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花乙女は愛に咲く  作者: 遠野まさみ
花乙女として

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(8)

「……白色の花は、一般人である親兄弟肉親からの愛情で花乙女に咲く、いわば花乙女にとって『最初の花』のことだよ。

あんまり聞きたかないが……、あんた、父親に愛されてなかったのかい……?」


ケイトが言った言葉にリンファスは驚いた。愛されてない、というのはどういうことだろう。


ファトマルは村八分にされたリンファスを見捨てなかった。

自分の面倒を見てくれたファトマルから、愛情をもらっていなかったというのは、リンファスには考えにくい。


「父は……、お酒と博打に弱い人でしたが……、それでも私に仕事をくれましたし、家に住まわせてくれました……。それを愛されていた、とは言わないのですか……?」


ハンナと会ってから、『愛される』という言葉がたびたび出てくるが、リンファスはそのことをあまり良く分からなかった。

ただ、ファトマルのことは唯一の味方だと思っていた。辛い仕事もあったが、同じ屋根の下で眠っていたし、博打で当たればリンファスに暴力は振るわない。悪い人だとは思えなかった。


リンファスの言葉に、ケイトはまたも難しい顔をした。

そして、やはり言いにくそうに、おそらくそうなるだろうね……、とため息と一緒に零した。


「例えば、与えてもらった仕事をした後に、お疲れさまと言って労ってもらったりしたかい? 良く出来たと言って褒めてもらったりしたかい? 

誕生日を祝ってもらったり、……いや、特別な日だけじゃない、何でもない毎日の中で、気遣ってもらったりしたかい……? 

あんたの痩せた体や荒れた手先を見ると、どうにもそうじゃないと思うんだよ、あたしは……」


重たい沈黙がケイトとリンファスの間に落ちる。リンファスはケイトの言葉にどう返したらいいか分からなかった。


ファトマルにはあの村で十分に保護を受けていたと思っていた。悪魔の子であるリンファスを捨てることなく使ってくれた。

そのことに感謝こそすれ、不満になんて思うことはなかった。

あの暮らしでは、なかなかファトマルの要求に十分に応えることは出来なかったけれど、自分は精いっぱい仕事をしたし、ファトマルはそれに応じた対応をリンファスにとっていたと思う。


ケイトがもしリンファスの体を見てリンファスが不幸だったと思うのであれば、それはリンファスの働きが及ばなかった結果なのである。


「……父が私を愛していなかったのか……、ということは、私は良く分かりません……。

ただ、ウエルトの村で今まで生きて来れたのは父のおかげなんです……。

父が私のことを見捨てなかったから、私は今、此処に居るのですし、そう思うと……私の働きなりに応じて、大切にされていたと思います……」


リンファスが言葉に悩みながらケイトに応えると、ケイトはあまり表情を変えずに、そうかい……、とぽつり漏らした。


「あんたが父親を信頼する気持ちは十分わかったよ……。

ただ、花乙女であるあんたに白色の花が咲いていないことは事実だ。

花乙女であるあんたに、肉親の花の色である白色の花が咲くに足る愛情を、……あんたの父親はあんたに掛けていなかったんだろうと、あたしは思うよ……。

……残酷だね、こういう時に、目に見えない筈のものが目に見えちまうのは……」


ケイトはゆっくりとリンファスに腕を伸ばし、そっとリンファスを抱き締めた。年老いてやや張りのなくなった腕に包まれたとは思えない程、その抱擁はあたたかかった。

……それはリンファスにとって初めての体験で、リンファスはびっくりした。リンファスはケイトに抱き締められたまま問うた。


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