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evil tale  作者: 明間アキラ
第二章 「変身」 ー第二地区襲撃編ー
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第十六話「訓練:後編」

リリーはばつが悪そうに体を出し、

二人に近づいた。一瞬で


余りの勢いに二人の髪が舞い上がるが

サラは気にせず話しだした。


「どうしたんすか?」


「いや、やることなくなったから」


「ああ、忠告守ってくれたんすね」


まるで年の離れた妹と姉のような空気が流れる。


リリーの方が背が高く、170cmほどで、

サラは160cmないぐらいだが、

そういう大きさは関係ないほど

サラの顔が保護者になっている。


「そうだ。」


サラが何かを思いつき、リリーに耳打ちする。

するとリリーはうなずき、二人と距離をとって立った。


「ルーカスさん、次はリリーと訓練っす

素手で徒手空拳で戦ってみてください」


リリーはもう準備運動を始めている。


「・・・・俺はそういうのは知らないんだが」


「喧嘩殺法でもいいすよ、一度体験しといてください」


「・・・・・・・わかった」


リリーに銃を預け、ルーカスが前に立つ。


「ちゃんと手加減してくださいよ

あと、ルーカスさんは変身しちゃダメっすからね」


二人が向かい合う。

実戦ではないからそれほどの緊迫感はないが、


(ああ、無理だ)


彼が彼女の前、数m先に立って思ったことはそれだった。


(ありゃ、俺がこのまま勝てる相手じゃない)


彼が採掘場時代、もっとも培われた能力とも言っていい見極めの力

そのセンサーが彼に警報を鳴らしていた。


(そもそも、正面から殴り合いなんてほとんどしたことないな)


彼の知っている喧嘩とは決闘ではない。

こんなに正面に向かい合う頃には

逃げたり、謝ったり、もう決着らしいものはついている。


その後あるのは格付けの儀式である暴力だけ


だが、それでもルーカスも腕を上げて、構えらしいものはとっていた。

取ってはいるが、リリーには筒抜けらしい。


彼女はゆっくりと普通に歩いていった。


それに押されるようにルーカスは後ろに下がるしかなかく

じりじりと後ろへと下がる。


すると、リリーが跳んできた。


(何とか見える・・!!)

彼女の体だけがスローモーションの世界で動く。

左手の拳、右手、その交互の攻撃を

必死に反応し、何とか避ける。


だが、とてもではないが、反撃など見込めないようで

綺麗に飛んでくるボクシングのワンツーのような拳を

手でガードし、避ける。

後ろに下がり続けて、ついに壁までくると


もうルーカスも限界だった。


「くっ!」

少しずつ被弾する。

顔にカスあたりが増え、

その段階で、完全にがら空きになった腹に強烈な一撃が飛んできた。


「ぐはぁ!」

みぞおちに深くリリーの拳が突き刺さり、

彼の目が変わった。


「あ゛あ゛!」

腕が黒色になり、スピードが急速に上がる。

腕がまるで獣が引っ掻くように、横に振られた。


リリーには当たらなかったが、

彼女もその攻撃には驚いたようで距離をとった。


ただ、

「ああ、ダメっすよ、変身しちゃあ」


(あ、そう言えばそうだった)


遠くからサラの声が聞こえた。

ルーカスはすっかり彼女の言いつけを忘れ

反射的に一部の力を出してしまっていたが、

それにリリーが割り込んだ。


「腕や服の下だけならいいんじゃないか?黒服だし」


「ああ、そう言われれば、そうっすね、じゃあ触手は出さないでください」


そう言われてルーカスは手を黒く染め、

体には黒い管が浮き出る。


(あれは・・・まあ今はいいでしょう)



二人がまた向き合う。


ルーカスは手を腰辺りの位置に

軽く曲げて置き、

リリーは何も構えていない。


二人の視線がぶつかり合う。

それを破り、今度近づいたのはルーカスだった。


振りかぶった拳が空を切る。

さっきよりも狂暴に振り回される拳

だが、一度も当たらない。


リリーは楽々と避ける。

拳が髪の毛一本分にしかないほど近くを通り過ぎるが

彼女には当たらない。


(何だコレ? 距離は近いのに全く当たる気がシネエ)


ただ避けるだけだった彼女

それが突然動く。

振りぬかれた右拳の左横をカミソリ一枚

はさんだぐらいの距離で避ける。


ルーカスの腰に近づけるように

顔を落とす。


それとは逆に彼女の右拳が上がっていく。

そして、

「ぐあ」

拳があごに突き刺さった。


強烈なカウンターがルーカスに

浴びせられる。

(脳が・・!!)


足がぐらつき、鼻から血が出てくる。


(血は赤いらしい・・)


そこへ更に

何本もの拳が顔に浴びせられ続けた。


「ああ・・・・」


サラも引くような凄惨な光景

ルーカスはボコボコにされた。


「はあ、はあ、」

顔じゅうから血を垂れ流すルーカス

出血はすぐに収まり、

顔の傷は治っていくが顔についた血が戻ることはない。


リリーは少し驚いたような顔で

ルーカスを見つめていた。


「大、丈夫?」


「ああ、多分」


「まだ、する?」


「いや、もういい。降参だ」


ルーカスは両手を挙げた。



「あはは、急にやらせてごめんね?」

サラが苦笑気味に笑って近づいてくる。


「ガッツはあるみたい」

リリーがそう口を開く。


「ちょっとは加減してあげたらどうっすか?」

「したよ?」

「足りないみたいっすけど」

「訓練なら、ちゃんと基本からしないと意味ない」

「あはは、まあそれはそうっすね」


二人が話す中、

ルーカスは必死にこらえていた。

もう体の修復は済み、乱れた呼吸は落ち着いたはずなのに、

顔は強張り、黒い管は浮き出たままだ。


「ん、どうしたんすか?ルーカスさん」

「・・・・・大丈夫だ。何でもない」


どうにか心を落ち着け、向き直るルーカス

それを鋭い眼光で見つめていたリリーも

その視線をやわらげ、


三人は部屋へと戻った。

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