たちに近寄って来る。

触手や槍を飛ばしてこようと、必ず近づきはするはずだと。

ならばこのまま飛んで、あいつからの遠距離攻撃だけ気を付けていれば

サラの言う反撃の一手が打てる。


そう思っていた。


だが、

化け物は民家だったもの上でうなだれた。

背中を丸め、両手を下にだらんと下げている。


不可解な動きを見せたかと思うと

その化け物の触手が伸び縮みし始めた。


「なんか嫌な予感すんねんけど」

「奇遇っすね」


そして、触手は翼に形を変えた。


「まずい!」


化け物が跳び上がり、羽ばたいて、彼女らに近寄る。

「避けるなんてできへん」


彼女がそう言いかけた時、

彼女の脇腹にあったはず感触が消えた。

そこにいたはずの者がない。


それに気づいて彼女が周りを見た時、

地面にサラが落下していた。


そして、

化け物に向かって懐にあった拳銃型の魔導銃を撃ち

「こっちすよ!!!!」

そう大声で叫んだ。


「おい、ちょ」


サラが彼女に向かって指を立て、自身の口元に置く。

そして、そのまま彼女は下に落ちていった。


地面に両足で立ち、

地面にひびが入るが、

「はあ」

神経を集中させて、声を出すとそれが元に戻った。


そして、化け物に向かって叫ぶ。

「何から何まで謎めいたバケモンすけど

音には敏感見たいっすね!!」


その声を聴いたのか化け物はない頭を彼女へ向けて、

翼を羽ばたかせて、彼女の方へと近づいてきた。


大声で叫び、化け物をまっすぐ見据えるサラ。

そのサラが左腕を直角に上げた。


そして、サラが後ろをちらりと振り返る。

歯を食いしばり、今にも泣きだしそうな必死な顔で

浮いたままの雪桜にしっかりと視線を送り、何かを伝えている。


(なんや、なんや、なにが言いたい?

喋ったらあかんねやろ。あれは何や)


そして、サラの手の親指が背中へ向き、

何度かその方向に手が動き、

後ろを向いていた彼女が化け物を見つめ直した。


(化け物、背中、)

しかし、雪桜が考える間もなくもうすぐそこまで迫ってきた化け物、

その方向へサラが勢いよく手を振り下ろした。


(伝わってください!!)

その切なる願いは

彼女に届いた。



後ろで響く雷が迸る音、

荒い女の呼吸、

勢いのよい吐息が聞こえたかと思うと、

「はあ!!!」

という掛け声とともに、

轟音をたてて、

赤い雷光が化け物に降り注いだ。


その翼を赤い雷がどんどんと溶かしていき、

更にその余力で持って、飛んでいた化け物を地面へ撃ち落とした。


そして、その瞬間、

化け物が堕ちた地面が崩れる。


バキバキと音を立てて崩れ落ち、

その下には、今まであった地面が仮初であったのではないか

と思わせるようなそこの深い穴があった。


化け物はその深い穴に落ちていく。


翼を溶かされ、再生するまでの数秒間、その大穴に落ちることになるだろう。

それを嫌った化け物は脇腹の手を穴のおおよそ端であると思われる場所に伸ばし掴もうとした。


だが、それに触れた瞬間、

その穴の壁であり、端である場所が

一気に崩れ、土砂があふれ出した。

それに化け物は飲まれていく。


ガラガラガラと音を立て

大量の土砂が今まで追いやられていたストレスを発散するように

溢れ出し、その穴を埋めるようにその化け物ごと埋め立ていった。





サラが立っていた地面もそれと共に崩れる。


(やった。終わった・・・)


化け物が落ちていくのを確認したサラは

体の力が抜けて、

そのまま崩落に飲まれそうになる。


「サラはん!!」

そこへ、

雪桜が近寄り彼女の服の襟をつかんだ。


「おい、ちょっと、ウチかてもう無理やって

がんばってえなあ」


どうにかこうにか必死に上に浮かび上がり

崩れていない民家の屋根に二人は転がった。


「はあぁ~~」

雪桜が大きく息を吐いて寝ころぶ


サラは深く呼吸をしながら、ぐったりと横になって動かない。


「ようやったなあ、こんなん」

雪桜が荒い呼吸の中、彼女へ声をかけた。


「こんな罠にもならない罠、

魔獣以外で初めて通じったすよ」


「そうか・・・」


喋ることもままならない状態だが

昂った感情は彼女らに口を開かせる。


「はあ、はあ・・・・なあ」


「なんすか」


「ありがとうな」


「・・・・・どうも」



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