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evil tale  作者: 明間アキラ
第三章 「順応」 ー第三地区編ー
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第二十七話「無視」

青年が、扉を開けて廊下へ飛び出たサラを、じっと睨んだ。

体格の良い男。背は高く180cm以上はあるだろう。

服装は他の海守組たちとは違い、非常にラフな格好をしている。

ポロシャツにジーンズを着た姿は労働者みたいで、大分着慣れているらしい。

だが、彼の深い水色の髪の奥からサラもたじろぐような圧を発している。

そこで待っていたかのように腕を組んで、たたずんでいた青年はサラは顔を凝視してきた。。


そして、

その青年の横には茶色の髪をしている獣人の男の子がいた。

生気のない目でどこともわからない虚空を眺める少年。

彼は青年のズボンを掴みながらドアの方をぼおーっと見ている


「な、なんかようっすか?」

サラが咄嗟に顔を取り繕い、

いつもの笑顔が張り出される。


「どこへ行く?」

ぶっきらぼうに青年が聞いてきた、


「自由にしてていいんじゃないっすか?」


が、切り替えはお手の物の彼女は

普通な声色を取り戻し、平然と話す。


「・・・・まあな、でも」


静かな口ぶりの青年は話を続ける。


「ジョージさんに言われてるんだ。

あんたらの行動を見張っててくれって」


「ええ~」


「自由にしてもいいと言ったが、何をしても許すとは言ってない」


「へえ、そうですか」

口をとがらせて、不満げにそう言うサラ。

その軽さはなかなか出せるものではない。


サラは後ろの二人に目配せして、部屋を出て、

三人で本部内の豪華な屋敷を移動し、散策を始めた。


だが、三人が屋敷を歩き回るのに

青年はどこへ行くにも付いてきた。


「どこまでくるんすか!」

とサラが抗議するが彼が引く様子はない。


彼を気にせず、

「すいませ~ん」

と組員の前で手を振り、声をかけるが誰も応じない。

まるで三人など最初からいないと言うかのように全員が無視してくる。


(なんでだろう。なんか懐かしい気がしてきた)

ルーカスの頭へ不意になつかしさがよぎるが

目の前のことで手一杯の彼にそんなことを気にしている余裕はない。


しかし、その無視の徹底ぶりも違和感を覚えるようなものだった。


誰がそこにいようと、近くにいようと、誰が机に座っていようと

あのジョージという男ですら、

自分が座っている机の引き出しを勝手にいじくられても全く拒もうとしないどころか

すべて無視してきた。


サラは、それにつけこみ、机や棚を開き、書類を見ようとした。

案の定、海守組の組員は何も言ってこないが、

「それはやめてもらおう」

アダムが止めてきた。


「なんすか、ジョージさんは達は何も言いませんけど」


ジョージの後ろで言いあう二人。

ジョージは何も気にせず、手紙か何かを書いている。


「ダメと言ったらダメだ」


そう言って聞かないアダムに渋々したがい、サラたちは

別の部屋へと移動する。それにアダムがついてくる。

そういうやり取りを何回も続けた。


「トイレ行ってきます」

そう二人に言って、離れようとするサラに


アダムが

「どこへ行く」

と言って、ついて来ようとする。



それにサラはキレた。

本気で起こったと言う訳ではないようだがイライラしていたのは確からしい。

声を荒げた風に彼女が怒鳴る。

「この変態!! ただのトイレっすよ!! そんなに見たいならここでしてやりましょうか!?」

「・・・・・早くしてこい」


サラがトイレに入り、

個室に入っている間、アダムは出口に立つ。

彼女は個室でトイレの蓋の上に座って

考え始めた。


(坊ちゃん・・・坊ちゃん・・・

テオ兄様のこと? いや、そんなことのためにわざわざ

メッセージを送りつけてくるなんて、ジョージさんはそこまで嫌味な人ではなかったはず・・・・

それにこの反応、アダムさんだけが私たちに干渉して、他はフルシカト・・・・・)


「まだか」

そのアダムの声に

「うるさいっすねえ!!! 人のトイレに聞き耳立てないでくれます?!!」

とサラがまたキレた。


そして、また最初に話し合った部屋に戻る。

サラは扉を閉め、さっき座っていた椅子に戻ると、


その青年も入ってきた。

獣人の少年と手をつなぎ、

三人がいる部屋へと入り、距離をとって座った。

膝の上に少年を乗せながらサラの方を見てくる。


「なんすか、わたしに気があるんすか?」

そう言われて、青年はゆっくりと目をそらした。


「はあ~」

そううなだれながら

手を動かすサラ。


それを目ざとく見つけた

青年が席を立ってこちらに近づいてきた。


「今何をした?」


そう詰めてくる彼にサラは

さっきジョージに渡された紙を見せた。


「おたくの若頭?でしたっけ

なんか変なもの書いてきたんすよ、ほんとにもう・・・」


それは、ジョージとの連絡手段が書かれた紙だった。


彼がよく使っている料亭

そこに来てくれればいつでも相手すると


そんなことが書かれた紙

「・・・・・・・・」


それを見て青年は固まった。


「皆さん無視してるわけでも話してくれるんすかねえ

それとも・・・」


そんなことを言うサラ、

すると、青年はその紙をひったくって


「いたっ・・もう・・何すん・・・・」


ばたんと部屋を出て行ってしまう。


「・・ふふ」


それを確認すると、あのいたずらっ子のような顔で

サラはあの紙を出し、二人に近づいた。


それは、まぎれもなくジョージからもらった紙


裏返すと

『私は、ここを出たい』

と書かれていた。


そのメモを見せた後、

シーと言いながら

口の前に指を一本たてた後、


二人の前に手のひらを突き出し、

誰かをいさめるように手のひらを少し揺らす。


そして、二人の顔を見た。

リリーはぽかんとしていたが、

(・・・えっと、サラだけが外へ行くのか?)

どうにかルーカスには伝わり、ルーカスがサラの方を見てうなずく。

それに応じて、サラもうなずく。


その瞬間、サラは壁に向かって走り出し、


「いよっと!!!!!」


窓を突き破って外へと出てしまった。


「・・・・・・・・」


あっけにとられた二人を残して、サラはどこかへと消えてしまう。


そんな彼女を入れ替わる様に

あの青年が入ってきた。


「はぁ、はぁ、おい!あの女は!」

(・・・・・・・・・・)


リリーは突っ立ったまま二人を不思議そうな顔で

交互に眺めているが、ルーカスは青年に声をかけた。


「なあ、名前はなんていうんだ?」

「アイツはどこに!!」


「名前ぐらい教えてくれよ、呼びづらいだろ?

俺はルーカスだ」


「・・アダムだ・・・あの女は!」


「そっちの子は?」

「ジャンだよ!関係ないだろ今それは!」

「なるほど、ジャンっていうのか、ジャン君~」

ジャンの前で手を振るルーカスだが、全部無視される。


「えっと、この子は、あの、ジョージさんの息子さんなんだっけ?」


そうやって、ルーカスは

中身のない話をしようとするが、


「おいさっさとあの女の居場所を!」


アダムという青年はルーカスに掴みかかってくる。


そんな一触即発の状態


そんな中でリリーが突如、動いた。


「お前!一体何を!」


(・・・・何をするんだろう)


何にもわからないリリーはとりあえず、アダムの近くに行く。

怪訝そうな顔でちらりとだけ見る彼を無視して、

リリーはジャンの近くに近づいていた。


そして、ジャンの前にしゃがみ込んだ。


少年の生気がなく、焦点の合わない目をまっすぐのぞき、

じっと見つめあう。


「・・・・ごめんね、騒がしくして」

「・・・・・・」


そうやって

リリーがジャンと目を合わせ続けていると、

ジャンの手が突然動いた。


生気のない目のまま、ゆっくりとリリーの方へ手を伸ばす。

それをリリーは取り、手を優しく握った。

相変わらず、焦点の合わない目をした少年だが彼とリリーはしっかり目を合わせる。


表情はあまり動かないが優しい雰囲気を纏って少年と接するリリー。

少年が握られた手を少し握り返した時

「おい!!」

アダムが声を荒げた。


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