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RYANGA--リャンガ  作者: 錬寧想
第一章:リャンガとして

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32/35

第二十八話:ロコイサ王国悲劇の残存《四》・【ロコイサ王の言葉。処刑の任命……それから……】

32回目の投稿になります。

一瞬でも楽しんで頂けると幸いですっ。

何卒よろしくお願い致します。


 パラパラパラパラパラ


 割れた地面の上で土砂や石を身体からボロボロと落としながら骨のモンスターが起き上がる。


 「…………ゴゴ……ガグッ……。グーアアガグオグアグーグアッ(…………ははッ……んだよっ……。お前ら只の雑魚(ザコ)生意気野郎共(なまいきやろうども)って訳じゃねーのなっ)

 グアングガグッ……ゴガグガグガアーガガ、ゴアグガガゴッアガ(あー丁度いい事思い付いたっ……今日はもうこの後の事考えんのメンドクセーから、オレが疲れて眠れるまでお前らそのまま粘っとけ)ガギガガゴゴアガグギゴ、ゴギアグガアーゴアーゴ【ガギーアガッゴ】ガグアググ(んで見事俺が寝てその時点でお前らが生きていられたら、お前らを明日から今日みてーなオレがメンドクなった日の【オレの一日終わらせ部隊】として(やと)ってやってもいいぞ)」


 話が通じてない事も忘れてそう話す様は、どことなく機嫌が良さそうだった。


 「…………」


 そこまでを黙って見ているだけだったロコイサ王はついさっき目の前で起きた戦闘の最中で一切動じる事もなければ、今だって眉一(まゆひと)つ動かす事なくスンとしたままの表情を骨のモンスターへ向けていた。

 この時ロコイサ王はモンスターの占領(せんりょう)からロコイサ王国を奪還(だっかん)していた過去を思い返していた。


 (例えそれが同じように見えたとして万物(ばんぶつ)は似て非なるもの……そう割り切りそれらを個としてギリギリまで見極める事もまた我の務めだ。だがたった今、その上で我はあやつを我の過去の(あやま)ちの残存(ざんぞん)として断罪(だんざい)すべきだと判断した)


 ロコイサ王が二人に命じる。


 「トゥーチョ、それからドレリミッナイ(※ドレイ・リンロ・ミットメーナイの略)よ。今からお主らであやつを処刑(しょけい)して見せよ」


 「御意(ぎょい)にですっチョ!!」


 トゥーチョが秒で気合いの入った返事をする一方、リンロはその命令を他人事(ひとごと)かのように急に辺りをキョロキョロと見回し出した。


 (ドレリミッナイさん? 気配も無かったし全然気が付かなかったけど仲間の人も来てたのかっ……。ロコイサ王はあの骨のモンスターの事トゥーチョとドレリミッナイさんって人に任せたみたいだけど……。とりあえず俺はモチャオーチさんの守りに(てっ)しつつ状況見て、二人の連携(れんけい)の邪魔にならないようにサポートしてくって感じでいけばいいか……)


 「トゥーチョっ、ドレリミッナイさんの位置は把握(はあく)できてるのか?」


 「……チョ? 勿論(モチロン)に決まってるだろっチョ! こんな時にバカな事言ってんなっ消されてぇのかッチョ!!」


 (………え。

 そりゃあトゥーチョにしてみたら分かってて当然の事を聞いてしまったかもしれないけど、そんなに怒ってしまうのか……)


 「ごめん……それじゃあトゥーチョ、デカイ負担掛(ふたんか)けちまって申し訳ないけどひとまずあの骨のモンスターのドレリミッナイさんまでの誘導頼(ゆうどうたの)んだぞ。あと、出来ればその前にモチャオーチさんから少しでもあいつを引き離してほしいんだが……それも頼めるか?」


 リンロの言葉にトゥーチョが真剣な眼差しで言葉を返す。


 「お(たが)(さま)だろっチョっ、肩凝(かたこ)りそうな頼みだっチョが任せろッチョ!」


 予想外に二つ返事で頼みを引き受けてくれたトゥーチョの男気がリンロの心にしみた。


 「……ありがとうトゥーチョ」

 

 (やっぱりここぞという時のトゥーチョは頼もしいなっ)


 「一応その事もドレリミッナイさんに伝えておいてくれ」


 リンロの言葉をトゥーチョは軽くあしらう。


 「はいはいオレ様に言われなくても分かってるから問題ないッチョよ~。次馬鹿な事聞いてきたらダンボールの角で()き消してやるっチョ!!」


 「…………」


 (だからドレリミッナイさんが絡んだ話をすると当たりが強くなるのは何故なんだ……。

 とはいえこの場から離れた方がドレリミッナイさんも多少なり戦いやすくはなるはず。よしっ俺も早く自分の持ち場に着かないとだなっ)


 たったった


 リンロはモチャオーチの元へ掛け寄り、少し距離を置いた所で立ち止まった。


 「すいませんっモチャオーチさんっ……今すぐにでもモチャオーチさんの事安全な場所に移動させたいんですけど、俺がモチャオーチさんのお身体を運ぶのは諸事情(しょじじょう)で難しいので立って動けるようになるまで一旦ここで俺が(たて)になっときます。もし動けるようになったら安全な所まで誘導するのでその時は教えて下さい」

  

 そう言ってからリンロがモチャオーチの反応を確認すると。


 「ほわっ、ほわっ、ほわワァァアァァ~~~ッ!!」


 リンロ自身、無自覚にヤバイ事を言ってしまったんじゃないかと錯覚(さっかく)する程の大慌(おおあわ)てぶりをモチャオーチは見せていた。


 「え?」 


 (あれっ? 何か俺、めっちゃモチャオーチさんに怖がられてないかっ? 


 え………………。


 さっきあんなに信じてくれなかったのにどうしてっ!?)


 「あっ、あのモチャオーチさん?────」


 取り()えず落ち着かせようとリンロが【若干(じゃっかん)距離遠(きょりとお)めエアー(さす)りと自分安全性(じぶんあんぜんせい)プレゼン】をしていると。


 ドドドドドッ!!!!!!


 そう後ろから音が迫り、その音にリンロが振り返った。

 リンロが見たのは、自分達を目掛け突っ込んでくる巨大な骨を引き連れたトゥーチョ。


 (何か来てるゥゥゥゥゥーーーーッ!!!!)


 「えっ!?何でこっちに戻ってきてんだよトゥーチョっ!? てかドレリミッナイさんは!?」


 「チョハァ……さっき言われてっ……チョハァ……今そこにいるから来ただけだっチョぉぉ~~ッ!! チョハァチョハァ……もう限界だっチョォォォォーーーーーー!!!!」


 (えっ!!?まさか! ドレリミッナイさんはこの木の後ろにいるのかッ!!?

 だとしたら……俺個人の感想としてで……しかも言っちゃ失礼だが!……ドレリミッナイさんは相当にイカれているとしか言えないっ!! 目的の為なら他は何だっていいタイプかよっ!!)

 

 リンロは急ぎ考えを駆け巡らせたが、結局疲弊(けっきょくひへい)したトゥーチョを頼るしかなかった。


 「トゥーチョッ!! モチャオーチさんを頼むっ!!」


 「たっチョアーーっ! 本日3回目ぇぇぇ~~~ッお助けシールドだっチョぉ~~ッッ!!!」


 ポンッ!


 木に寄りかかったモチャオーチの手前、トゥーチョが骨のモンスターの突進を防ぐ。


 ガッッッッッ!!!!


 (最後衛(さいこうえい)である(はず)のこの持ち場を即最前線(そくさいぜんせん)にするとか……勘弁(かんべん)してくれよドレリミッナイさん……。いくら味方といっても、んな危険思考にこの場を任せて犠牲(ぎせい)を出すくらいならっ────


 ──俺が勝手に代わりにやってやるっ!!」


 グルンッ!!!


 リンロが木の伸びる方向とは垂直に太い幹を(つか)みぶら下がり、遠心力を利用し勢い良く木の背後へと半周周る。


 (ドレリミッナイさんがこの後ろに……一体どんな───)


 ぐるんっ!


 (え!? いないっ!! 

 いやっ目的の為なら手段を選ばないような方だ、だから任務だけは必ず遂行するはず……。きっとすれ違いで今丁度周り込んで骨のモンスターに会心の一発を───)


 ぐるんっ!


 そう期待しリンロがもう半周回った先にドレリミッナイが


 「いっなァァァーーーーいっ!!!!」


 ──()るわけがなかった。


 ドッ!!


 ショックで声を上げながら木の幹を手放しリンロは飛び、骨のモンスターの(ほお)へとドロップキックをきめた。


 ザッ!


 着地後焦り振り向きトゥーチョへ報告するリンロ。


 「大変だトゥーチョ……ドレリミッナイさん……多分逃げたぞっ!」 


 「…………」


 たっ、たっ、たっ、たっ、たっ


 リンロから報告を受けたトゥーチョが何も言わず彼に静かに近づいてくる。


 ポンッ! スッ

 

 右片手で彼の頭サイズのダンボールを生成し構えるトゥーチョ。


 グりっ!!


 そのままダンボールの角をリンロの太ももに押し付け肉を()(えぐ)ろうとしてきた。


 「わっつ! 痛ッ! 何で?」


 「さっき言っただろっチョ……次馬鹿な事言ったらダンボールの角で掻き消すって……な~ドレリミッナイさんよぉ~」


 「え? どこにいるんだ?」


 「チョは?」


 ここまできて(なお)辺りを見回しそう言い出すリンロに、ようやくトゥーチョは彼はふざけているのではないという事に気が付いた。 


 【ドレリミッナイとは?】

 只今トゥーチョがリンロへ簡単に説明中─────


 「あっぶなっ!! 何だよそれ! こんな大事な時に……戦場に……俺の脳内に架空人物を登場させて! 危ないからやめてれよ!」


 「出現させてたのはリンロだろッチョ」


 「フッ、生死が掛かったこの戦場でそんな滑稽(こっけい)な思考を回せるとはさすが。その滑稽度胸(こっけいどきょう)才認(さいみと)めざるを得ないな、さあ好きなだけ鳴くがよい【コケドッキョー】と」


 (それはそうなんだが……ぐぬっ!!)


 ロコイサ王に(あお)られながらも何も言い返せずにいたリンロの後ろで骨のモンスターが再び起き上がった。


 「ガーーガグアッギ(あーー今のもなかなか良かったぜ)

 ゴ、ガガアゴアン……(だが、そろそろ物足りなさも感じてきた……)

 ッアグアゴオグアア、ガグア────【オガグガーアグガガウォグア】(ってことでこっからは少しずつ加減外してくから、いいかお前ら────【死にたくなかったら必死こいて俺が寝られるまで()え続けやがれ】)」


 ゾアんッ!!!!!!


 最後の一言で声のトーンが変わったと同時。

 リンロ・トゥーチョ・モチャオーチ3人の生存本能が骨のモンスターをだけを残し、それ以外の彼らに見えていたものを全て遮断(しゃだん)した。

 イメージは真っ白な空間の中で思わず呼吸を止めてしまう程の殺気を放つ骨のモンスターが只一体、痛々しい赤やカビのような緑をドス黒い靄の中で輝かせる凶々(きょうきょう)しい夜空のようだ。

 その場において強制的に他の思考が全て断たれたが、逆に言えばそれ一点に集中するだけで良かった。だがそれが中々に冷や汗をダラダラと流す今の彼らにとっては(きび)しく見えた。


 すゥゥぅ


 「!!!」


 「!!!」


 「!!!」


 骨のモンスターが息を吸った瞬間。


 立てないはずのモチャオーチが腰を一瞬浮かせ──トゥーチョは多量に生成したダンボールで周囲を積み囲い──リンロの身体からは彼のリャンガ細胞が煙のように溢れ出た。

 

 

 【(裏灯磐塵(りとうばんじん)───典天人菓至(てんてんひとかし)────(げん))】



 しーーん



 ──だが何も起きなかった。


 (ア?)


 (え?)


 (チョ?)


 (ほわ?)


 「チョハッッ!!?」


 二人よりも早く緊張から解き放たれその(すき)を見逃さなかったトゥーチョが、すかさずリンロに触れウーポシュクスを発動しダンボールと化したリンロを骨のモンスターへとやけくそで投げつける。


 「殺られる前にオレ様の(たて)として殺られに行けっチョ~~~~~ッッッッ!!!!」

 

 ブぉ~んっ!


 「なっ!?ちょッ!!」


 骨のモンスター目前ギリギリでリンロのそれをトゥーチョが解除する。


 ポンッ!


 「ッ!?」


 「チョあ、やっぱりお前が殺られたらロコイサ王様とオレ様に負担がかかるっチョから殺られるなっチョ!! 相討(あいう)ち以外負ける事は許さないッチョっ!! いけいけっチョオラァっ!!」


 一瞬の思考の妨げにより反応が遅れていた骨のモンスターが彼らの行動に追い付いたのは、リンロの拳が骨のモンスターの鼻上を(とら)えた後。

 リンロの拳が骨のモンスターを(あご)から地面に叩きつける。

 

 ガンッッッッ!!! ゴォデェェーーーーンッ!!!


 バきィぃんッッ!!

 

 「グゴォッッ!!!」


 しかし結局その攻撃も骨のモンスターにはダメージとして残らない。


 ゴギンッ!!!


 「!」


 打撃直後リンロは後方へ跳びトゥーチョの右隣へと降り立つ。


 ザァッ!!


 (本当……デジャブかよ。あの再生(さいせい)を何とかしねぇとどうにもならないんだよな……、どうしたもんか)


 悩むリンロの左足元でトゥーチョは手でダンボールを回しながら何やらニマニマとしていた。


 「チョほぉ~ん、なるほどっチョな~」


 フォーーン ボスンっ


 突如リンロの前にトゥーチョサイズの小型ダンボールを積み上げた壁が(そび)え立つ。


 「チョいリンロっ、今からその前に置いたダンボールにできるだけでいいリャンガ細胞を目一杯流し込んでくれッチョ。あ別にリャンガ細胞を流すと言っても、触れてるだけで構わないっチョから」


 リンロは目の前に置かれたダンボールを視線を横にゆっくりとずらしながら少し間を空けて答えた。


 「……分かった」


 (クソっ、まさかこの体での力しか使えねーとはなっ。デメリットしかねぇ一生使う事もねぇ愚能力(ぐのうりょく)と思っていたとはいえ、こんな想定外に備えて自分の能力はちゃんと把握しとくべきだったな……おかげで(きょう)()めちまった。

 あれなら力の微調整(びちょうせい)も可能だから丁度良い加減をしながら上げていくつもりだったんだが……しゃーなしだな。いくら疲れて寝たいからっていってもな()きる戦いは論外(ろんがい)だ。オレにとっては威力が乏しいにしろこの姿でのこれ以上は加減も利かん。恐らくここでこいつらの人生終わっちまうだろうが──)


 ────白砂璃灰(はくさりっかい)────


 (もういいわ───)


 骨のモンスターの攻撃発動寸前トゥーチョが先手を打つ。


 「ウーポシュックス・リピートボックス!」


 ●ウーポシュクス・リピートボックス●

 【目的地(指定した設置面)に着面しないかぎり、何度破壊されて消されたとしてもトゥーチョの能力持続可能範囲内・体力が続く限りであれば永遠に再生し再配達され続けるダンボールである。またその特殊ダンボールは触れた際のリャンガ細胞の自動吸収が可能であり爆弾等としても使用可能。普段生成するダンボールの10倍程リャンガ細胞の消耗(しょうもう)が激しく、現時点でこの能力の可能な継続可能時間は約30分。


 ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポぉーーーーーッッん!!


 「?」


 突如降(とつじょふ)ってきたトゥーチョサイズ程の大量のダンボールに骨のモンスターの攻撃の標的が()し代わる。


 「ガッ……グゥグゥゴォオ?(フンッ……この程度の時間稼ぎ2秒にも満たねぇぞ?)」


 ズシャァァァンッッッッ!!!


 言葉のとおりダンボール全てが骨のモンスターの攻撃により2秒以内に一掃(いっそう)された────筈だったが。

 

 コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ──────


 「ア?」


 たった今一掃した筈のダンボールはもれなく全て骨のモンスターの身体を包み込むように着面していた。

 指定部位へと無事配達完了されたそれらが開封同時に爆発していく。


 ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボぉーーーーーンッッ!!!!!!!!



 ──────────────



 「チョハァ、チョハァ、チョハァ……」


 爆発音が鳴り止むとトゥーチョが息を切らしていた目の前では既に、爆発による煙の中で骨のモンスターが再生し始めていた。

 

 バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ


 『リンロ、今からこのダンボールにできるだけでいいリャンガ細胞を目一杯流し込んでくれッチョ』


 (さっきの雑音(ざつおん)はこれだったか……)


 多少威力のある意表(いひょう)ではあったが、この程度なら次の最後の悪足掻(わるあが)きも知れているな。


 肩で息をするようにトゥーチョが言う。


 「……チョッチっチ。反撃の準備をしているところ悪いっチョが、オレ様達のターンはまだ終わってないっチョよ?」


 「ガー……ゴグ(そうか……知っている)」


 「次はもっと強烈(きょうれつ)だっチョ!! ていうかオマエはもうっ!オレ様の巧妙(こうみょう)策略(さくりゃく)に梱包されているっチョーーッ!!」


 (ハッ、まるで死後痙攣(しごけいれん)のような口だなっ……。さっきの爆発に乗じて放り投げた今真上から時間差で落ちてきているあの箱に俺が気付いてないとでも? どーいう原理かは知らんが爆発に乗じて一角小僧を箱に変化させていたのも認識済みだ。それに恐らくはあの箱にもさっきと同じ小細工が(ほどこ)されているんだろう……。

 箱が俺の身体に触れたと同時、一角小僧を()()きにすれば終わるそこまでの所詮(しょせん)だ) 


 ヒュゥゥーーー


 気付いていないフリをする骨のモンスターにダンボールが(せま)る。


 「ガガガグォグッガ……グゴドガゴッゴーガァァッッッ!!(疲れて寝るには不充分だが多少なりとも楽しめた……良い寝起きくらいにはなったぜお前らァッッ!!)」





 ──────────────



 その一瞬音が消える程に空気が()()めた。





 【白砂璃灰(はくさりっかい)ッッッ!!】──────────────


 ─────落ちてきたダンボールが骨のモンスターの身体に触れた0.0000001秒後───対処の間もなく一方的に全身に針を()(めぐ)らせているような痛々しい無惨(むざん)な音が付与される。



 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!!!!!────── 


 ザシャァァンッッッ!!!!!!!!



 一粒一粒が鋭利(えいり)粉骨(ふんこつ)による数多(あまた)の貫通と切断により、それが枯れ葉のようにゆらゆらと見栄え悪く舞い散っていく。


 「──ア?(──は?)」


 だが舞い散るその中、骨のモンスターの視界にリンロの血と肉片は映らなかった────

 

 舞い散るダンボールは確実に骨のモンスターの身体に触れ、再生可能な許容範囲(きょようはんい)を超えていた(まぎ)れもない証拠。

 そしてそのダンボールの中に居る筈のリンロが居ないと骨のモンスターが警戒し視線を反らした一瞬だった。


 舞い散るダンボールの中で再生していたもう一つのダンボールが骨のモンスターの身体へと落ちた────


 ポぉンッ!!!!


 骨のモンスターが大きく目をかっ開き急ぎ振り返る。


 ぐるんッ!!!


 (二重だとッッ!!!?)


 「いくぞっ!トゥーチョッ!!」


 「バッチョコぉぉぉーーーーいっ!!!!」


 ばっ!!!


 現れたのは宙に浮いた1箱のダンボールを胸の前に左右へと大きく両手を広げるリンロ。

 【何も聞かずにこの箱にだけ流し込むっチョ】と書かれているその1箱こそリンロがさっきトゥーチョにリャンガ細胞を流し込むよう言われたダンボールだった。その前に聳え立つダンボールは全てダミー・そして一度目のウーポシュクス・リピートボックスによる爆発は全てトゥーチョ自ら注いだリャンガ細胞によるものだった。

 本命である空気砲のように穴が空いたそのダンボールの穴からは、骨のモンスターが危機を察知する程の異様な空気が漏れ出ていた。


 (何だ──)


 パンッッッッッッ!!!!!!!!!!!!


 リンロがそのダンボールの両脇(りょうわき)(やぶ)ってでも合掌(がっしょう)する勢いで挟み込み、発泡スチロールを強く(こす)るようなダンボールの潰れる音を重ねていく。



 キュジキュキュジジキュジキュジギュギュジュジギュッッッッ────────────────



 そして耐えきれなくなったその音が破裂する────


 びトゥッッッッキャャャァァァァーーーーーーンッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!


 ブフォアァァァァァァァァァァァァァァァァ───────


 時速500kmで迫りくる不可避な城壁が如くのリンロのリャンガ細胞によって生み出された爆突風(ばくとっぷう)に骨のモンスターの身体が散り散りに欠けていく。


 <一度目のウーポシュクス・リピートボックスでの爆発の最中リンロを放り投げる少し前>

 

 『朗報(ろうほう)だっチョリンロ』


 『ん?』


 『どうやらあの骨野郎、損壊(そんかい)した部位が再生する前なら他の無生物同様に骨の破片を3(スリー)ゴッドサンド的なオレ様の力で梱包できるみたいだっチョ。

 だからリンロは取り敢えず全力をヤツにぶつけてくれっチョ、そしたら後はオレ様がなんとかするっチョ』───


 「チョチョチョチョチョチョチョチョチョ──────」


 骨が破散していくそばから風の道の横にいたトゥーチョが欠片一つ残さず梱包していく。


 ───ふァっ


 最後の一風が骨のモンスターの欠けた頭蓋骨を撫でる。リンロの立つ前に残っていたのはそれ(欠けた頭蓋骨)だけだった。骨のモンスターの右斜め後ろにはダンボールを山積みにトゥーチョが座っている。


 「(あ……何だこれ?)」


 状況を受け入れられずにいて且つ骨のモンスターは別の疑問を抱いていた。

 

 (こっから乗り切るのは容易(たやす)いとして、()に落ちねぇのはこの時点で俺がこの戦いで何も得られねーんじゃねえかと思い始めてる事だ……。

 今まで戦いで何も得られなかったなんて事は只の一度たりともなかった……最低限勝ちという事実があって当たり前……まぁ苦肉(くにく)にも一度だけ負けた事はあったが学べる事があった……だがこの状況は何だ?

 死力を尽くした上でのこの状況なら認めるしかない……。

 だがこんな2割ぽっちの力しか出せない身体で負ける? 寝起きで? 目の前に削られるだけ削られて頭一つになって?


 これも全部あいつのせいだ)


 腑に落ちない煮えたぎる怒りの矛先が向いたのは。


 「ゴウギガァァァァ!!!!!!(行事菓(ぎょうじか)ァァァァ!!!!!!)」


 ピリッ!!


 骨のモンスターの激しい怒号による空気の振動がリンロ達の肌に響く。


 (だがその前にとっととこのムカつく状況をぶっ壊さねぇとな……)


 ほぼ詰んだといっても過言ではない状況で骨のモンスターは冷静に周囲の状況を把握していた。


 (あの箱チビから身体を奪い返せりゃあ楽だが、恐らくその線は一角ひよっ小僧に張られている。

 なら!──────)

 

 (俺に骨折り損はねえェェんだよォッッッッ!!!)


 バギィンッッ!!!!


 骨のモンスターは残った体力を全て振り絞り鬼気迫(ききせま)る迫力で飛び跳ねるとその勢いで欠けた頭蓋骨を更に壊しながら、リンロとトゥーチョが追いつけない速さでモチャオーチ目掛け飛びかかった。

 

 がムッ!


 モチャオーチを(くわ)え向かう先は(がけ)


 バッ!!


 「ほわっ───」

 

 飛ぶ直前骨のモンスターはリンロ達を誘い込むように挑発的に振り返り、そのまま崖下へと身を投げた。


 「!!」


 「チョッ!!?」


 「…………」


 「ガググゴアガガグオグググ……アグ(まさかこんな得体の知れねぇ馬鹿共に最後の悪足掻きなぞさせられるとは……クソ)ゴアゴアーグガグオッ!!(胸糞悪りぃーがまぁ寝て忘れりゃあいいッ!!)グアグアゴッアググッ!!(早く俺の身体とお前らの命持ってきやがれっ!!) ゴアガガグオガゴッアガガググゴグッガグググッゴガガアッ!!(この理解不能クソ箱ッイカれ拳一角ひよっ小僧どもがっ!!)」


 ダっ!!


 タッ!!


 考える間もなく飛び出そうとするリンロとトゥーチョだったが、ロコイサ王がそれを止める。


 「──待てお主ら」


 たんっ


 この時トゥーチョは反射的に足を止めたんだと思う、でも何でか俺も一緒に足を止めてしまっていた。足を止める直前、その場で直感したのは【この後起きる事に俺が邪魔になる】だった。でもそれでも止まるなんて考えは無かった筈なのに……ロコイサ王の今の一声に俺は身体から力を抜かしてしまった。

 

 (何で俺は……安心しちまってんだ?)


 リンロが自身の今の行動に気持ち悪くなり嫌悪(けんお)し身体を動かそうとする反面、それに勝る絶対に大丈夫だという根拠(こんきょ)の無い確信がリンロをその場に押さえ付けていた。 


 「(われ)()れトゥーチョ」


 「チョ!? ……チョ……チョ」


 一瞬躊躇(とまど)いを見せるも考えている暇もない事が分かっていたトゥーチョはその言葉に従順(じゅうじゅん)に応えた。


 ────今から何が起きるかも分からないのに俺はもう大丈夫だと信じきっていた────


 「申し訳がございませんッッチョぉぉぉ~~っ!!!!」


 トゥーチョが自身の感情を圧し殺し苦悶(くもん)の表情を浮かべ、両手で抱えるダンボール状態のままのロコイサ王を崖下目掛け精一杯に振り投げる。


 バッ!!────────────


 ───────────


 


 ヒュゥゥゥゥゥゥーーーー




 川へ向け落下している骨のモンスターの目に入ってきたのは、ダンボールから元の姿に戻っていたロコイサ王。

 

 

 ビュォォォォォォォォォォォォォッッ!!



 ロコイサ王は骨のモンスターの落下速度よりも速くどんどん加速し降下していく。


 「!」


 骨のモンスターは初め、落ちてきたそのサイズ感にトゥーチョだと勘違いをしていたが途中でそれが別の者だという事に気が付いた。落下してきたのがたった今自身から怒りを買ったリンロやトゥーチョじゃなかった事……持ってこいと言った筈の身体がそこに無かった事……怒号でも飛ばすかと思われたが骨のモンスターの反応は意外だった。


 「ア?(ア?)ガンガグッアガ…………(何かお前どっかで…………)」


 目の前にいる知っている気がしたそれに、他の事が考えられなくなる程意識が奪われていた。骨のモンスターの記憶の中から無意識に抽出された記憶の断片が脳裏にちらつく。


 (彼女は……僕の()れたこの宇宙で一番大好きな絶世の美女だよっ)


 (は?……あんな姿に変えといてよくンな事言えたもんだな。あの姿見てそんな目でそんな事言って、言うのがお前じゃなかったら皮肉にしか聞こえねーぞ?)


 「───賽断駆灼(さいだんくしゃく)────」


 赤く(まぶ)しい程に発光した刀が(まと)っていたのは一切の揺らぎを見せぬパイロープガーネットのように(あざ)やかに赤く(きら)めく(ほむら)、一閃の輝きとともに超高音の馬の鳴き声のような音が響き渡る。



 ヒュキヒィィィィーーーーーー-ーーンッ!!!!!!



 崖の上から見ていたリンロとトゥーチョを含め、目の前にいたモチャオーチはその壮観極(そうかんきわ)まる光景に絶句していた。

 その中で只、骨のモンスターだけは平然を保ったままだった。


 『「あんな滑稽なお遊び人形がお前の女か……はッ────」』


 刀を右手に握り美しい姿勢で振りかざすロコイサ王の姿が、骨のモンスターの記憶の中にあった一人の女性の姿と重なる。

 

 (あーそうか……はッ……こんな身体じゃもう、これ以上は足掻くだけアホくせー話だな。詰んだと受け入れる外ねーが……ま、一角ひよっ小僧どもにやられるよかマシな理由か)

 

 ピシィィーーンッッ!!!!!! ドォッッッボォォォォォォォォンッッ!!!!!!


 その時既に骨のモンスターは戦意を完全に消失していたが、容赦なくその一閃はモチャオーチを避けながら骨のモンスターの欠けた頭蓋骨を一刀両断し高い水飛沫(みずしぶき)の柱を上げ川へと沈めた。

 

 「【賽留(さいりゅう)】」

 

 ポワンっ


 その様子を気にも留めぬまま、今度はモチャオーチよりも下の何もない宙に向けロコイサ王は賽を振るような素振りを見せた。するとそこに圧縮された大気の立方体が現れ、モチャオーチとロコイサ王の落下の衝撃を全て吸収し優しく乗せ浮いた。


 「…………」


 モチャオーチは言葉を失ってはいるものの正気は保たれていた。ロコイサ王は自身が恐れていた事を前に万が一に彼に死なれる前に脅し生かすつもりだったが、その必要もないと理解した。


 「ご老体に気遣いなく少々手荒な真似をした、すまないな(おきな)よ。して、ケガはないか?」


 そう聞かれ思考停止した中でモチャオーチがなんとか出せた言葉は、


 「…………はい……あの……助けて下さりありがとうございます」


 応答と感謝の二言くらいの敬語だった。


 「……そうか、ならばもう一瞬くらいは耐えれるなっ」


 「?」


 「【賽展(さいてん)っ】」

 

 ロコイサ王がそう言うと二人の足元が餅のように(ふく)らみ出し、そのまま立方体が割れた勢いで溢れ出た空気が二人を崖の上へ向かい押し出した。

 

 ぽふぁんっ!!


 「ほわわぁぁ~~っ!」


 二人は崖よりも少しだけ高くあがり、そこへ慌てて駆けつけるリンロとトゥーチョがその日陽(にちよう)に照らされる二人に手を差し伸べながら見上げた──────────




 

この物語を読んで下さり、ありがとうございます。

貴重なお時間を頂き感謝の限りです。


また続き読んでやってもいいぞ・今後楽しめそうだと感じられましたら、ブックマークや広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると至極幸いです。


 これからより多くの読者様に届いて一瞬でも楽しんで頂きたいので宜しければお力添えの程よろしくお願い致します。この度は本当にありがとうございました。



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