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花乙女は愛に咲く  作者: 遠野まさみ
ロレシオ

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(12)


サラティアナは空いていた部屋に運ばれた。カタリアナは直ぐに駆け付けてくれて、王城の医師・セルン夫人に城の庭に咲いている紫色の花を摘んでくるよう命じていた。


「花をどうするの? お母さま……」


あれ程会いたかったカタリアナが傍に居るのに、喜ぶ暇もない。

どういう意図からかは分からないが、ロレシオを訪ねてきたサラティアナが怪我をした。

それだけは事実だったから、サラティアナの怪我にとても責任を感じていた。


「これだけ血止めをしても出血が治らないのは、切りつけた相手が憎しみを持ってやいばを使ったからなのよ……。

城の庭で栽培しているあの紫色の花は花乙女の治癒の為の花……母なる愛情の花なの。

花乙女に与えられる愛情が損なわれたときに、あの花を使って癒すのよ」


程なくしてセルン夫人が両手いっぱいに花を摘んできた。

カタリアナがその花をサラティアナの背中の傷に宛てていくと、紫色の花はサラティアナの出血を吸っては枯れていく。カタリアナはセルン夫人と共にどんどん花を入れ替えてサラティアナの治療をした。


あれほど止まらなかった出血が紫色の花を宛がうことでみるみる止まった。そして傷も、綺麗に治ってしまったのだ。

そして出血して蒼い顔だったサラティアナの頬に赤みが戻って来た。ロレシオは漸くホッとした。


ふうっとサラティアナが目を覚ます。ロレシオはベッドに乗りあげて、サラティアナの手を取った。


「サラティアナ、良かった……! 僕を庇ってくれてありがとう……」


恐ろしかった。

サラティアナが死んでしまうかと思った。

そのサラティアナが目を開けてロレシオを見た。

ロレシオは安堵でぽろりと涙を零してしまった。


その涙がサラティアナの右手首に落ち、弾けた瞬間に、蒼くて銀のグラデーショの花芯の小さな花が顔を出して花開いた。ロレシオはぱちりと瞬きをした。サラティアナもまた、ぱちりと瞬きをした。


「これは……、ロレシオさまの、花……?」


ぼうっとサラティアナが呟いた。


そうだと嬉しい。


ロレシオは今までずっと一人で寂しかった。


その独りぼっちだった心に住み着いた少女がサラティアナだった。


だから危険を顧みずロレシオを守ってくれた時、ロレシオは彼女を失うのではないかと恐れたのだ。


友愛の証の蒼い花。


それをサラティアナに咲かせられたことに、ロレシオは誇らしい気持ちになった。


「そうだよ、サラティアナ。僕は君を友達と認めるよ。これからはロレシオと呼んで欲しい」


嬉しそうにそうサラティアナに語り掛けたロレシオを、カタリアナがぎゅっと抱き締めた。


「お……、お母さま……?」


「ロレシオ……、お友達が出来て良かったわ……。お母さまは安心しました」


カタリアナもロレシオに友達が出来たことを喜んでくれているのだったらよかった。


「お母さま。僕、もっといろんな人に会いたい。会って、友達になりたい。友達になって、その子を大事にするんだ。きっといっぱい楽しいことがあるよ。だからお願い。僕も『太陽の宮』に行かせて」


ロレシオの言葉に、カタリアナは辛そうに眉を寄せた。


「ごめんなさい、ロレシオ……。それは出来ないの」


「何故? 僕が子供だから? でもサラティアナは子供だけど『太陽の宮』でお父さまとお母さまに会ったんでしょ? 何故僕はいけないの?」


ロレシオの疑問に、カタリアナは更にぎゅっとロレシオを抱き締めた。


「ごめんなさいね、ロレシオ……。そんな成りに産んだ私を許して……」


そんな成り、とはどういうことだろう。意味が分からなくて、ロレシオはカタリアナにもう一度せがんだ。


「ねえ、お願いだよ、お母さま。僕、もう寂しいのは嫌なんだ。お母さまとお父さまにもいっぱい会いたい。僕は『月の宮』でいい子にしてたでしょ? 何故駄目なの?」


目に涙を浮かべて訴えるロレシオを抱くカタリアナの、その抱き締めていた腕が外れる。置いて行かれるのは嫌だと思ってロレシオはカタリアナに抱き付いたが、大人のカタリアナが子供のロレシオを自分から離すのは訳なかった。


「マリア、ロレシオをお願い。きっと立派なイヴラに育てて……」


「はい、カタリアナさま。きっと」


「お母さま! 行かないで!!」


マリアの返事を聞いて、カタリアナは部屋を出て行ってしまった。取り残されたロレシオの目には涙が溢れていた。さっきの涙とは違う、母を求める涙が溢れていた……。





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