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evil tale  作者: 明間アキラ
第二章 「変身」 ー第二地区襲撃編ー
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第十四話「襲撃:前編」

時間は正午を過ぎた頃、

第二地区の首都であるラベン


近代的な建物が並ぶこの都市の中、

他の建物が、

避けているように距離を置く施設がある。


それはラベンを守るため日夜働き、

犯罪者を取り締まる粛清騎士、


彼らが集まる基地であり、

そこでは今、てんやわんやの大騒ぎになっていた。


「どうなってる! 市役所からの定期連絡はどうした!」

「わからん! 誰も帰ってきてない!」


「第二地区から中央政府への線路が何者かにより爆破されました!」

「はあ!? どうなってるんだ!? 誰からの情報だ」


情報が錯綜し、あわただしく走り回っている。


この基地の長、ドレイク氏の部屋では大量の人が、

情報を擦り合わせを行い、大急ぎで話し合いを進めている。


平の騎士たちにはいつも通りの業務を行うようにと

通達が届くが、彼らもどこか不安で浮足立っているようだ。


一体何が起きているのか


それが彼らの頭を掻き乱している。

そんな時だった。


基地内に突如、爆発音が響いた。


基地内を歩く、一人の騎士

彼の体が突然吹き飛んだ。


彼のいたところに急に爆発が発生し、基地の施設の方に黒焦げの体が

吹き飛ばされていく。


続けて、それを発見して驚いていたもう一人の騎士

彼にもそれが襲った。


続きざまに二回もの爆発

しかも、人を狙ったピンポイントの爆発だ


そして、更に別の場所でもそれが起きた。

何度も何度もあらゆる場所で爆発が起きる。


それがようやく騎士たちに伝わった。


「爆発だ!? 術者はどこにいる!?」


騎士たちは遮蔽物に隠れ、見える範囲で周りを見渡した。


「確認できません!」


「こんな魔術、肉眼で認識できる距離にいないわけがない!

 探し出せ!」


だが、彼らがいくら周囲を見ようと何も見つけられない


なぜなら、その攻撃の主は、そこからはるか先にいたからだ。


それは基地から1km先、基地を見ろせる高い時計台の上

自身の背丈と変わらにであろう大きな黒い物を持ち、伏せて、その先を基地に向けている女がいる。


ルーカスがいたら、たいそう驚いたことだろう。

サラが持っていたのはライフルに近い何かだった。


引き金を引くと砲身に赤い光の線が走り、

凄まじい速度で小さな光が発射される。

そして、それが物か人に当たると爆発を起こす。


それが繰り返されていたのだ。


(隠れたっすね・・・・おお)


その基地内で一人堂々と歩くものがいる。

茶髪の男、青年と言ってもいい若さだ。

その彼が爆破を恐れ、皆が遮蔽物に隠れる中

堂々と出歩いている。

しかも、わざと開けた場所で身をさらすように


(あの人間はたしか・・・・クラウン、クラウン・オルニー

エルフのエミリーと同じ聖騎士のクラス4。化け物っすね、)


「あれは誘いってことでしょうか?」


銃口が彼に向く。

サラの指が引き金にかかり、発射される。


そして、次の瞬間

彼の体で爆発が起こった。起こったはずだった

煙が上がる。彼の体はバラバラになって死んでいるか、

クラス3であっても遠くに吹き飛ばされていただろう。


だが、その男は何食わぬ顔でその煙の中から顔を出した。


「まあ、そりゃ効かないっすよね・・・」


のしのしと歩き、周りを確認している。

少しサラの方を見た気もする


「ば、バレてないっすよね?」


身を隠しながらチラチラと目で確認する。


「平の半数でも持っていければ、上出来でしょう。

 もう潮時っすかね」


そう言うと彼女は後ろにおいてあった黒い巨大な箱、

彼女が担いできたそれから黒い塊を取り出した。


片手で持てるサイズの長方形

銀色の棒が一本のび、円状のものをひねると

じじじ と音が出た。


「リリーさん、ルーカスさんそれぞれ始めてください」


そう彼女が声を発するとまず、

基地の正門から轟音が響く。


正門が吹き飛ばされ、一人の女が入ってくる。

銀髪の女が

どうどうと正門だったところから入ってくる。


「あ、あいつは!」


次々に人がそちらに集まっていく。

それに向かってリリーは一直線に跳んだ。


彼らが構える前に

リリーはその横を通り過ぎる。


そうすると、あっという間に人が倒れていった。

鎧にくぼみが浮かび、全員が膝から崩れ落ちる



堂々と我が物顔で基地内を闊歩するリリー


隠れていた人たちは彼女を見つけ次第、逃げ始めた。

リリーの行くところ、人がいなくなる。


「・・・・・・・」


そうやって何食わぬ顔で歩き続ている中、

突如、彼女の頭上から雷が降り注いだ。


リリーは当たる直前に後ろへ跳んで、ギリギリで回避する

すると、そこへ大量の火の玉が飛んできた。


それを手を前にかざすことで透明のバリアが発生し、すべてを受けて止めた。


「・・よく、わかってる」


建物の影には先ほど逃げていた人々が集まり、彼女を取り囲むように

隠れながら手を向ける。


建物内窓の下、壁、柱の陰、天井、正面にも離れた場所で体をさらしている者もいる。


見つかったとわかった瞬間、全員がまた逃げ始める。


「だけど」


離れたところでまた魔法を撃とうと騎士たち

だが、彼らは魔法を撃つ前に、次々と倒れていった。


窓を割って、リリーが建物内に侵入、

一跳びに近寄り、次々と崩れ落ち、

開けた場所に逃げた騎士たちは囲んで応戦しようとした。


だが、魔法を受けてもひるまず、そのまま突き進んでくるリリーに

一人、また一人と地面に膝をつくこととなった。


そこでたたずむリリー

周りを見渡し、全員が倒れていることを確認する。


そこへ誰かが降り立った。


茶髪の青年、整然とした顔、

粛清騎士の鎧を着て、片手に剣を握っている。


二人は見合った。

間に入れば、それだけで常人は気絶してしまうような

緊張感が走り、その眼圧は拮抗する。


「久しぶりですね」

男の方が口を開く。

その視線は軽蔑に満ち、

声には微かな怒気が感じられる。


「第四地区ではご活躍と聞きましたが、何でここにいるんですか?

リリーさん」


リリーは眉一つ動かさず、

睨みあいを続けている。


「・・・・」


「僕と同期の、

 粛清騎士であるはずのあなたが、

 第四地区に赴任したはずのあなたが、

 何でここにいるんですか?

 しかも、僕の同僚に何をしたんですか?」


「・・・・・」


無言を突き通すリリーに

クラウンは怒りをあらわにしていく。


「なんか言ってくれよ! なあ!」


怒りに満ちた顔、声で

窓を揺らすような強烈な怒号が周り一体に響き渡る。

さっきまで隠していたはずの感情が全て漏れ出てた

その言葉は二人以外全員が地に伏せているその場所でこだました。


「・・・・・正しいと思ったから」


しかし、リリーは小さく、淡々と、力強くそう口にする。


「はあ!?」


「難しいことはよくわからない。

・・・・でも、私はこうすべきだと思った」


覚悟の決まった目で、彼女がはっきりとそう言い放つと

クラウンは剣を両手で握り、中段に構えた。


剣には赤色の線が流れ、

彼の力強い視線が彼女一点に注がれる。


「そうですか、なら・・・ここで捕まってください」


何も構えず自然体でいるリリー


彼女に向かって、クラウンが跳んだ。

高速で一直線にリリーへ跳び、切りかかる。


基地の床を壊すほどの踏み込み、

前に出るための一歩は床板を粉砕した。



一方その頃、


基地の裏、

騎士たちが爆発と真正面からの侵入者に気を取られ、

手薄になっている場所、


基地の敷地外ではあるにしろ、

基地の壁の前にルーカスはいた。


本来そんなところに突っ立っていたら

騎士に声をかけられ、怪しまれていただろう。


(ほんと、何でこんなことになったんだ?)


『ここで暴れる』

それが彼がやるべきことだ。


それ以外にやることもない。


覚悟も決めた。


だが、彼は自身の嘘みたいな出来事にやはり驚きを隠せない。


(これが俺へのギフトか?)


意識すると

体から黒い何かが出てくる。


最悪な時間を経て、彼は自分が得たものを

確認する。


「確かに欲しいとは言ったが、本当にくれるとはなあ」


あの少年がくれたのだろうか

その贈り物をじっくり吟味し、体で感じる。


「贈り物・・・まあ、いいさ

それにしても本当にこの世界は現金な奴だよなあ」


体から黒い液体のような個体のような

ものが溢れ、体の周りを漂い始める。


「異形になっても強さは強さ

強くなったとたん周りの反応も態度も変わる。」


何かをあざ笑うように、

どこか遠くに話しかけているように

狂った笑顔を浮かべ、

ぶつぶつと一人で譫言の様に、

何かをつぶやき続ける。


「あのテオってやつも、

マリ

お前もそうだったよなあ

お前はつく奴を間違えたみたいだが


ああ、ほんと、この世界は最高だ」



彼の体を黒が包む、球体のように丸まった

その塊から、手足が生える。黒く太い管が伸び、

背中には無数な触手


体長3mはあろう黒く、おぞましい怪物がそこに現れた。

その怪物が壁に向かい、とびかかる。

壁を砕き、基地内の施設に向かって走る。



驚く騎士たちをなぎ倒し、

魔法も何もかも無視して四足で駆ける。


背中の触手が上向き、穴が開く。

そこから気色の悪い音が響いていく。


重低音、子供が笑い、泣き叫び、悲鳴を上げるような気色の悪い音

コーラス隊による天使や亡者の声


意味の分からない音が彼らの耳に届き、騎士たちは

頭を抱えて苦しんでいく。


耐えられる者も居るようで

魔法を放つがそれも意味をなさない。


足が砕けようと、触手がもげようと、

管が落ちようと、

すぐさま、新たに生えてくる。


誰も進撃を止められず、化け物の体が基地内の施設に突っ込んだ。


瓦礫を掴み、手を振り回し、かぎ爪で切りつける。


彼に味方は一人だけ、巻き込む心配もなく、

その体躯で建物を壊していく。


中にいた騎士やスタッフが

倒れ、ぐったりとし、動かなくなっていく。


瓦礫の下に埋もれる者

振り回された腕に引きちぎられた者

触手に貫かれた者


中にいたのは高齢の人や負傷者

医療用スタッフなどで、彼ら彼女らが

次々と倒れ、赤い水たまりを作っていく。



そうやって気味の悪い音楽を背に、

暴れまわる化け物


それが突然後方へと吹き飛んだ。


「はああ」


大きなため息をしながら砂塵の中一人の女が歩いてくる。

白く濡れたタオルをそこらに捨て、

剣を抜き、化け物に近寄る。


くすんだ金髪に、髪を後ろで一つにくくった、

顔に傷の目立つエルフの女


顔が火傷でもしたかのように頬が一部赤くなっている。


「私のミス・・・かな」


周りを見回すエルフの女


「すまんな」


申し訳なさそうな顔を倒れた人々に向けた後、

化け物に向き直る。


「こんなとこまで追いかけてくるなんて、

化け物にはモテるのかね・・・

ああホント、嫌んなるわ!」



彼女の剣に赤い光が溢れる。


片手で剣を下段に構えるエルフ


まっすぐに跳ぶ。

踏み込み化け物に近づいていく。


二人の距離が縮み、ぶつかる。


化け物はかぎ爪で剣を受け止めようとするが、

そのかぎ爪ごと一刀両断される。


腕を剣に変え、振りかぶるが、

剣から伸びた赤い光がそれを切り落とす。


化け物は触手の伸ばして攻撃するが

一瞬で横に大きく跳び、それらを交わしたエルフは

剣に力を籠め、握りこむ。


両手で握りこむと赤い稲妻がほとばしる。


そして、それを後ろに溜め、前に突き出すと


「くたばれ化け物!!」


剣先から赤い雷が降り注いだ。


それは化け物の体を焦がし、溶かし、押し出す。

そして、化け物はそれによって壁施設の壁を突き破っていった。

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