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evil tale  作者: 明間アキラ
第五章 「暗躍」 ー第二地区防衛編ー
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第七十五話「二人ずつ」


乱雑に短く切りそろえられた

銀色の髪に、傷だらけの顔。


剣を握る太く丈夫な手首にも火傷の跡があり、

その立ち姿は堂々たるものだ。


「リリー」


黒いジャケットの戦闘服に身を包むリリーが、

目の赤く染まった彼女が、

ルーカスたちの前に立っていた。


「・・・・・・・・・」


その後ろへどんどんと

兵士たちが集まってくる。


リリーを先頭として、

大量の魔導銃を持った軍隊が

彼らの行く手に立ち塞がり、

その赤い瞳が

ぼんやりと彼らを見つめていた。



沈黙が場を支配し、

緊迫感は互いの鼓動を高めていく。


しかし、そこで突如として

甲高い音が鳴り響いた。


リリーが持っていた剣、

それが彼女の手から転がり落ちたのだ。


手元が、口元が、震えている。

「は・・・い・・」


薄く開いた口から無理やり

音を漏らすリリー。


(何だ? 何を)


何かを訴えようとしているのだろうか。

彼女の様子を見て、テオはそう思った。

いや、誰もがそう思うだろう。


ミアもその口元に視線を傾け、

注意深く観察する。


だが、その中で一人だけ

そんなことなど全くもって気にしない者がいた。


ソイツは勢いよく跳びだし、

彼女へ殴り掛かる。


その拳が彼女の顔へ迫った時、

リリーは、それを眉一つ動かさず

躱していた。


振られた左拳は彼女が

軽く顔を後ろに動かしたことで空を切り、

代わりに彼女の足がルーカスの腹に炸裂する。


「がっ」


真上に飛ぶルーカス。


全くもって空気を読まない

彼の行動だったが、

他の二人もやることは同じだった。


後ろへ瞬間移動したテオは、

彼女の体に触れよう手を伸ばす。


ミアは力強い踏み足で

前へ跳びだし、手を伸ばす。


しかし、それらも彼女に届くことはなかった。


リリーは蹴り上げられたルーカスの腕を引っ張り、

彼の体をまるで使い慣れた武器のように振り回し始めたのだ。


まず、後ろにいたテオへルーカスの足がぶつかり、吹き飛ぶ。


そして、次にリリーはミアに向かってルーカスを投げ、

その背中に蹴りを浴びせて二人とも遠くへ蹴り飛ばしてしまった。



「流石・・・だな!

弱った俺じゃ、触れもしないか?」


兵士たちの方へ飛んでいる

テオはそう呟きながら態勢を立て直す。


兵士たちが彼の周りを取り囲み

一斉に銃を突きつけるが


彼がぼそぼそと口を動かし、

一人一人を視界に納めていくと、


一人また一人と

兵士たちは倒れていった。


「元が弱いと簡単に解けるみたいだが・・・・」


そうやって、彼の眼前の世界を埋め尽くしていた

兵士たちがドミノ倒しのように倒れ、視界が開ける。


その開いた場所へ銀色の突進物が突っ込んでいった。


「ッ!?」


さっきの銃すらスローに見えるほどの速さで

突撃するリリーはテオへ拳を突き出す。


どうにかテオは自身の銀色の棒で

それを受け止めたが、

その衝撃は辺りに転がっていた兵士を吹き飛ばし、

彼の足を床にめり込ませた。


「くっ・・・!!」


整えられた石畳に

黒色のブーツがめり込み、沈み込み、

後ろへと押されていく。


「・・・・・・・」


リリーは少し悲し気な目をして、

テオを見つめていた。


一方、テオはリリーを視界に納めながら

ぶつぶつと何かを唱えている。


(通じ・・・・ないか)


が、彼女の力が弱まることはないようだ。


(さっきの赤い風じゃない。

多分、別個で強力な魔術をかけられてる

これじゃ、そもそもリリーを無力化しないとおちおち

解除も出来そうにない・・・!)


恐らく本調子なのだろうリリーと

何でもありなぐらいに魔法を連発して来たテオ


余力の差は明らかであり、

じりじりとテオは後ろへ押されていく。


(ミアにやらせるか?

いや、ミアはゼノと違ってアレの特化型・・・・

確実に突破はできるが阻害が使えない以上、

最悪、リリーが死ぬ・・・)


どうにか押し戻そうとするものの

どうにもならない。


そこで、彼は逆に自分の方へ棒を引き、

リリーの態勢を少しだけ崩した。


右拳へかけられた力の分だけ

リリーは前へ出てしまう。


テオは

その外側へ回るように

入り込もうとした。


が、テオの手はむしろ

今よりも彼女から遠のいてしまうこととなる。


リリーは崩された体の失った重心を

すぐさま立て直し、右足でしっかりと立つと

それを軸に左足の蹴りを彼へ浴びせた。


「まずっ」


その蹴りは確実に彼の腹を貫き、

後ろへと蹴り飛ばしてしまう。


ボールのように簡単に浮き上がった彼の体は

家の壁などを軽く打ち砕きながら進んでいく。


そこから何件かの家々を通り抜けた頃、

ようやく彼はそこで止まることを許された。


「くっ・・・あぁ・・」


苦痛で顔を歪めて、

手で蹴られた部分を抑えながら、

棒で自身を支え、テオはゆっくりと立ち上がる。


「ははは、難しいこと考えなくても

アンタは強いってことか・・・」


瓦礫と砂塵が舞う中を

人影が進み、

ぎしぎしと足音が彼へ着実に迫っていた。


が、同時に、

その砂塵と彼の間へ

まるで周りなど気にいない

破壊的な速度で持って迫る者がいた。


それは家々を突き破って間に立つと

「ーーーーーーー!!!!!」


聞くだけで身の毛がよだつような

恐ろしく、勇ましい、怒りに満ちた

咆哮を轟かせる。


「おい! ミア!

待て!」


彼の制止すら聞かずに

まっすぐ突っ込んでいく彼女は

そのかぎ爪を突き立てようとリリーへ振りかざした。



リリーは彼女の突進を見て、構えを取る。


振り下ろされる爪を受け止めようと

腕が動いていく。


が、更にそこへまた

彼が突っ込んでいった。


残像を残しながら

凄まじい速度で走る黒い男。


横の壁を突き破りながら

彼はリリーへ迫り、横から彼女へと手を伸ばした。


そのまま爪が振り下ろされれば

先に二人でやり取りが始まってしまう。


いや、そのまま時間が進んでいたらきっとそうなっていただろう。


実際、ミアには

その騒音すら耳に入らないほど激昂しており、

もう始まってしまう一歩手前だったのだが、


そんな彼女ですらリリーの顔を見た時

手が止まった。


リリーは、穏やかで、何の敵意もない表情を浮かべていた。


手は小刻みに震え、

ミアの爪へ伸びようとしていたが

それが動くことはない。


怯えではなく、必死に押さえつけているのだろう。


そんな中で、彼女は

落ち着き払ったと言えば聞こえはいいが

戦場においては度の過ぎる穏やかさを身に纏っている。


まるで我が子の帰りを待つ母親のような


戦いの最中には決して出るはずのない表情に

ミアは思わず手を止めてしまったのだ。



そんなところへ、黒い超特急が到着し、

一瞬で彼女を連れ去ってしまう。


その最中であっても、

いや、むしろ彼が来たことで

彼女は安堵したのか

表情は更に穏やかであった。



「・・・・・・・」

「ミア!」


呆然とそこで立ち尽くすミアに

テオが駆け寄ってくる。


「ルーカスがやったのか?」

「・・・・うん

・・・・・・連れていった」


二人は

ルーカスとリリーの行った先を見つめた後、


「・・・・先を急ぐぞ」

「うん」


そこを走り去っていった。


一方、ルーカスは予想外にも

無抵抗に連れ去られてくれたリリーを

不思議に思いながらも

彼女を運ぶ。


方向を変えながら

さっきの場所とはまた違う、

それでも生活感あふれる民家の一室へ突撃し、

彼女を放り投げる。


投げられたリリーは

床へ叩きつけられたにも関わらず、

その衝撃を利用しながら

ボールがバウンドするように

弧を描いて立ち上がり、態勢を立て直した。


「どうした?

ナンダその顔」


赤い目はそのまま、

その前に立ったものにしかわからない

隙の無さもそのまま、


彼女の体は依然として

戦闘態勢でそのままだ。


しかし、

顔もそのままだった。


緩やかな笑みを浮かべ、

ルーカスを見つめている。


「よ・・・かった」


「あ?」


不意にリリーの口が開かれ

ゆっくりと、たどたどしいが

言葉が出てくる。


「こ・・・・・れな・・ら」

「問題ないって言いたいのか?」


彼がそう言うと

ぎこちなく表情筋が動き、

心なしか顔も縦に振られたように見えた。


「き、み・・・・なら」

「俺ならいくらボコボコにしてもすぐ治るしな」


顔はほころばせて

笑うこともできるようで

むしろ、普段あまりしゃべらない彼女より

今の方が感情表現は豊かかもしれない。


「い・・つも・・・の稽古」


「そんなに話せるなら

その魔法ぐらい打ち破って欲しいんだが?」


「・・ご・・め・・ん」


だが、顔の表情と、

細かい途切れ途切れの単語で

意図を伝えるのが精一杯らしい。


「まあいいや、これで二人は先に進める。

オレはここで戦えばいいだけだ。」


首で音を鳴らしながら体を動かし、

リリーと向き合い、ルーカスも構える。


リリーと同じように

脇を絞め、左足を前に出し、右足を後ろに置いた。


左手を腰の少し上辺りに、

右手を首元辺りに置き、

顎を引いて、少しだけ体を曲げる。


「・・早めに・・・倒・・・して」

「ジャア、手加減してくれよ」


「が、ん、ば・・・る」


話しもそこそこに

ルーカスは一気に彼女へ近づき、

まず左手で素早い一撃を繰り出した。


牽制、反応の確認ぐらいで

気軽に振ったその拳だったが


リリーはそれを躱す。


拳が出たのとほとんど変わらない

タイミングから動き始めた彼女の体は

彼の拳一個分だけ顔を横に移動させ、

右の拳をかぶせた。


(・・・・これもいつも通りかよ)


彼女の右拳は的確に側頭部を貫き

ルーカスの脳を揺らす。


(全然加減してない・・・)


少しよろけながらも

踏ん張って、ルーカスはすぐそばにまで来ている

彼女へ手を伸ばし、体を掴もうとする。


だが

その手が届くことはなく、

一瞬彼がよろけた隙に

リリーは彼の横を通り抜け、

距離を取ってしまった。


少し気まずそうな顔をしているような気がするリリーと

殴られて機嫌の悪そうなルーカス。


二人の間で再び睨みあいが始まり、

そこから戦いが始まった。


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