第三十一話「共闘:後編」
「はあああ!!」
雪桜が前に出る。
それと同時に化け物も雪桜に向かって突進した。
だらんと垂れた腕を横に振り、凄まじい速度で前進してくる。
それを彼女は屈んで避け、
次々と迫りくる赤ん坊の手、触手、槍をどうにか避けていった。
飛んでくる赤ん坊の手を切り落とし、
触手が上から彼女を叩き潰そうと振り下ろされるのを横に跳んで避け
刀さばきで、飛んで来た槍の先を払い落とす。
そして、手に雷を作り、赤い雷光で化け物を撃つ。
電撃は当たったところを熱し、黒い体表を溶かしていくが
化け物の再生はそれに追いついているらしい。
溶かしては治され、溶かしては治され
芯をとらえている気はしなかった。
「ああ、もう!!」
その雷撃も気にせず、化け物が前に来るからだ。
腕を垂らし、体を左右に揺らしながら一足で飛び込んでいく。
触手や槍で攻撃し、両手を横に開きながら
抱きしめるように突っ込んできた。
雪桜はそれを刀を突き出して、化け物の胸に突き刺し、
「ぐぅう!!」
声をあげて、化け物を正面から受け止めた。
突進の余力によって雪桜の足が地面にめり込み、
後ろにズルズルと下がっていってしまう。
「サラはん!?
まだ時間かかるか?!」
後ろを振り返ると
そこではサラが地面に手をつき、何かをしていた。
「もうちょいっす!」
「そうかあ!」
雪桜は必死に踏ん張り、
化け物の体の動きを止める。
しかし、
その体の動きを止めるのに必死になっている雪桜に対して化け物の触手や槍が襲って来る。
それを彼女は
「はあ!!」
という気合のこもった掛け声とともに
体の周りに薄ピンク色の透明な膜を張って防いだ。
その膜に槍や触手が当たると、滑るように触手が横にそれて床を砕き、
槍が滑って屋敷の塀を貫いていく。
その膜に何発もの槍が放たれ、何度も触手が叩きつけられた。
「まだかぁ?!」
後ろを向いて声をかける雪桜だが、
攻撃は膜にすべて阻まれているにもかかわらず、彼女自身も少し辛そうだ。
額からは汗を流し、顔には苦悶の表情を浮かべている。
その視線の先のサラは雪桜の顔を見ながら
首を横に振っていた。
「そうかぁ!」
それを聞いて、雪桜は大声で自分に喝を入れながら前へ化け物を押そうとする。
そこへ何度も振り下ろされる触手。
鞭のようにしなり、巨大なハンマーのように打たれるその攻撃によって膜が薄れていく。
「も、もうもたん」
彼女がそう言った直後、
サラが
「もうちょっとっす!!」
そう大声で叫んだ。
だが、その瞬間、
サラに向かって化け物の赤ん坊のような手が伸びていく。
「うっ!」
それをサラが頭を少し動かして、寸でのところで躱すことができたが、
横なぎに振られた触手に対して為す術がなかった。
触手が彼女を捉え、塀の方向へ吹き飛ばされる。
バットで打たれた球ように飛んでいったサラは
塀を突き破って、となりの家屋に突っ込んでようやく止まることができた。
「サラはん!」
それに気を取られた雪桜も
化け物の右手の薙ぎ払いをもろに食らい、
道に落ちている石でも蹴ったかのように、簡単に吹き飛んでいった。
吹き飛ばされた先の屋敷の中で、雪桜は刀を支えにしながら立ち上がる。
「はぁ、はぁ、サラ、はんは・・・」
気配を感じ取り、サラがどこにいるか確かめようとしたが、
それよりも先に彼女自身がその居場所を的確に教えてくれた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
凄まじい絶叫がこだまする。
その頃サラは、透明な液体を口から吐きながら床をのたうち回っていた。
幸い、外傷は右手が変な方向にひしゃげただけで命に別状はない。
しかし、彼女は紫色に変わった右手を押さえ、
理性も何もかも放り出し、ただただ苦痛に悶え、悲痛な叫びをあげていた。
涙か唾液か、それ以外かわからない液体でぐちゃぐちゃになった顔で振り乱し、
頭の中にあるのは
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
それだけだった。
(あれはもう立てへん・・・・でも・・・まずい!!)
雪桜はあの化け物が声に反応したのか、彼女の方へ向いているに気づき、
駆けだした。
化け物には見えないように屋敷を通り、迂回して、サラの元へ駆け寄る。
するとそこには苦痛に悶える彼女がいた。
そんな彼女の折れていない方の手を掴む雪桜。
しかし、
「あ゛あ゛!!」
と悲鳴を上げて、サラはのたうち回ってしまう。
その様子に絶句しながらも雪桜はサラの服を掴み、
再びやってきた触手を避けながら、民家の奥に逃げていった。
化け物が着々と迫る中、雪桜は台所に逃げ込み、
床にサラを寝かせた。
その頃にはサラも少し落ち着いたのか叫ぶのをやめ、
大きく、荒く、息を吸って入ってを繰り返すまでにとどまっているが、
目から涙を流して、苦しそうにしていることは変わりない。
一方、雪桜も肩を上下させながら壁に寄りかかると
そのまま力なく座り込んだ。
「サラ、はん、聞こえとるか?」
「すぅー、すうー、はぁ、はぁ、」
サラは喋らず、頭だけをゆっくりと振る。
「ウチも、結構ヤバいんやけど、アンタの方がヤバそうやな
アンタが言ってた策も失敗か?」
元気のない、疲れた声でそう話しかける雪桜の声に
サラは何とか返事をした。
「ま、まだ、で、す。
仕掛けはでき、ました。」
今にも途切れそうな声でどうにか言葉を紡ぐサラ。
「そうかぁ、でも、こっからどうする?」
「あ、あいつを・・屋敷に」
「このぼろぼろの二人で?」
「あ、あなたは」
「ウチもこう見えて、今あんたを助けたんで結構ギリギリやねん」
力なく笑う雪桜。
「なんなら、このまま寝たいぐらいには」
「そ、そうっすか」
そう言うとサラは震える足で立ち上がろうとする。
壁に手を突き、目とその奥にある瞳孔が完全に開かれていた。
「お、おい、サラはん、そんな体で」
「だったら、なんすか」
執念に満ちた声が部屋に響く。
決して大きくはない低く、息の混じった声だが
例えそれが聞こえていなくても、彼女の意志は伝わっていただろう。
「もう、止まれない、んすよ。
私も、兄様も、皆みんな」
彼女の目が雪桜に向く。
その目から溢れ出す激情に
雪桜は魅入られてしまったのか、
目が離せなくなった。
「あなたができないなら、私が、やります。
逃げたいなら、逃げてください。
ここで無駄死にするより、は、ずっといい。」
息も絶え絶えになりながらもそう吐き捨てて、
サラはよろよろと腕を抑えながら歩いていく。
「待ちいや」
雪桜も立ち上がる。
「屋敷に戻せばいいんやな?」
そう言って、サラの前に立つ。
サラの顔に少し、皮肉るような笑顔が戻った。
「限界なんじゃないんすか?」
そういう彼女に雪桜は呆れるような口ぶりで力なく笑う。
「ああ、ほんと、跳んだり跳ねたりはもうできんやろなぁ
魔法も・・・雷撃が10秒ぐらいか、」
「私よりも役に立ちそうじゃないっすか」
二人で力なく笑い、外へと向かっていく。
あの化け物を倒すために




