第二十五話「言いたくないこと」
サラの顔が元の笑顔に戻り、明るく話してくる。
「あはは、まあ、そんなに聞きたいなら言ってあげてもいいっすよ?」
そう冗談交じりに言うが
ルーカスもそれを聞けるほど無神経ではない。
「いや、そんなに」
そうぶっきらぼうに答える。
「そうっすか」
それに何だか安心したような顔をしたリリー、
二人の間に少しの間沈黙が流れると、
突如として、サラの肩にリリーが寄り掛かった。
「ん? どうしたんすか?」
彼女がリリーにそう問いかけるが
「・・・・・・zzz」
答えは返ってこなかった。
「・・・眠ってますね」
「そうだな」
二人はそれなりに大きな声で
話し合っていたはずだが、
いつの間にか彼女は眠りに落ちてしまったらしい。
「まあ、仕方ないっすね」
「そうなのか?」
「クラス4の人って、疲れやすいんすよ
多くの人はクラス4と会ったことないんであんまり知られていないんすけど、
よく食べて、よく寝ないと、そもそも十全に力を発揮できない人たちなんす。
外からの攻撃には強いですが、食べれなくなったり、休め無くなったりすると
すぐに動けなくなっちゃうんすよ」
「へえ」
「だから、これも仕方ないんすけど、
この人ホントに自由というか大胆というか」
と優しい口ぶりでつぶやく。
「そう言えば、なんでリリーは、革命に参加してるんだ?」
「知らないっす。あんまり喋らない人ですし、
まあ、気になるなら本人の口から聞いてみてください。
元は第四地区の滅茶苦茶強いって言われてた粛清騎士で
何ならデモ隊の制圧だってやってたんすが、
突然こっちに寝返ったんす。」
「へえ」
「かと思ったら、戦う相手がどんだけ強くても多くても絶対殺さないんすよ
どこでもそれを曲げませんでした・・・・」
「・・・あんたらってそんなに一緒に戦ってきたのか?」
「まあ、ルーカスさんより何か月かは長いっすよ。でも、前の襲撃でもそうだったでしょ?」
「・・・そうだな」
(あんとき、俺が基地をゴミみたいに踏みつぶした時、あいつは殺してなかった、誰一人として・・・)
それを思い返しても、何も感じない。
ただ、リリーはすごいなと思う。
ルーカスが感じたのはただそれだけだった。
「ルーカスさんはここにはいる時、テオ兄様になんかすごいこと言ってましたよね?
なんでも帰る場所がないとか・・・・あの子供とお友達じゃないんすか?」
少しからかうようにサラは笑い、
冗談交じりにそう言うが
「生憎知らないな、俺はそういう化け物のいるところから出てきたわけじゃない」
ルーカスはいたって真面目だ。
「まあ、急になったって話でしたもんねえ。それにしても、同種がいるなんて」
「ああいう人に化ける魔獣ってのはいるのか?」
「少なくとも私は聞いたことないっす。
けど、まあ、いると言われても驚かないっすねえ
魔人とかもいますし」
「魔人・・・・」
ルーカスでも聞いたことはある。魔人という人種がいるらしいと。
だが、魔獣と人の子供とか、魔獣が人に化けているとか、本当は実在しないとか
そういう噂がいくつも重なっていてどれが本当かよくわからない。
彼がわかっているのはそれだけ少ないということだけだ
「会ったことないな」
「まあ、そのうち会えますよ」
「別に会いたいとも思わないが」
「ははは、興味なさそうっすねえ」
「ああ」
二人の間に沈黙が流れると、
サラはソワソワとし始めた。やはり黙られるのは嫌らしいのか、
彼女自身疲れていそうでも話を切り出してしまうようだ。
「あの、ルーカスさんがここに来た理由は行くところがなくて、テオ兄様が誘ったからっすか?」
「・・・・・・まあ、そうなるな」
「やりたいことがあったわけではなく?」
「・・・・・・・・やりたいこと・・・・・・・」
その言葉にとらわれる。
(やりたいこと?)
そう言えば、そんな言葉もあった。
そう言うことを気にして人は生きるものだった
「やりたいこと・・・・・」
彼の霧がかかったようにぼんやりとした前世の記憶、
そこに、なぜだかわからないが、
何かがあるような気がした。
「・・・・・何かあった気がする」
しかし、今世の彼にそんなことを思う余裕はなかった。
「何すかそれ? 昔はあったんすか?」
純粋にサラが聞いてくる。
彼女お得意の明るい顔で
「そうだな、昔は・・・昔は・・・・」
そうやって、改めて振り返ろうとすると気づく。
誰かが向こうから手を振っている気がする。
「ええと・・・・・」
その面影に飛び込んでしまいそうになってしまう。
「あれ?」
だが、その記憶にも、もう彼の頭には霧がかかり始めていた。
数日前までそうだったのに、
(えっと、そうだ、あいつ・・・)
「おか、しいな・・・」
声が震える。
口から出した声が全くもって無意識のうちに揺れる
「えっと、すいません。もういいっす、大丈夫っす」
そう割り込れてもが、
彼の疑問は尽きない。
「あれ? ええと・・・・・ええ・・・」
「ルーカスさん!」
彼女が大声で肩を掴んで揺らした。
「わ、悪い」
彼女の顔を見た。
心配していた。
憐れんでもいた。
だけど、どこか安心していた。
(何だ、その目は)
昔に別れた旧友でも見つけたみたいな
そんな目で彼を、荒くなった呼吸が治るまでじっと見つめてくる。
その彼女がゆっくりと口を開いた。
「・・・・お互い言いたくないこと、あるみたいっすね」
落ち着きのある口調でそう言うサラに
「そうみたい・・・・だな」
ルーカスはそう答えるしかなかった。




