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evil tale  作者: 明間アキラ
第二章 「変身」 ー第二地区襲撃編ー
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第十二話「化け物」

町に轟音が響き渡り、

市役所の一室から炎があふれ出す。


火の急速な広がりは爆発となり、建物を吹き飛ばした。


爆心地であった三階の壁や天井はすべて消えて、なくなり、

黒く焦げた瓦礫が散らばり、塵と共に周囲にまき散らされる。


凄まじい音が町を歩いていたの人々の耳を貫き、

衝撃は体を突き抜けた。


驚き、悲鳴を上げ、逃げ出すものも居れば、恐怖で動けないものも居る。


「ば、化け物だ!!」

「きゃああああああ」

口々にそう叫ぶ彼らに逆行するように動くものがいる。

騎士たちだ。


周りにいた騎士たちが一斉に走り出し、

その方向へと集まっていく。


十数人の騎士が集まって見上げた先にいたのは、


あの化け物だった。


3m近い全長、全身は光沢のない黒色で、

丸太の様に太い手足には人間の腕はある長さのかぎ爪がついている。

背中からは幾本もの大蛇のような太さ触手がうごめき、

首辺りには大きな円柱状の管がうねうねと動き回っている。




「総員、戦闘態勢」


騎士の一人が声を上げると、

一瞬驚いたようなそぶりを見せた騎士たちも

一斉に統率の取れた動きを見せ、

冷静に使い慣れたであろう陣形を組み、廃墟となった

区役所の跡地に乗り込っむ。



そして、化け物の周りに一定の距離を置きながら

円を描くように並び、

一斉に炎や雷を打ち始めた。


逆手で剣を持ち、もう一方の手を前に突き出し、

そこから炎や雷を掃射した。


小さな爆発が化け物の体にあたり、体の一部が砕けて落ち、

雷は数瞬の元、降り注ぎ、何度も何度も体に被弾し、体表を焦がしていく。


何度も行われる執拗な魔法攻撃に

化け物は何の反応も示さない。


体がいくら傷つこうと新たな体表が形成され、血が流れることはない。

管も触手も、何本落ちようがまた生えてきて、何もなかったかのようにうごめき続ける。


ただ、体を攻撃され続けたまま、体を治し続ける化け物


「止め!」


その合図とともに全員が攻撃をやめ距離をとる。

いつの間にか化け物の頭上に集まっていた雷雲から

特大の雷が降り注ぎ、命中した。


しかし、効いている様子はなく、体から煙が漂うものの

痛がったりするそぶりは見せない。



「・・・・・・」


ここまでずっとなにも発さず動きもしなかった化け物

それを取り囲んでまた攻撃をしようと騎士が動き始めた時、


突然、化け物の大きな管が上を向いた。

そして、その管に穴が開いていく。

黒いせいでよく見えないが、等間隔に穴が開き、管の先の円にも大穴が開く。


「っ!?」


騎士全員が動きを察知し、身構え、手を前に出して透明な壁を張る。

危険だと判断し、バリアを前に出しながら後ろに下がる。


するとその管から音が鳴った。


ズーン


という低温が鳴ったかと思うと、

次の瞬間から、女性のコーラスのような音が響く。

聖歌隊のコーラスのような綺麗な声から始まり、

亡者のような低い生気のない声に変わる。


それと同時に幼子の高く、無邪気な声が聞こえる。

笑うような、泣き叫ぶような、金切り声を挙げているような

それらがかわるがわる一体に響き、騎士たちの耳に届いた。



「あああああ」

全員が耳を抑え、立ってもいられない。

膝から崩れ落ち、武器を堕とし、

苦悶の声を上げて、地面に這いつくばる。




化け物はその演奏を続けながら、穴の数を増やした。


体中に穴ができる。

そこから少し細い円柱が伸びてきたと思うと、

その先にオレンジ色の光と電流がほとばしり始めた。


その光は濃さを増し、体中にぼんやりとした光が見えたと思うと

そこから火と雷が発射される。


騎士たちを狙い撃つように発射口が下を向いて、

一斉に撃ちまくる。


圧縮された火の玉は火の弾丸となって騎士たちの体を貫き

電流に打たれた騎士たちは悲鳴を上げた。


「ぎゃああああ」


撃たれた瞬間正気に戻るが、その演奏でまた苦し身もだえ、

更に撃たれる。

一人一人体に穴が開き、黒焦げになっていく。


そうやって、歴戦の勇士であるはずの彼らは為す術なく

一人残らず、動かなくなった。



化け物はその場に立ち尽くし、動かない。

周りを見回すように大きな管を動かしたり、伸ばしたりするだけで

そこから動こうとしない。


だが、遠くの方から騎士が来ていた、

その方へ目も口も鼻もない円が向いたとき、

化け物は動き出した。


廃墟となった役所から飛び降り、

そちらの方へと走る化け物

ずしんずしんと地面を揺らし、

ひびを入れながら一目散にかけていく。


驚きすくんでいる人々を飛び越え、騎士へまっしぐらに突撃する。


化け物の方へと走ってた騎士たちは動きを止め

剣を抜いて、構える。

装備は少し貧相で、関節部分を覆う鎧はない。

胸や腕、足などにそれぞれ防具をつけていて、

関節は黒い厚い布で覆っているだけだ。


彼らは一斉に構えて備えるが、

突進してくる3m超えの化け物の勢いは止められなかった。


「うわあ!」


散り散りに飛び、

化け物はその向こう側の建物に突っ込んで破壊した。


中にいた人間には目もくれず、

そのまま放置して、化け物は騎士たちに向かい合う。


そこへ化け物は触手を向け、火を放つ。

火の玉を放ち、騎士たちを貫こうと狙い撃つ。


ある者はそれをはじき、ある者は肩を貫かれ動けなくなる。

上手く守れたものは化け物に火の玉を放ち、爆破し、反撃する。


さっきのと同じに化け物は体がいくら欠けようと

それ痛がりもせず、攻撃をよけようともしない。


魔法を打ち返し続ける化け物に騎士たちは押され始め、

段々と数を減らしていく。


一人、また一人と倒れていく。


そんな時、

突如、化け物の大きな管と腕が胴体と離れた。


数瞬の間に、何かが高所から斜めに通り過ぎた後、

管や腕は地面に落ち、ごろりと転がった。


金属が地面に触れ、音を立てたかと思うと

またその灰色と金色の物体は高速で化け物に接近する。


そして、ぶつかった。

化け物は残った片方の手のかぎ爪で受け止めたのは

刃渡り100cmほどの剣、鋼色の剣がかぎ爪とぶつかり、

段々とめり込んでいく。


そこにいたのは少しくすんだ金色の髪をしたエルフ

頬に大きな縫い跡がある鎧を着た女


化け物の周りにいた騎士たちと同じような鎧を着ていて、

髪は後ろで一つにくくっている。


「くっ!」


切ったはずの腕が再生し、化け物はそのかぎ爪できりつけようと

振り下ろした。


それをエルフは難なく躱し、後ろに引いて、

剣を右手で持ち、体を半身にして、中段で構えている。


彼女は化け物に目つけしたまま大きく口を開く。


「下級騎士たちは総員撤退!

上級、準聖の応援を呼んできなさい!

ここは私が食い止めます!」


非常に慣れた様子で、

周りに号令をするエルフ


それを聞いた下級騎士たちはいっせいに逃げ始めた。


「はあ、魔獣は管轄外なんだけどねえ」


ぼやきながら化け物と相まみえるエルフ


化け物に目付して、中心にして回る。

すり足で少しずつ移動する。


段々と体が元通りになっていく化け物


それでも周りのことは認識できているようで

エルフと正面を合わせるように向き直っている。


(頭は・・・ないのか

少なくともあれが頭じゃないし、目らしいものはない

他に視界があるのか?

だったら)


左手を右手首に乗せ、手のひらを化け物に向ける。

そこで火の玉を形成し、発射した

化け物がそれをよけることはなく、簡単に当たり、

そして、大きな爆炎が上がる。


煙と炎が立ち上り、化け物の体を包んでいく。


そこへエルフは一飛びに接近する。

飛び始めた床が砕け、足の形にへこみ、

その衝撃で前へ進み、そのまま煙の中に突入する。


(超感覚)


目を閉じ、体中の神経を集中させる。

聴覚、触覚を通常の何倍にも引き上げて、

周囲の空間を把握する。

どこに敵が立ち、腕がどこで、

触手がどう動いているのか

すべてを肌にあたる風、耳に入る音で把握し、

正確に化け物の正面に立つ。


そこへ、化け物のかぎ爪が横なぎに襲ってくる。

だが、それをエルフは屈んで回避する


そこへ更にもう片方の腕が振り下ろされるが

それを横に飛んで空ぶらせる。


腕が地面を砕く中、エルフは回避をした動きの勢いをそのまま

足にかけ、前に飛び出す。


飛び上がり、振り下ろさ、地面にめり込んだ腕に乗る。

ほんの数秒間の動きに化け物はついてこれず


(取った!)


エルフは無防備な怪物の胸の真ん中を剣で貫いた。


黒い体の極限まで近いところにある透明な壁を貫通し、

その体に剣を突き刺す。

しかし、それが何か固いものにあたったところで、


(なっ!)


化け物が止まることはなく、腕や管を振り回してあばれ始めた。


エルフは肩を蹴ってそれを回避し、大きく後ろに飛ぶ。

宙返りのように身を昼がしながら

地面に着地し、また構えをとって化け物に向き直る。


(体の中にまた障壁があったぞ?

中に核みたいなものがあるタイプか?

まったく、魔獣は専門外なんだよ)


化け物は腕を振り回し、体を大きく動かして暴れた後、

また騎士の方を向いた。


そして、化け物の腕や背中の触手がでがどんどんと変化する。

形を変え、その形状はどこか剣のようになっていき、

鋭利な刃先がエルフの方を向き始めた


「結構器用じゃないか」


呆れた顔で笑うエルフに化け物の触手が迫る。

剣先が頬をかすめ、次々と向かってくる。


まず彼女がやったことは

縦横無尽走り回り、標的をそらすことだった。


その先を狙って伸びてくる触手は

体を横にずらし、屈み、左右に飛び、

触手の上を飛び越えて、回避する。


建物に突き刺さる触手たち

それをよけて飛び込んでくるエルフ


化け物は触手を切り離した。

伸ばした触手と背中の接続を切り、

それを修復しながらエルフに向かい、巨大な剣となった腕を振り下ろした。


エルフはそれを受け止め、甲高い金属音が鳴り響く。


「中々に達者みたいだ、ねえ!」


剣をずらし、地面に落とす。


化け物の態勢が崩れ、腕に一閃、

腕がぼとりと落ちる。


そして、彼女が更に追撃を加えようとした時、いる場所に

剣の触手が刺さっていく。


咄嗟に後ろに下がって回避したエルフを追うように次々と

触手がおっていくが、すべていなされ、地面に突き刺さった。


だが、距離をとった彼女の顔から血がしたたり落ちる。

その頬には、ざっくりと切り跡が残っていたのだ。


「ちっ」


軽く舌打ちして

化け物を見る。


(集中、集中)


彼女の集中力を化け物に集中させていく。

その一挙手一投足を見逃さないように

動きの前兆をとらえ損ねないように


視界にとらえた化け物に注意を向けていく。


「はああああ」


その声に反応しているかのように剣が赤く発光する。


そうしてまた彼女が踏み込もうとしたその時

彼女の目に映ったのは強烈な光だった。


視界の端から飛んできた小さな光が化け物とエルフの間に割り込み、

はじけた。


(しまっ)


視界を奪われる。真っ白な視界、無意識に目を覆ってしまう腕、頭に響く耳鳴り

次に彼女が感じたのはみぞおちに深く突き刺さる


固い感触と


「よいしょっと!!」


男のものと思われる掛け声だった。



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