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evil tale  作者: 明間アキラ
第一章 「弱き人」 ー幼少期編ー
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第十話「急変」

1920年 10月28日


マリ曰く、「日記は書いてほしい。」そうだ。

交換日記は面倒だが俺のは見たいらしい



よくわからん




                       フフフ・・・



1920年 11月5日


最近は本当にトラブルもなくて快適だ。

だけど、これがずっと続くかどうかは怪しい。

マリに守ってくれと言われて始まった仲だが、

早い話あいつが自分の身は自分で守れるように

なればそれが一番だろう。

とはいえちゃんとした戦い方を知っているわけではないし、

筋トレでもさせるか



嫌だ!




1920年 11月10日


結局、マリは運動してくれなかった。

せめて簡単な筋トレぐらいはと思ったが、

それも嫌らしい。

逆に、運動しないでどうやってあのスタイルなのかという

疑問が出てきたが、獣人の特性なのだろうか



触っていいのよん



1920年 11月13日


特になし

マヨうま

マヨネーズおいしい


1920年 11月15日


チェスみたなボードゲームを始めた。

あんま勝てない。悲しい


チェス?



1920年 11月17日


毎日あれをやってる。

グエラベルムというらしい。

王を取ると勝つことは同じ

魔術師やらそれ関連の駒が多い。


本当に、マリが強い。


えっへん


1920年 11月22日


最近、記憶が飛び飛びになっている。

マリに聞いても、普通に生活しているらしい。

疲れているのだろうか


大丈夫?




1920年 11月28日


たまに飛び飛びになるが症状は治まってきたらしい

その間も普通に動くというのだから恐ろしい。

そういえば、意識が戻るのは誰かに話しかけられる時ばかりだ。

何か対策をした方がいいのだろうか


私と一緒にいよう!!





1920年 12月2日


ここ数日はあの症状は出ていないし、

普通に生活できてる。

なんか作業までマリと一緒になったので、本当に四六時中

アイツといる気がする。

まあアイツ以外喋る相手もいないからそれでもいいか。


もっと嬉しがれよ




1920年 12月5日


今日初めてあいつに勝った。

詰んだ時のアイツの顔が忘れられない。

驚き仰天をあそこまで表情であらわせるなんて

思わなかった。それほど見事な負け顔だった。


クソが!まぐれだ!まぐれだ!



1920年 12月11日


あれからグエラベルムばかりやらされていたので、

書く暇がなかった。

勝率は3:7ぐらいだ。

今日はマリが一通り勝ち、

満足したのか日記を書けと言ってきた。

とはいえ書くことと言えば、いちいち負けるたびに

アイツが奇声をあげて、のたうち回るのが面白いことぐらいだろうか



ふん! 今日は私が三戦三勝だもんね



1920年 12月14日


そういえば今日、誕生日だ。

今年で18歳だったか

あっちならまだ学生だろうが

今の俺は石を積んで運んでるなんて

偉い違いだな。

異世界に来た割には嫌なことが多い人生だが

まあ今は悪くないかもな


誕生日は早めに言え!馬鹿!

ていうか年下だったの!?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




1920年 12月15日

本格的に寒くなり、白い吐息が口からこぼれ出る。


朝から一日遅れの誕生日祝いで普段はあまり口にしない

菓子を食べて、やけに喉が渇く。


二人は寒い中坑道の中を歩いていた。


重い台車も今となっては大した重荷にもならない。


「ねえ 今日の夜は何する?」


朝からテンションが高いマリは、いつもと比べて特におしゃべりだ。


「いつも通りでいいんじゃないか?」


「ダメダメ! こんなしみったれたところで誕生日ぐらい騒がないとやってらんないでしょ?

あ、あと私は3月10日だからね」


「はいはい、覚えとくよ」


他愛もない話をして、荷物を運ぶ。


雑談のおかげで気が紛れたのか、楽々と運んでいく二人は

出口に近づいていく。


「なんでこれ自動で動かないんだろ

列車とかあるのになあ」


「こんなグネグネして、勾配の激しい経路、

下りはいいにしても、上りはきついんじゃないか

それか『人間の力で出来るものは人間でやるべき』とか

そういうあれか?

列車出来る時もなんか批判があったんだろ?」


「そうそう、あの時おじいちゃんたちが

そんなことをしたら『若者が魔力を鍛えなくなってしまう』とか

『道具に頼るのではなく、己の力で戦うべき』とか言ってたよねえ」


(へえ、そうなんだ)


いくら十何年もここで生きているとはいえ、

ルーカス一人ではこの世界にいる人々の思考の常識まではなかなか思い至らない。

そもそも閉鎖空間にずっといたためかそういう出会いもなかった。


「イーザ教の教えだか何だか知らないけど、ちょっとは私たちみたいな

人のことも考えて欲しいわよねえ」


そう愚痴をこぼすマリに

ルーカスがいつも通り相槌を打っていると


前には同じような運搬の仕事をしている人々が出口を前にして行列を作っていた。


「何あれ?」


「俺が見てくる」


ルーカスが人波の隙間をぬぐって

出口に近づくとそこには子供がいた。


茫然自失とした様子の男児、七、八歳ぐらいに見える黒い髪の少年は

生気のない目でルーカスたちの方を見て、地面にへたり込んで座り、

何かをうわごとの様につぶやき続けている。


「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ」


その横にはここで仕事をしていたであろう中年女性が倒れており、

体を痙攣させ、時々声にもならない声が口から漏れだしている。


誰もあの気味の悪い者たちに近寄りたくないから、ここで足踏みしているのだろう。


そして、更にもう一つ関わりたくない理由があった。


(あの子、多分クラスが高いな)


魔力がないルーカスとは言え、

騎士とクラス0の違いぐらいは肌で感じられた。


(たぶん騎士よりも高い

俺の父親と同じくらいってことは多分クラス3ぐらいか?)


意識を失ったクラス3とは、

クラス0からすれば、腹をすかせた魔獣と同じくらいに危険だ。

何かのはずみで攻撃されれば確実に死ぬ。


ここにいるクラス0達はそれを感じて、近づくことはしないもの

仕事もあって、ここで立ち往生しているのだ。


ルーカスはマリの下に帰り、事情を説明する。


「いったん戻るか?」


「でも、これどうすんの?」


「どうしようもない」


「だよねえ~」


二人も後ろの方で立ち往生し始めたその時、

作業員たちの悲鳴が聞こえた。


「ぎゃあああああ」


二人が驚き、そちらを見ると、

人の集団の向こうで血が飛び散り、鉄の匂いが漂ってきていた。


彼らで隠れて見えないが、何かが起きた。


それを感じた二人は急いで駆け出した。


後ろからどたどたと逃げ惑う人々の足音

何かがちぎれ、引き裂かれ、砕ける音

そいつらのものと思われる悲鳴


それが後ろで響き渡る中、

振り返りもせず、一心不乱に二人は走った。


だが、


「きゃあ!」


ルーカスにとって一番聞きなれた声がした。


振り返るとマリがこけて、地面に這いつくばっている。


黒いタール状の鞭のようなものが足に絡みつき、

出口の方向へとずるずると引きずられていた。


「っ!?」


引きずられていく方向をルーカスが見ると、

そこにあったのは地獄絵図だった。


逃げまどっていたはずの人々が赤く染まっている。

ある者は首がなく、ある者は腕がなく、ある者には足がない。

上半身がない、下半身がない、


地面は赤黒く染まり、壁や天井にもそれらが散っている。


その先には、先ほどの少年らしきモノがいた。


体の所々に返り血がかかっているそれの左半分は少年だった。

先ほどの男の子だった。


だが、もう右半分は違った。


右側には目も口もない。

光沢すらない、何も返さない黒

それが半身を覆っている。

腕らしきものもなく、そこに生えているのは無数の触手、

先が赤で染まり、今もうごめき、一本がマリの足を捕えている。

片足はなく、黒い塊が地面でうごめいていた。


(何だ・・アレ)


ルーカスは足がすくんで動けなくなる。

先ほど感じた魔力と生物として圧倒的強者の圧が

彼を襲い、足も腕も動かない。


「ーーて!」


その声の方向を見るとマリがこちらに向かって何かを言っていた。


耳鳴りがして聞こえないなか、マリを見ているルーカス


(何言ってるんだ・・・)


「ーげて!」


一部分が聞こえない。


しかし、涙の流すその顔を見た彼は思い出した。

自分にわざわざ頭を下げて助けを乞いに来た可哀そうな女

弱くて、どうしようもなかったから何かにすがるしかなかった女


(そうだ・・・守ってくれって)


ルーカスはそこらにおいてあったつるはしを手に取り、

恐怖と焦りでどうにかなりそうになっている体でそれを握ると

思いっ切り触手に向かって振り下した。


カンッ


と金属音が鳴り、つるはしが弾かれる。


(硬い!)


それに触れる前に明らかにバリアのようなものに弾かれる。

が、

それに驚いたのか、触手がビクンと震え、足への拘束が緩んだ。


マリは自身の足を触手から抜き、立ち上がり、

彼女は泣きながら走り出した。


彼の方へと


スローモーションのように進んでいく彼の視界

自分も何もできないままマリが一心不乱にこちらへと走りこんでくる。


そして、彼を両手で突き飛ばした。


グラつく視界、後ろへなすすべなく突き飛ばされた彼の視界に

少しずつ黒い何かが入ってくる。


それが少しずつ視界の端から進んで、後ろに尻もちをつき、倒れた感覚がした時、

その黒が彼女の体に刺さった。


彼女の脇腹からダラダラと血が流れ、

口からも溢れてきていた。


「ごほっ」


彼女は血を吐きながら彼を見ている。

苦悶の表情を浮かべて、彼の姿をよく見た。


「え、へ」


彼の方を見て、微笑んだ。

苦しそうだ。

悲しそうだ。

だが、喜んでいた。


彼を見て、少し微笑み、笑った。


そして、

「ありがとね」

かすれて掻き消えそうな声でそう言った瞬間


彼の視界から消えていった。


肉が遠くで打ち付けられて嫌な音が響く。

マリがいなくなる。


そこに残ったのは、目を馬鹿みたいに広げて

荒い呼吸をするしかできない一人の男だけだった。


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