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花乙女は愛に咲く  作者: 遠野まさみ
ロレシオ

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33/142

(3)

美しい石畳の道を馬が小気味よい蹄の音をさせながら行く。


宿舎が持つ街行き用の荷馬車もリンファスの家の荷馬車よりもうんと上等で、おそらくケイトが使っていた時にもこうやって少女たちの荷を乗せて運んでいたのだろうと思わせる作りだった。

荷台にはクッションになるように敷物が述べられており、荷を傷めないように工夫されている。


大通りをしばらく行くと、カーンの店は思ったほど苦労せずに見つかった。サラティアナが看板の柄を教えてくれていたおかげだった。


リンファスは少し悩んで、カーンの店より先に、ヘイネスの店に行くことにした。

ドレスもおそらく高価なものだと思うが、リンファスは「お母さまから頂いたネックレス」というサラティアナの言葉を思い出していた。

おそらくとても大事なものだ。それを持ちながら店を渡るというのは、もしかしたらよからぬ誰かの目に留まって盗られてしまうかもしれない、と思ったからだった。


そのようにロレシオに断ると、ロレシオはカーンの店で待っている、とだけ告げて、その店に入っていった。リンファスはヘイネスの店のドアを開けた。


「ごめん下さい」


店に入ると仕立て台に向かって作業していた女性が此方を向いた。穏やかな微笑みを浮かべた品のいい女性だった。

スタンドカラーの襟のブラウスの袖を肘まで捲っている。胸元に翡翠色のブローチを付けており、スカートはふくらはぎまでの丈の紺色のもので、装飾はない。


「いらっしゃいませ」


女性は落ち着いた大人らしい声でリンファスを出迎えてくれた。リンファスは用向きを伝える。


「あの、サラティアナさんのドレスを取りに伺いました」


「まあ、ご足労ありがとうございます。出来ておりますので、少々お待ちくださいね」


女性はリンファスにそう断って店の奥に入っていった。リンファスは店内を眺めた。


他の少女の用事で服飾店に行くこともあったが、この店はずいぶん高級そうな店だった。

おおよその服飾店では店頭にトルソーが立ち、そのトルソーに店自慢のドレスを着せる。そして壁面の棚には絵型と生地が並び、客は絵型を見ながら使う生地を決めるのだ。


ところがこの店にはトルソーはなく、先ほど女性が居た仕立て台の上には数枚のデザイン画が置いてあった。


不思議な店だ……、と思って店内を見渡していると、少し体がふらつく感じがした。今、店内を見る為にぐるりと視線を動かしたからだろうか。


その時に女性が店の奥から大きな箱を持って戻って来たので、リンファスはぐっと足に力を入れて、その場に立ち直した。


「此方がお品になります。ご要望通り、東方から取り寄せた刺繍糸で刺しゅうを施しました」


リンファスの前で女性がドレスの入った箱を開けた。


中には抜けるような青空の色のドレスに技巧を凝らした蒼の刺繍が施されている。

刺繍糸は窓から差し込む陽光や店の奥のランプの光の加減で艶やかに輝き、前身ごろの中央には刺繍糸と同じ色のリボンが編み上げ状に渡されていた。

サラティアナは蒼が好きなのかな、とリンファスは思った。


「ありがとうございます。確かに受け取りました」


「サラティアナさまによろしくお伝えくださいませ」


女性がリンファスに頭を下げて、ドアを開けてくれる。リンファスは大きな箱を持って店の外に出た。

明るい陽光が、しかし目の奥にめまいを起こす。体の芯にも、力が入りづらい。


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