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RYANGA--リャンガ  作者: 錬寧想
第一章:リャンガとして

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19/35

第十五話:栄光の配達先で出会ったのは

明けましておめでとうございます。

昨年いつも読んで下さっていた読者様・一瞬でもお目に止めて頂いた読者様、本当にありがとうございます。

今年ももしよろしければどうかよろしくお願い致します。


今回は19回目の投稿になります。一瞬でも楽しんで頂けると幸いですっ!!


 約5年前・場所:シューヨイナ中央区域【レッソグッケル】


 ここレッソグッケルは高級マンションが多く建ち並ぶ富裕層区(ふゆうそうく)。人口1万7000人、【年齢層比率】高年層65%・中年層28%・若年層7%。

 財にも心にも余裕があるからか外に出ている人々の表情はやわらかく、散歩をしている者・運動をしている者・優雅(ゆうが)な演奏をし歌う者・鳥や小動物に餌やりをする者・ショッピングを楽しんでいる者・花の水やりをする者・友人とお茶会をする者等、皆有意義(みなゆういぎ)な時間を過ごせている様子だ。


 そんな場所から()り広げられるトゥーチョの回想(かいそう)は、彼のこの言葉から始まる─────────


 【「痛いッチョぉッ~~~~っ!!!! 花壇(かだん)に右足ぶつけたっチョ~~~~~ッ!!!!」】


 当時既(とうじすで)にリャンガと化していたトゥーチョは、花壇にぶつけた右つま先の痛みを歯を食い(しば)りこらえながら片足けんけんでの全力疾走(ぜんりょくしっそう)を見せていた。


 この時彼を追走(ついそう)していたのは、大福に切れ目の美人な顔を描いてから軽く押し(つぶ)したような顔に顎下から毛先にかけて強めのウェーブがかかった髪、若干(じゃっかん)筋肉質(きんにくしつ)な足にフワフワキラキラな毛が装飾(そうしょく)されたピンクのハイヒールを()き、豊満(ほうまん)なボディをメタリックレッドカラーのクリノリンドレスで()めた女性。

 彼女はトゥーチョがリャンガになる以前、人間として勤めていた大手配送会社リフユルヨット瞬急便(しゅんきゅうびん)だった頃の一番のお得意様【マダム・チョブクワック(57歳)】である。

 

 安全第一の華麗(かれい)なステップ音と鼻歌混(はなうたま)じりのご機嫌な甲高(かんだか)いオペラのような声が街を優雅に(いろど)りながらトゥーチョを追う。


 「フロンッフロンッフンッフ~ンッフッチュワ~~シカッペロ~ンッ。愛のストレート~っそして愛の角を曲がり~っ愛の階段を()りる~っからの愛の十字路出現~っワタシはモチロン右をゆく~~っ! あぁ~ワタシの愛しのイケメン~~ヒャンスター様の投げキッスチケッツは~~どこに行ったのかしら~~~~っ」


 確実に(せま)ってきていると確信を得ながら、その音から逃れようとトゥーチョが片足で必死にもがく。

 

 (くチョッ! オレの命がどこぞの【すけこましキザ男】の投げキッスなんかと引き換えにされてたまるかっチョッ!!)


 「右足再生(ミギアシサイセイ)ッ!右足再生(ミギアシサイセイ)ッ!右足再生(ミギアシサイセイ)ッ!右足さいせっ─────」


 ガンッ!!


 建物の角を左に曲がろうとした最中(さなか)、今度はその先にあった夜間点灯用(やかんてんとうよう)の低い花壇がトゥーチョの左つま先を襲った。


 「チョひ~~んッ!!!?」


 目の前にあるホタルのお尻のような大きなライトドーム目掛け大きく跳ね上がったトゥーチョは、咄嗟(とっさ)に両足を両手で(おさ)えバランスをとりながらお尻で着地。

 

 「チョはぁ チョはぁ チョはぁ チョはぁ…………。


 なんで……なんでだッチョかマダチョブ……。

 マダチョブならきっと未確認(みかくにん)生命体(せいめいたい)に成り果ててしまった今のオレのことだって、オレだと知らずとも(こころよ)(むか)え入れて下さると信じていたのにっチョ……。

 あ~全部マダチョブが口ずさんでたヒャンスターとかいうヤツのせいだッチョッ!! ヤツがマダチョブを(たぶら)かしたせいだっチョ!!

 そうだっ、いっそ本当のことを言ってしまおうっチョ!! 今まで積み上げてきたオレとマダチョブとの相思相信(そうしそうしん)超関係(ちょうかんけい)なら、ぽっと出の投げキッスあげましょーか野郎なんかに負ける筈がないんだっ……チョ………」


 しかし突然言葉の勢いを失い、何故か内心怖(ないしんお)じ気付き(さみ)しそうな顔を見せ始めたトゥーチョ。


 (いや……本当は知っているっチョ……。マダチョブがどんな人間なのかを……)


 トゥーチョの頭の中には自身が過去見てしまったマダチョブの本当の姿が浮かんでいた。


 【イケメンの()んだガムを洗濯バサミ代わりに洗濯物を()していたマダチョブ】───【イケメントーテムポールに囲まれヨガをしていたマダチョブ】───【観光バスの中をイケメンで満員にし、開けた窓から空を見上げて太陽にイケメンと指で文字を書いていたマダチョブ】───【100人イケメンドミノを作り一人一人が倒れる毎に間に(ほお)を突きだしてはほっぺにキスをさせ、最後人数不足により急遽混(きゅうきょま)ざり込んでいた人がイケメンではないことに気付いた瞬間背負い投げをかましていたマダチョブ】───………………………………他にも色々。

 

 そーいえばオレがいつも配達していたのも【イケメンドーナツ・オッレがハッグしてあげまっスシリーズのフィギュア】だったチョな。いつもマダチョブの開封(かいふう)見納(みおさ)めるまでが仕事だったチョけなっ……。


 「あのマダチョブの趣味とほぼ無縁(むえん)だった頃は全部どうでもよくて只単(ただたん)にすごく優しい方だとしか思っていなかったチョけれど、今は違うっチョ。あの狂気的(きょうきてき)な趣味がオレとマダチョブを決別させようとしているっチョ!


 そもそもこのご時世(じせい)元凶(げんきょう)一端(いったん)になってしまったオレが人間に助けを求めようとしたことがバカだったんだっチョ………。

 

 もう……いいやっチョ…………」


 そう口から言葉を(こぼ)し、トゥーチョはゆっくりとダンボールを(かぶ)り頭を(おお)い隠した──────




 カッ カッ カッ カッ


 大きく鳴ったハイヒールの音が対面間際(たいめんまぎわ)を示すと、その後すぐトゥーチョの隠れている建物の角からマダム・チョブクワックが姿を現した。


 「?」


 マダム・チョブクワックが不思議そうに辺りを見回したそこにはさっきまで追いかけていた(はず)の姿はなく、居たのは自作ダンボールの半袖・短パン姿にダンボールを頭に被り、一人ごっこ遊びをしていると思われる子供だけだった。 


 「アラ~? おかしいわねぇ~。えぇっと……ちょっとそちらの坊や、今ここに青い小さな動物さんが来なかったかしら~?」


 彼女が坊やと話しかけたダンボール姿の彼、(まご)うことなきトゥーチョである。ゆっくりと振り向きマダム・チョブクワックに向き合ったトゥーチョは、ダンボールの中から(ふる)える声を発した。

 

 「…………お……お、お、お───」


 マダム・チョブクワックが震える声に心配そうに聞き返す。


 「お?」


 「お、っっっお前の頭の……そっ、その髪っ!」


 「私の髪?」


 「トルネードポテトみたいな巻き方だなぁーッ!!」


 「え……あなた……今なんて……言ったの? トルネード……ポテト?」


 「あー間違えたー……トルネードロールケーキだる巻き扇風機(せんぷうき)ポテトだったぁーッ!!」


 「え……私の髪がトルネードロールケーキだる巻き扇風機サイクロンベーコン巻きポテトですっ……て……?」


 それはマダム・チョブクワック彼女公認(かのじょこうにん)唯一(ゆいいつ)欠点(けってん)、トゥーチョがいつも()めていた部分でもあった──────

 

 《「この髪ね、昔からの(くせ)()で私の唯一の欠点なのっ。良くトルネードとかハリケーンとか螺旋階段(らせんかいだん)なんて言わちゃってね。でも初めてトゥーチョちゃんが高級ソフトクリームみたいって褒めてくれてすごく嬉しかったわ」》


 「イヤァァァ~~~~~~~~!!!」


 ヒステリックな悲鳴(ひめい)を上げながらマダム・チョブクワックが走り去っていく。


 カッカッカッカッカッカ


 心にも無いことを言いマダム・チョブクワックを傷つけてしまった罪悪感(ざいあくかん)(さいな)まれるトゥーチョ。

 

 「……あぁ…………言ってしまった……チョ」

 

 (これでマダチョブとの関係も終わりだっチョな……。それに今まで一番長く運んできたものだったっチョが、どうやらここがお届け先みたいだっチョ……)

 

 「今日をもチョまして【信頼度(しんらいど)100%配送員(はいそういん)としての栄光(えいこう)】配達完了だっチョぉッ!! さようならっチョッ、オレぇ~~ッ!! 


 そして同時に極悪党(ごくあくとう)デビューを果たしたオレ…………ヨロシクだっチョおらァァーーッ!!!!」


 「…………」


 いつの間にだろうか、そのトゥーチョの決意の姿を無言で直視するものがそこに立っていた。背丈(せたけ)はトゥーチョと同じくらい、シルエットは今のトゥーチョの姿によく似ている。四角いサイコロのように【・】が付いた頭、ブリーチズの上に朱色の七分丈(しちぶたけ)(はかま)()き、ホワイトパール色の上に着ている着物の上からは赤いマントを羽織(はお)っている。

 

 チョッ!!? いっ、いつの間にっチョッ!!? もしかして今の聞かれてたッチョかっ!? 


 (ン? よく見たらコイツっ! 人が大変な時にっ!……) 


 「チョあー…………チョいオマエ。その格好……あんまり今のオレをおちょくらない方がいいッチョよ? 今のオレは極悪党デビューしたばかりで自分にも制御(せいぎょ)できなくて何をするか分からないっチョ」


 「…………」


 それでも(なお)トゥーチョの前に立つサイコロ頭は同様もなく依然(いぜん)として沈黙(ちんもく)(つらぬ)いていたが、次の間初めて口を開く。


 「来る……。貴様、今すぐ(われ)を運び逃げよ」


 その者の開口一番(かいこういちばん)を聞いたトゥーチョは()れた表情を見せていた。


 「チョは? 来る? 何だッチョかそれ? 勝手にごっこ遊びを始めるなっチョ。

 というかオマエ、子供だからといってその偉そうな命令口調(めいれいくちょう)は捨て置けないっチョな。人に頼みごとをするならもうチョっと態度を改めた方がいいと思うっチョよ!

 まー、頼まれたところで極悪党デビューを果たした今のオレには関係のないことだッチョがねっ。オレは平気でオマエを見捨てて───」

 

 「ハコベェェェェェェ~~~~~ッッッ!!!!!!」


 急なその強圧的凄(きょうあつてきすご)みのある殺気混(さっきま)じりのド迫力(はくりょく)の声に反応したトゥーチョの防衛本能(ぼうえいほんのう)は、彼自身の口を無理矢理こじ開けさせサイコロ頭へ対する一切(いっさい)抵抗(ていこう)を止めさせた。


 「チョッッ、チョはァイッ!!!!!!」 


 そこからはトゥーチョは周りの景色を記憶する間もなく馬車馬(ばしゃうま)のように2カンバヨートリ程走った。


 ※【1ヨートリ】=1メートル

  【1カンバヨートリ】=1000ヨートリ


 レッソグッケルを抜けて景色が一変したその場所は、瓦礫(がれき)だらけの野原。酸欠寸前(さんけつすんぜん)でそんなことを確認してる場合ではなかったトゥーチョは、サイコロ頭がいることお(かま)い無しに急いで身に付けていたダンボールを全て脱ぎ捨てた。


 「…………」


 ダンボールから現したトゥーチョの姿を見てもサイコロ頭は(だま)ったまま無反応。


 それからゆっくりと呼吸を整え始めたトゥーチョは、目前に堂々と立ち尽くすサイコロ頭を睨みながら口を開いた。


 「………………。

 オイ……チョはぁチョはぁ……言うこと聞いてやったんだっチョから、チョはぁ……オレをバカにする態度(たいど)くらい改めたらどうだっチョかぁっ?」


 タッ   タッ    タッ    タッ


 (ひざ)に手をつきながらゆっくりとサイコロ頭に近づいて行くと。


 ガシッ


 サイコロ頭を外そうと両手で(つか)み持ち上げ始めた。


 ぐい~~~~~~~~~~ん 


 スタッ


 おもいっきり高く後ろへと持ち上げたサイコロ頭は、気が付くと体がついたままの状態でトゥーチョの後ろで着地していた。

 

 「あれ??」


 「フンッ。助かってはいないが、片鱗(へんりん)は見えたからまぁ良い。貴様にはまた後で話してやろう」


 「チョは?」


 ばッ!!!!!!


 その瞬間背後から現れた黒い影はトゥーチョとサイコロ頭を(おお)った─────────



 

 


この度は御貴重なお時間の中、お目通し頂き誠にありがとうございます。

また続き読んでやってもいいぞ・今後楽しめそうだと感じられましたら、ブックマークや広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると至極幸いです。


皆様の応援を頂けますととてもモチベーションとなりますっ。これからより多くの読者様に届いて一瞬でも楽しんで頂きたいので是非お力添えの程よろしくお願い致しますっ!!



ありがとうございましたっ!!



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