第十三話「邂逅:後編」
ルーカスとテオの話が終わった後、
ドアから二人の若い女性が入ってきた。
「おお、二人とも」
その二人はエルフと獣人だった。
エルフは、明るい金色の髪を耳の下へ垂れるぐらいまでに切りそろえ、
外はねを作ってある若い女性、
金色の髪に、青い目、色白の肌、尖った耳、まさにエルフと言った顔で、美麗と言えるだろう。
つばの短い帽子をかぶり、
グレイのジャケットに白シャツ、ひざ下まであるタイトなスカート
足にはヒールを履いている。
白シャツの胸元は強く圧迫されており、
タイトスカートの腰から足にかけて大きく盛り上がっている。
ルーカスからすればキャリアウーマンに映っただろうか
「すいません、遅くなりました」
上着を脱ぎ、折りたたんで手に持って、二人の方へ近づいてきた。
「あれ、ええと、そちらは・・・親戚の方?」
「なぜそうなる、新入りだ」
「ええ!? 今度は誰っすか? まえみたいに死刑囚とかじゃないっすよね?」
ラフな敬語で話すエルフはルーカスの方を見て、怪訝な顔をしている
「・・・・・」
何とも言えないと言った顔をしている
「黙らないでくださいよ、はあ・・・まあ確かに人材はいくらいても足りませんが・・・」
「自己紹介してくれ、ルーカス」
そう促されるが、
ルーカスの目は獣人に釘付けになっていた。
だらんと垂れた銀色の髪があごの先まで伸びていて、
前髪が若干目にかかるぐらいまで垂らしてあり、
その奥には黄色の目がのぞいている。
暗い緑のチェックのベストにジャケット
パンツスーツを履いた女性。
あのエルフよりは控えめながらも
服の盛り上がりは見えるが、
それよりも目を引いたのは、彼女の顔と手、体つきだ。
顔には、切られたような傷が目立ち、
目を跨いで一つ、頬に一つ、縫われた傷跡がある。
また、服の上からでも、先に入ってきたエルフより体格がいいことがわかる。
控え目ではあるが、なで肩で、手首は太く、拳の骨は尖っている。
よく見れば、拳にも火傷跡や切り跡であろう傷跡があり、
足にはテオが履いているのと同じごつく黒いブーツを履いている。
そんな獣人の女をルーカスは見ていた。
(!?)
突然の事ばかりで
薄れかけていたついさっきの出来事が頭によぎる
(あいつに・・・いや、空似ぐらいだ。
ただ髪型が同じだからそう見えるだけだ。
落ち着け、落ち着け、落ち着け)
強烈に思い返されるつい数時間前の記憶
それが頭から離れない。
「お~い、ルーカス、リリーの方ばっか見てどうした?」
そのテオの呼びかけがなければ、今頃、彼は我を忘れて、過呼吸になっていかもしれない。
「あっ、す、すまん」
ふと我に返った彼は
深く息を吸い、呼吸を整える。
そして、少し時間をおいて、自己紹介をした。
「俺の名前はルーカス、今回襲撃とやらに協力することになった」
「ということだ。」
そう合わせるテオはなぜか誇らしげだ。
「はあ、あたしはサラです。」
「私は、リリーです。よろしくお願いします」
続いて、テオに呆れた様子のサラと表情の動かないリリー
それに畳みかけるようにテオがこういった。
「ルーカス、アレを見せてやってくれないか」
「アレって・・・・ああ」
「これからお前ら三人で動いてもらうからな
サラ、リリー、これから起こることはくれぐれも内密に、
そして、それを考えて動いてくれ」
ルーカスは立ち上がり、天井を見る
(高さは足らんが、まあいいか)
ルーカスの黒い喉仏から黒い液体が
生きているかのように宙に舞い、動き回る。
彼の体の周囲を取り囲み、
見えなくなったかと思うと、
中から怪物が現れた。
黒い体表
かぎ爪の付いた太い手足に、
頭と思われる位置にある太い管、背中にある無数の触手
眼も口も鼻もどこにも見当たらない
黒色の化け物
背がでかいため、屈んでどうにか部屋に収まったがぎちぎちだ。
それを目撃してサラは口を開けて、驚き、
リリーはさすがにびっくりしたのか、目を開き、驚きを表情に表した。
「えええええええ!!」
サラの声が部屋に響く。
「いやいやいやいやいや
どういうことすか、テオ兄さま!
どういう原理なんすか、これ!?
・・・っていうか、仲間にするんですか!?
死刑囚よりひどいっすよ!」
「ああ」
そうさらりと返すテオにサラは大きなため息を吐いた。
「はあああ、ニコさんとかに絶対言えないっすよ、これ」
「だから、それも考慮の上で動いてくれよ」
「なんすかそれ」
「お前がこの隊のリーダーなんだから当然だろ」
「えっ!? あたしの管轄なんすか!?」
ルーカスが化け物から元に戻る。
体に黒い液体が戻っていく。
二人はまだ言い争いをし、リリーは少し驚いた後、
無言で彼の方を見つめていた。
「そこまでして仲間に入れるメリットは何なんすか?」
「ラベンの守護者と戦って生きてる」
「ああああ」
サラは、否定したいが、否定できないと言った微妙な表情を見せる。
顔を左へ向け、何かを思考し、
これまで驚いてばかりだった彼女は少しずつ落ち着いていく。
「まあ、そうっすねえ」
何か納得したらしいサラは唸るのをやめて、ルーカスの方に歩み寄ってきた。
ルーカスの首元を見上げ、黒い部分を見つめている。
「ううん、まあ、はい。わかりました。
ルーカスさん、改めまして、
あたしはこれよりあなたの上司、指揮官にあたります。
現場ではあたしの指示で動いてくださいね」
「は、はい」
彼に、小さいながらもテオとはまた違った圧迫感を感じさせるサラ
リリーとテオから感じる生物的な圧力とは違う別のプレッシャー
彼女の微笑みには、テオのあの悪そうな顔と通じるところがある。
「挨拶は済んだな」
「そうっすかねえ・・・・」
挨拶もそこそこにテオが切り出す。
「それじゃあ、早速だが、もう出てもらうぞ。」
サラは
「・・・はい」
とうなずき、近くに立てかけてあった
細長い長方形の箱を担ぐ。
リリーはそのままテオを見つめ、
ルーカスはそれを見ている。
「イレギュラーはあったが、悪いもんじゃなかった。
新戦力、援軍だ。戦場でこれ以上嬉しいことは勝利ぐらいしかない。
これより、リリー、ルーカスは特別遊撃隊隊長、サラの指示のもと
ラベン基地襲撃作戦を開始せよ。
俺は別にやることがあるから直接は見届けられないが
良い知らせを持ってきてくれると期待しているぞ。」
リリーとサラの顔つきは平静そのもの
甚く冷静に、しかして、気を抜いているわけではない。
緊張感のある面持ちだ
一方、ルーカスは、突然の出来事にまだ頭が混乱している。
こんな話をされても現実感がない。
だが、
(いいさ、もうどうだっていい)
迷いはなかった。
テオの号令に導かれるまま
三人は部屋を出る。
騎士を、人を、打倒するために




