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evil tale  作者: 明間アキラ
第三章 「順応」 ー第三地区編ー
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第三十話「最高」

ある屋敷がある。屋根には黒い瓦、

その周りは、白と茶色の壁に瓦のついた塀に囲まれている。

ルーカスが見たら、一目でこう思うだろう。

「和風だ」と。


水生魔獣が住んでいる大きな池、

池のふちにあるシーソーのように傾けられた軽く硬い半円柱型の板

そこへ水が降り注ぎ、その重さに打たれて、

ときどき、かこんっという子気味のいい音が屋敷に響き渡る。


襖で区切られた部屋に、横へガラガラと開く様式のドア

ごつごつとしてより自然に近い石の道


そんな和を思わせる屋敷がある。


そこへ茶髪の獣人が歩いてきてた。

和服のようなドレスを着ている女で、

どこか和風の巫女にも見えるだろうか。


腰には刀を差し、高い下駄を履いた女は

コツコツと足音を立てながらその屋敷に入っていった。


片手で金髪エルフの襟をつかみ、ずるずると引きずりながら。


その女が中に入り、

縁側から下駄を脱いで屋敷に上がり、

襖を大きく開けて、大部屋に入る。

そこは、畳の広がる部屋だった。


部屋の奥には縦軸がかかり、部屋は畳独特の香りが広がっている。


そして、

スーツを着た白髪交じりの中年男性、


生気のない目でどこともわからない人形のような黒髪の少女、


そして、部屋の隅で膝を抱えて、縮こまり、

ガタガタと震えている一人の少年が部屋の中にいた。


そこへ女はずかずかと歩いていく。

そして、中年男性の前へ手に持っていた金髪のエルフを投げた。

力なく放り投げられ、何の声も発さないそのエルフは

ショートカットのジャケットにタイトなスカートを履いている。

それがうつぶせに捨てられた。

そうして、女は不機嫌そうに口を開く。



「向こうでトラブル発生、そのうち一人がコイツで

逃げて来とったから対処しといた。多分死んどるから、後頼んだで」


「こいつが調子悪いのはそのせいか」


男が少女を見る。

少女は虚空を見つめてぼけっとしていた。


「お前らで処理すればいいだろう。

天下の海守組さん総出でやればすぐに済む。」


その男もは少しバカにするような口ぶりで

口元をにやけさせながら、そう言った。


「・・・・ウチらはそないな仕事しとらん。」

「本当かぁ?」

「・・・・・・・」

ゴミを見るかのような目で男を見た後、

彼女は少年の方へと近づこうとする。


「おい! 何しようとしてるんだ?」

だが、すぐ男に静止された。

「若に挨拶ぐらいさせてくれや」

「必要ないだろう。

とりあえず死体処理はやってやるから

お前はさっさと帰れ。

死体が増えるだけだぞ」


「ウチがあんたらにやれるとでも」

そう敵意に満ちた目で彼を見るが


「お前じゃない」

そう言って男は指を少年に向けた。

すると少女の顔もそちらに向く。


「さっさと帰れ。」

そう言い放つ彼。


それに対して女は

「すみません。若。もう少しだけ辛抱してください」

と言いながら頭を下げた。


「ユキ姉ぇ?・・・ううん…ごめん、僕の方がごめん」


それを聞いた少年は顔を上げて泣きながら謝る。

涙と嗚咽でぐちゃぐちゃになった顔がさらに涙で濡れていた。



「若が謝ることじゃありませんよ。」

優しく女がそう口にする中、


「さっさと行けと言ってるだろう!!

あんまりぐずぐずしてると小僧の耳でもそぎ落とすぞ」


男が汚い唾をそこら中にまき散らしながら

怒りをあらわにして、大声で言い放った。


「さっさと行け!」

そうやって急かしてくる男。


彼が何かを言おうとした次の瞬間、

まず雪桜と呼ばれた女が少年の方へ跳んだ。


そして、次に、

男を火の玉が貫いた。

胸に穴が開き、じんわりと熱い。

穴は明るいオレンジ色に彩られ、

出てくる赤黒い血液は、ぐつぐつと煮え、

煙すら吹き出ていた。


何が起こったかわからない男は、とりあえず命令を出そうとする。


だが「がっ、はっ、」息がうまく出せない。

きっと肺でも貫かれたのだろう。


それでも、男は次は体を動かして、指を少年と女に向けた。


少女がその方向を向こうとしたその時、

さらにもう一発が彼の頭を貫いた。

力なくパタンと倒れる男の赤い血が畳にゆっくりと広がる。


「ユキ姉!」

少年と女が抱き合う。

二人とも互いの背中に手をまわして

しっかりと抱き合い、今までぬぐえなかった分まで

雪桜は少年の顔をぬぐった。



(・・・さっさと逃げろよ)


男を貫いた火の玉が開けた穴の先、

壁の奥を超え、向かいのその向かいの屋敷の天井、

そこには、見慣れない格好をしているものの

まごうことなきサラがいた。


「当たった・・・すかね」


大きなポケットの付いているダボっとした黒いズボンを履き、

肌着のタンクトップシャツ、その上にジャケットを羽織っている。

ズボンはベルトで止められていて、そこには拳銃や大きなナイフのような物が取り付けられていた。

ごつい黒のブーツを足に履き、ズボンやジャケット、ブーツには時折水色の光の線が

何本か走っている。


そんな格好をしたサラは

構えながら意識を集中し、目を閉じる。


(ああ・・・しくじった、みたいっすね)


その頃、女の背の後ろで屋敷の中で少女が変形していた。

黒いタール状の液体が少女の身を包み、その中からでてきたのは

人間の女性のような体をした化け物だ。


胸のあたりにある丸み、腰つきや肩幅、背丈は160cmほどだろう。

人間の女のようではあるが、

頭があるべき位置にはやはり何もなく光沢のない真っ黒な円柱の断面があるだけだ。


かぎ爪の付いた両手は不自然なまでに長く、腕は肩から膝までの長さがあり、だらんと垂れている。


肋骨があるような位置からは赤ん坊のような手が二つ左右に一組あり

その下には槍のような突起が同じように突き出ている。


更に、その背中から、二本の大蛇のような触手がうごめいていた。

伸び、縮み、うねり、くねる。 

生物なのかすらもよくわからない化け物がそこにはいた。



(過剰感覚)

そよ風すら滝に打たれるような痛みに変わるが、

サラはその痛みの奥で屋敷の中を把握する。


(もう慣れてきたっすね。

さあて、中は・・・・)


「あのお坊ちゃんとユキザクラさんは無事

・・・はぁ、今からは無事じゃないかもしれないっすねえ」


屋敷の中では獣人の女が後ろに少年を隠しながら

化け物と向き合っていた。


腰にある刀に手をかけ、化け物の行動に備える雪桜。

その禍々しい怪物を必死な形相で睨み付け、

じりじりと下がりながら少年を逃がそうとしている。



サラは魔導銃のダイアルを押し込み、構えなおす。

自分の背丈はあろうそれを化け物に向け、引き金を引いた。


凄まじい速度で飛んでいく赤い光は

蜘蛛の糸のような跡を少し残しながら化け物に接近し、着弾。

屋敷もろとも吹き飛ばすような爆発が起こった。


(・・・・・・まじっすか)


爆発の中、屋敷が燃え、瓦礫や木片となっていく中、

その化け物は変わらずそこにいた。


そして、雪桜をその触手でとらえている。


「あ゛あ゛!」

「ユキ姉ちゃん!」

「は、はよ、逃げて!」


逃げ遅れた雪桜へ少年が手を伸ばすが、

それを遮るように雪桜が叫ぶ。


「逃げてください、逃げええや、若ぁ!」


しかし、その彼にも触手が迫る。

それが少年を掴もうとした時、

その触手が火の玉で貫かれた。


そして、それとほぼ同時に、

塀の上にガシャンと誰かが着地した。


巨大な魔導銃を持ち、

背中にはギターケースを担いだサラがそこに降ってきていたのだ。


いつもの貼り付けたような笑顔は剥がれ落ち、

細く開けられた目でじっと化け物の方を睨み付けるように見る

彼女の顔はいつもよりも険しく、静かに怒っているようにも見えた。


「大丈夫・・・じゃないのは見たらすぐにわかりますね」


サラは顔を化け物の方へ向け、少年へ目を配る。

そして、ぶっきらぼうに言い放った。


「ユキザクラお姉ちゃんがどんだけ大事か知りませんが、

そんなに大事ならちゃっちゃと逃げてください。

この人が死にそうになってる意味がないっす。

それに、ここに子供がいても役には立ちませんので」


それを受けて、少年は屋敷を出て、走っていった。

涙にぬれ、ぐちゃぐちゃになった顔のまま腕を振ってがむしゃらに走っていく。

どこへ向かうのかは知らないが、ここにいるよりはましなのだろう。


「はは、あんたそっちの方が似合ってるんとちゃう?」

「喋る余裕があるならさっさと抜け出してくれないっすか?」


「それが、できたら苦労せんわ!」

雪桜は必死にもがくがほどける気配すらない。


そこへ、サラがあの巨大な魔導銃の引き金を引く。

片手でそちらを見ることもなく発射された青白い炎の塊は、

その触手をやすやすと貫いた。


雪桜が解放され、地面へ着地し、距離をとる。


化け物はやっとサラにも興味を持ったのか彼女の方にも体を向けた。


「何すかコイツ」

「ウチも知らん!」

「あっそうですか」


サラはけだるげにそう言うと、

魔導銃を化け物に向ける。


「はあ~」

大きくため息をつきながら化け物を見つめ、

いつもより数段トーンの低い、不機嫌そうな声を出した。


「ほんと、過剰感覚は今日も絶好調っすねえ

体中掻きむしりたくて仕方ないっす。」


引き上げられた感覚が

必要以上の刺激を体に伝え、彼女に苦痛となって襲い掛かる。

だが、サラは機嫌を悪そうにしながらも

平然としていた。


「今日は、味方と思ってたやつに襲われるわ、

列車襲撃されるわ、魔獣に追いかけられるわ、変態に付きまとわれるわ。

んで、急に追いかけっこが始まったかと思ったら

裏切り者に助け求められて、ガキ助けてくれって・・・・ああ、ほんと」


「最高の日っすね」

サラは呆れたような顔でそう口にし、

その圧はどんどんと強まっていく。


「こっちのストレスは最高潮っすよ。」

「なんか、ごめんな」

「アンタに言ってないんすよ。」

「・・・すまん」


触れるものすべてに当たり散らしそうな彼女に向かって化け物が動いた。


触手を伸ばして、彼女を捉えようとする。


それを察知するとサラはその触手をあっさり撃ち落とし、

三発目を化け物の体に向け、発射した。


だが、その火の玉は体に当たると掻き消えてしまう。


「はあ、本当、最高っすね」


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