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evil tale  作者: 明間アキラ
第三章 「順応」 ー第三地区編ー
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第二十九話「殺陣:後編」

「お前ら!! そいつを殺せ!!」

アダムが組員たちに号令を出す。

その時、リリーの目に写った

アダムの体は奇妙で奇怪なものになっていた。


アダムの体には、管があるのだ。

ルーカスに浮き上がるものと同じような物、

血管を思わせる体中にある管。

ただ違ったのは、それが水色だったことだ。


「はぁ、はぁ」

呼吸を荒くしながら、ルーカスの方を睨み付けるアダム。

水色の管がまさに青筋のように浮かび上がり、

怒りで歪んだ顔から熱い吐息が吐き出される。


そちらのほうへ歩き出そうとしたその時、

彼の顔が歪んだ。


彼の顔に拳がめり込み、足が宙に浮いて、後方へ飛んだ。


鈍い音を立て、壁にぶつかる。



だが、

アダムの歪んだ顔が元の状態へと戻っていき、

本人もなんともないと言った風にリリーに向き直り、睨み付けた。


「邪魔しないんだと思ってたが」


明らかに苛立ちのこもった声で、アダムはリリーに言い放つ。


しかし、

「そんなこと、言った覚えはない」

リリーもそう強く静かに言い返した。


「そうかい!」


叫びながらアダムが殴りかかった。

乱暴で、怒りに任せた右拳。


それは彼女の頬の真横を通り抜け、

彼の顔にはお返しの右拳が叩き込まれた。


バチンと音が鳴り、アダムはよろける。

リリーの拳はすぐさま彼女の元へ戻り、元の姿勢でリリーは彼を見ていた。


「クソが!」

また乱暴な拳がリリーに降り注ぐが

彼女はまたそれを躱す。

鮮やかなまでに紙一重で避け、今度も右拳をアダムが放った時、

リリーの体が彼の懐に迫る。


そして、彼女の右拳がみぞおちにめり込み、

「っ!」

苦悶の表情を浮かべるアダムの顔へ更にお返しがきた。


くの字に曲がった彼の頭に

左の肘鉄、頭を掴んでの膝蹴り、

それで上がった顔へ更に右拳が刺さる。


更に、

後ろによろけた彼に向かって彼女の体が回転する。


よろめき後ろに下がる彼を追いかけるように

右足を軸に体をまわし、左足が放たれる。


そのお手本のような後ろ回し蹴りが彼の腹に炸裂した。


さっきよりも凄まじい音がなり、

彼女の足の周りにできた空間のゆがみが彼を押す。


腹が歪み、嫌な音を立て、また後ろへと飛ばされるアダムだったが、

彼は何ともなさそうにそのまま立っていた。


「・・・・・・」

無言で彼女を見つめる彼だが、

深く息を吸うと、服を破いた。


上着を脱ぎ、破り捨てて、上裸になった。

鍛え抜かれた肉体の上に水色の管が浮かぶ。


右肩にある水色の集まりを中心として、あちこちに伸びるその管


それがどんどんとく鮮明に浮かび上がってくる

圧迫された太い血管よりもさらに太い鮮やかな水色の管

それに合わせてアダムの呼吸がどんどんと静かになっていく。


「ふぅー」


熱く怒りのこもった視線がどんどんと冷たくなり、

その人一人ぐらいなら軽く押しつぶしせそうな気迫が留まることを知らず

その圧を増していく。


それにあわせるようにリリーも彼と見合う。

二人とも一歩も引かず、そのまま膠着した。


(さっきの蹴り・・・入ったと思うんだけど・・・)


彼女の攻撃の跡はあまり見られない。

青あざの一つぐらいできていて不思議ではないが、

それもないらしい。


(ん?)


そのアダムが動く。

両こぶしを上向きに両手を上げる。

左足を前に出し、半ば半身になりながら

脇を絞め、右手を頬の横に左手をあごの先へ伸ばす構えを取った。


「へえ」


それをうけて、リリーも構えを取った。

足、重心は彼と同じようなものだが、

手の位置は彼とは対称的に左手を腰元、右手を胸の横においている。


(大分雰囲気が変わった)


二人の間合いがピタリと接し、

そこからピクリとも動かなくなる。

静かだが、凄まじい睨みあい。

それで空気が凍り付く。


そして、その空気を打ち破り

動いたのはアダムだった。


さっきの彼の数倍の速度、

映像を無理やり早回しにしたような

無茶苦茶な、素早い動きで彼女に間合いに入り、回し蹴りを放った。


鋭い一撃が彼女の脇腹に当たりそれが彼女を捉える。

そう思われたが、


「!?」


リリーは、歯車が回るかのように、その衝撃でグルんと回った。

手で滑車を押すようにぐるりと回転する。


回りながら飛んでいく彼女、

アダムはそのあまりの軽さに驚きを隠せず、

蹴りの勢いで自身の体が持って行かれそうになるが、

この明白なチャンスを逃せるわけがない。


態勢を瞬時に立て直し、空中で回転する彼女に追撃しようと距離を詰めようと踏み出す。


しかし、そのリリーは、次の瞬間、バク転の要領で手を地面につき、

態勢を立て直してきた。


まるで何もなかったかのように睨んでくるリリー

アダムが彼女に繰り出したのは左手による突き、いわゆるジャブだった。


そこから矢のように飛んでくる拳の連打は、

まるで格闘家のような綺麗な拳だ。


(意外)



(乱暴に突っ込んで来るのは変わらない、けど)

鋭く、速い、綺麗な拳

形上隙のない理論的な、何度も練習したのだろう拳の振り方


それが彼女の顔めがけて飛んでくる。

彼女は少し顔を動かし、屈み、背中を反り、

初めから何が来るのがわかっているかのように、

紙一重で躱している。


(すっごい教科書通り、それも格闘家みたいな突き

 こんなのしてくるようには見えなかった)


左と右を交互に前へと突き出し、横に振り、振り上げる。

その度に風切り音が彼女の耳元で響き、踏み込みの足が床をへこませ、変形させていく。


 

だが、そこへ彼女も応戦した。

右拳に合わせて自分も右拳を相手に合わせ、顔に拳を叩き込むみ、


それでもかまわず回し蹴りを仕掛けてくるアダムの足をしゃがんで払う。



そのまま追撃しようとしたリリーだったが、

倒れた彼はそのまま後ろへ転がり、腕を使って跳びあがると

そのまま元の態勢に戻り、二人の間にはまた睨みあいが始まった。



「・・・・」

「・・・・」

そこでも、またアダムが突っ込んでくる。

また拳の連打。

もう彼女には見慣れたそれをまた繰り返す。

同じことの繰り返しになるかと思ったが、

リリーは違和感に気づいた。


(速くなってる?)


拳の速度がどんどんと速くなっていく。

彼女の顔や体にかすり、頬を切り、服に切れ込みが入る。


(さっきので全力じゃない?

いや、それも違う)


何か普通の敵と違うという違和感を覚えつつもリリーは


「ん」

その一撃を繰り出すために前に踏み出した一歩、

その膝に蹴りが入れた。



そこへの衝撃によって、反射的にアダムが動きを止める。

物理的にも踏み出せないためそこで足止めされ、後ろに下がってしまう。


そこで、リリーが前に出た。

彼と同等がそれ以上の速さで近づくリリー、

彼女は前に出した右足をそのまま前に落とし、

一気に踏み込む。

肘で三角形を作り、まるでミサイルのように

飛んでいく。


それが彼の懐に届いた。


ドゴンっ!!

と通常打撃ではならないような炸裂音が響き渡り、

アダムは遠く後ろの方へと吹き飛んでいく。



後ろの壁を突き破って破壊しながら、

また後ろの部屋へ行ってしまった。


彼の砕いていった建材が

パラパラパラと細かく砕け、土煙を上げている。


その破片を踏みしめながら

アダムはまた帰ってきた。


腹がえぐれ、血や肉が漏れだしながら

彼は普通に歩いてい来る。

平然とした彼の態度に体が合わせるように

その傷がどんどんと治っていく。


赤色がなりを潜め、肌色になっていき、

彼の冷たい視線は変わらず彼女を捉えていた。


そして、また突っ込んでくる。


また横へ跳ぼうとしたが

間に合わず、ジャブとストレートの連打が今度はリリーを捕らえた。


両手で顔をカバーし、それを防ぐリリー。

そのがら空きの腹に、彼の右拳がめり込む。


「っ!」


それにつられて

彼女の手が下がることはないが、

両手の内側で苦悶の表情を浮かべていた。


(ワンパターンだけど速い・・)


じりじりと後ろに下げられていくが

リリーはとんで来た右拳を左手で捌きながら

左へ回り、そのまま後ろに下がった。


彼女が見えなくなったアダムの視界の先、

そこにはジャンがいた。


「・・・あんた」

彼がそう口を開いた時、

彼女の右足が彼の側頭部へ炸裂する。


「ぐぅッ!」

首が嫌な音を立てて曲がるが、

それもすぐに治った。


「クソが!」

そう言いながら

拳を振ってもリリーはもうそこにはいない。


「?」

何食わぬ顔でまた距離をとったリリーは小首をかしげた。

「どうかしたの?」

普通の調子でそういう彼女に


「・・・もういいさっさとやろうぜ」

アダムは苛立ちながらそう言い、

構える。


見合う二人だが、

リリーには次の瞬間から

彼の顔が青ざめていたのがはっきりとわかった。


(?)

また疑問が浮き上がるリリーだがすぐに答えがでる。


「よせ!!ジャン!!そういう意味じゃない!!」


アダムが横にいるジャンに向かって叫ぶ。

訴えかけるように叫び、顔には涙すら浮かべていた。


(これって・・・・)


すると、さっきの少年の方から音が聞こえた。

ずるずると粘性のあるものが動く音、水が流れるような音


「もういい!戦わなくていい・・兄ちゃんたちがやるから!」


目に涙を浮かべながらそう懇願するアダムだが

少年の変形は止まらない。


そうやって少年が変形した

のは顔の無い怪物だった。


両手らしきところには剣らしいものが生えている

やせ細った顔の無い人。


体色は光沢のない石炭のように真っ黒で

頭があるべき位置には何もなく、あるのはギロチンで切られたような

首の断面だけだった。


二人がリリーの方を向く。

リリーは複雑な顔で彼らに向かい合った。



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