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evil tale  作者: 明間アキラ
第三章 「順応」 ー第三地区編ー
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第二十六話「お話しよう」

大きな船内で揺られること数時間、船が止まった。


「着きましたかね」


そう感じたサラはリリーを起こす。

「リリー、リリー」

「んん?」

「着きました」

「わかった・・」

まだリリーは覚め切っていない目をこすっているが、フラフラと立たされる。


荷物置き場に人が来る前にサラはリリーを連れ、

ルーカスと共に甲板に出た。


空はまだ青く、下を眺めると、

そこには多くの小舟があった。


狭くなった川幅の周りに作られた建造物に当たらないよう

船が慎重に動いている。


サラが船員の一人に質問する。

「ここはへシラスっすか?」

「ああ、そうだよ」


それを聞くと、

「じゃあ、行きますよルーカスさん」

そう言って、彼女はまだ十mほどはあるであろう先の川の岸へ跳んだ。

リリーもそれに続いて軽く跳び、ルーカスも彼女に続く。

(えっと)

「よっと!」

今度は、派手な音もたてず、床を壊すようなこともなく、地面に着地した。


「お、今度はうまくいきましたね」

ヘラヘラ笑うサラは楽しそうに彼をいじる。

いつもの貼り付けられたような優しい笑顔が少し崩れ、

いたずらっ子のような、意地の悪い顔が一瞬だけ垣間見えた。


「・・・・・そうだな」


「ふふ、すいません、じゃあ

いきましょうか、二人とも」


サラは先陣を切って住宅が敷き詰められた複雑な街並みを

先へ先へと進んでいく。


随分と歩きなれた様子で、家と家の間にある狭い道筋を

通り抜けて、二人を案内する。


「ちょっと速い・・」

リリーが少し文句じみたことを口にするが

サラは足を止めない。

「さっさと行かないとダメっすよ?

ここら辺は海守組が多いですし、

なんなら会長の家族が住む家だの、本部施設だのがある場所っす。

ゆっくりしてると面倒なのに絡まれるんで

そうなる前にさっさと行かないと。」



自ら人のいない方を通って、

サラは進んでいく。

その表通りには毛のコートを着たスーツ姿の男

強面の彼らは町を我が物顔で闊歩している。


彼らの目につかないよう

裏路地を進み、時には屋根の上を通って、

ある大きな屋敷が見える場所に着いた。



そこがみえるとサラは二人を物陰に隠し、

自分も身をひそめながらその門を見ていた。

大きな門にはガタイのいいスーツを着て、刀を腰に差している男が

仁王立ちしていて、その奥には大きな施設がある。

洋館と言った風体のその建物には門番と似たようなスーツの男たちが

大量に歩いていた。


「着きましたね」

「あれが海守組か?」

「そうっす」


「どうすればいいの?」

「リリーに任せて突撃してもいいんすが・・・・

んん~、どうしましょうか。」

サラは少し考えこみ、

「普通に行きましょうかね」

そう言って、物陰から出た。


そして、普通に歩きだした。

「二人とも早く付いてきてください。

私一人はちょっと無理っすよ」


二人もそれについていく。

そして、当然三人は周りのスーツ男たちの視線を集めた。

門へとまっすぐに歩く三人に付き添いが増える。


「何の用でしょうか?」

門番たちがさらにそう声をかける。

サラが帽子を取り、顔を見せる。

「あら、こんな美人をお忘れになったんすか?」

意地悪な笑顔でそう言い、

間を置かず、

「心当たりがないとは言わせないっすよ」

と言い放った。


「・・・・・・・少々お待ちを」

睨みあいの末、門番の一人が

守衛に何かを言うと、その男が建物の方へと走っていった。


「美人二人見ながら

休憩できるなんて今日は幸運っすね、門番さん」

「・・・ええ、まったく」


しばらく経つと

三人の前にあった門が開き、

「どうぞ、こちらへ」

と言われ、門番の一人が案内をしてくれた。



長い庭、長い廊下を歩く。

石造りの庭園は普通の庭園とは違い、とても質素な様相だ。

打って変わって中の廊下は赤色のじゅうたんが敷かれた床。

壁にはおそらく海守組の重要人物なのであろう

男のたちの肖像画が立てかけられている。


二階へ上がり、ある部屋の前で門番が止まる。

「どうぞ」

とドアを開けて中に入れてくれた。


そこには、ズラリと並んだソファのような椅子に、何人もの男が座っている。

その後ろには革命軍の兵士のような銃を手に持った男たちが立っていて、

全員が若そうだが鋭い眼光でサラたちを見つめてくる。


その奥には風格の違う男女が四人。

茶髪の獣人の少年。和服見たなものを着て刀を腰に下げている無精ひげを生やした中年の男。

労働者みたいな恰好をしている深い水色髪の体格のいい男。若い茶髪で、和服のようなドレスを着た獣人女。

彼らは視線を合わせてこないが、その圧は凄まじいい。


一方、座っている者は高齢のものが多いが、ちらほらとまだ3、40ほどといった年齢の男たちもおり、

彼らも顔をしかめ、一般人なら驚きすくんでしまうような眼圧でサラたちににらみを利かせてくる。


そんな様々な色のスーツを着た男たちが向かい合うように

二列で何人も座り、その一番奥にも席があるのだが、そこには誰も座っていない。


「どうぞ、座ってください」

サラから見て一番左奥の人物がそう促してきた。


「どうも」

サラは一番手前に用意された椅子に座る。

強面の男に囲まれた彼女が、一番気にかけていたのは

彼らの圧ではなかった。


「そちらにいるのは誰のお子さんっすか?」

男たちの中に一人の少年がいた。

茶色の髪をし、その年相応の格好をした獣人の子供で、壁にもたれかかるように立っている。


「ああ、俺の息子だ」

また、左奥の男が口を開く。

年齢としては五十代だろうかというその男は、

まだまだ若々しい顔をしているものの、

この組で、相応に年を重ねてきたのだろうと思わされる顔つきをしている。


「それで、今日は何の用でしょうか。サラさん」

その左奥の男が身を乗り出して、体を曲げ、サラへ目を向ける。


「自分の胸に手を当てて考えればすぐにわかると思いますけど?」

サラがそう言うが、


「すいませんが、生憎ここにいる連中はみんな学がないんですよ。

頭のいいおたくの坊ちゃんたちと違って、俺らみたいなのに難しいことはわからなくてね」

とぼけたようにその男は言ってきた。


「そんなご謙遜なさらなくても、ずっと組のナンバー2をなさっているジョージさんが

こんなこともわからないなんてことありないっすよ。もうちょっとよく考えなさっては?」


「さあ、わからないなあ」


「はあ、まあいいっすよ。

私らが詰めに来たのはあんたの裏切りの話っす。

会長は今日は不在のようですが、ぜひ、考えを聞かせていただきたく参ったのですが?」


男たちは態度を崩さない。

「生憎、あなた方の知る会長はつい先日亡くなりました。」

「死んだ?」

「ええ、だから我々は先日まで喪に服していたのですよ

まったく皆悲しさで夜も眠れないというのに、あなた方ときたら」


「だったら、何の連絡もなかったのはどういうことっすか?

喪にふくそうが何何だろうかしりゃしませんが、報告、連絡、相談は基本ではなくて?」


「すまいませんが、誰も第一地区まで行けるような状態じゃないのはご存じでしょう?」

「渡したあれはどうしたんすか? そんなことしなくてもいいようにと与えたはずっすが」


「いや~私ちみたいな老人には新しい物のことはよくわからないんですよ

やっぱり直接じゃないと、ねえ?」


そうペラペラと話すジョージ

薄っぺらいおべんちゃらを

真剣な口調で発して、何でも受け答えをしてくれる。


「そうっすかあ、

私たちはここにいるわけですし、テオ兄様と連絡だって取れます。

今ここで、改めて協力を申し出れば、動いていただけるというわけっすか?」


「ああ、そういう訳にもいかないんですよ、ひとまず今日は帰って頂けないでしょうか?」


「嫌と言ったら?」


「ご自由に。我々が動かないことに変わりはありませんので」


「おっかしいですねえ、

義理人情に厚くて、した約束は絶対に守るというので有名なあの海守組が、

あれだけ会長も乗り気で、こちらも十分な礼はしたはずの約束をお忘れになってる。

今代は、そういう路線なんすか?」


サラの明らかにバカにした顔にこの発言で、

ジョージは多少顔をしかめるが


「・・・・何とでも言ってください。私たちには私たちの事情がありますので」


彼がそう言って席を立つと、周りの者たちはぞろぞろと立ち上がり

部屋の外へと出ていく。

ジョージは周りの護衛が引き上げるまでずっと立ちつづけ、

他のものがいなくなったら動き出し、

ルーカスの肩にぶつかって、そのまま外へ出ていった。

「・・・・」


そして、部屋に三人だけが残った。


「・・・・・・・」

サラが黙りこくって座っている。

体重を後ろにかけ、顔を後ろに向けて、二人の方を向き

「どうしましょう」

と言ってきた。


「はあ~」

元の態勢に戻ってため息をつく。

「打つ手なしか?」

「・・・はい」


「・・口悪かった」

「下手に出てもいいことないっすよ」


「あ~あ、全部はぐらかされたし、取りつく島もなかったっすねえ」

サラは俯いて、

「ハニートラップとか・・でも、あれはあれで時間が・・・・・・

次の会長は誰になったんでしょうか・・・・なんで今いないんすかねえ・・・・・」

ぶつぶつと何かをつぶやき続けていた。


ルーカスは、

なんとなくポケットに手を突っ込み、

サラが動き出すのを待っていると


(ん?)


ポケットに何か違和感を感じた。

ズボンのポケットの中に何かある。


(なんだこれ?)


ポケットから取りだすとそれはくしゃくしゃの紙だった。


「なあ、サラ」

「はい?」


ルーカスが紙を見せる。

そこには

『坊ちゃんによろしく』

とだけ書かれていた。


それを受け取り、サラはじっとそれを見つめていた。

「・・・・・・」

「・・・・何が言いたいんだ?これ」


眺めて、眺めて

「!」

何かを思いついたらしい


急に立ち上がると

「二人はここにいてください」

と言って部屋の外へ出て行こうとした。


だが、ドアを開けると

「・・・・・」

その先の壁にもたれかかり、

サラを見据えて、腕組みをしている

深い水色の髪をした青年がいた。


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