第十三話:ズッガ虫
17回目の投稿になります。
一瞬でも楽しんで頂けると幸いですっ!!
どうかよろしくお願い致します。
リンロとトゥーチョが一時放心状態だった間拾われずにいた煎餅のズッガ蜜漬けには、既に虫達が群がっていた───────────────
煎餅を囲むように群がっている10匹の虫、この虫こそまさしく【ズッガ虫】である。
体長約5センチ程の黄色い小さな山に熟していない蜜柑の皮を被せたかのような胴からは、紅葉のような形をした小さな足が左右から3本ずつ生えている。
頭の正面に赤く光って見える半円は2つの扇形の目が連なったもので、頭上には食料を運ぶための格子カゴ形の二本の角が見られる。またズッガ虫達の声はとても小さく、人間の耳では到底聞きとることはできない。
「ズガ、ズズッガ。ズーガッカドズーガーカッ、ガガズドズカッズ」
~ズッガ虫の会話翻訳ON!~
「あのっ隊長っ。お菓子がまるごと落ちているこの状況、おそらくですがあの人間達の仕掛けた罠ではないでしょうか」
「何? 罠だと?
ズッガッガッ、この甘党神様が俺達に与えて下さった恵みを罠呼ばわりとは。まったく俺も、ブッ飛び思想の部下を抱えちまったもんだなぁ。
このお菓子をよく見てみろ、我々の同類が作った蜜がかかっているだろう? これはな、甘党神様からの我々への啓示を意味しているんだよ。
【今すぐこのお菓子で栄養つけ、目の前にいるトゲギザ頭人間とマスコットクマ饅頭ダルマ野郎を殲滅せよっ】っていうなぁっ!!」
それを聞いて自身の失言に気が付いたズッガ虫(部下A)は、慌てて言葉を返した。
「失礼致しましたッ!! なるほどっ! そういうことだったのですねっ! 意図を汲み取れず大変申し訳ありませんっ!!」
彼同様、他のズッガ虫達も隊長の説明に納得を見せていた。
「それじゃあまずは、俺が先人をきって行ってくるからお前達は後から着いてこいっ」
「はいっ!!」×9
我を忘れたかのような隊長が、煎餅に向かってまっしぐらに飛びかかりかぶりつく。
ムシャ ムシャ ムシャ
(ズッッほぉ~っ! ズッっめぇ~いっ!!)
そうして煎餅のぴったし十分の一を食べ干し腹を満たすと、隊長は満足げな表情を浮かべ引き返し始めた。
「お前ら~、ちゃんと均等に等分して仲良く食べるんだぞ~」
そう言いながら明らかにリンロ達とは逆方向に向かい何事もなかったかのように歩いて行く隊長に対し、後からやって来た部下達は隊長との擦違様一斉に振り返った。
グルンッ!!×9
「? …………ハッ!」
(お~っと、そーだそーだ忘れていたーんっ)
隊長が素知らぬ顔で部下達の方を振り向き言う。
「な~に少し助走つけようと思っただけだよ。ほ~ら見てろ~」
そう言った隊長の助走は開始2・3歩で失速。以降リンロ達に気付かれぬよう暗殺者さながらに草花に身を隠しながらゆっくりと近付き、やがて二人足元まで辿り着いた隊長は内心恐る恐るで噛み付いてみせた。
ズガブッ
リンロとトゥーチョの足に噛み付いた隊長は急いで二人から離れ、部下達に自身の顔がよく見える位置に立つと見たかとばかりの勝ち誇った顔で二人のことを見上げた。
「イタ」
「イチョ」
二人は全くもって痛くも痒くもなさそうだった。
(うん……そもそもこれはお菓子を食うための口実な訳で……自分の無力さを実感して落ち込む必要はないよなっ。今のは忘れるとしよう)
「よぉーしっ! 帰るぞお前達ぃーっ!!」
隊長の急な帰還宣言に後に控えていた部下達がざわつき始める。
「えッ? あ、あのっ隊長。
見たところまだ倒せてはいないような気がするのですが………。それにこのまま帰ってしまっては僕達、ただの食い逃げになって甘党神様の罰が当たってしまうのではないでしょうか?」
「ならーんっ!! 当たらーんっ!!
お前達は生存確認もできないのかっ!?
こいつらはどう見たって死んでいるっ!! ほれっよく見てみろ。【テンションとリアクションがないないどこいった】になっているじゃないかぁーっ!!
あの死体共を見てもまだ俺の言っていることが信じられない者がいるのなら、もう一度噛んで確かめてくることを許可してやる。但しっ! もし俺の言ったことが本当だった場合、疑った者達全員の今晩の食料からそれぞれ1%ずつ搾取させてもら~~~~うっ!!」
「ズッガ!!!?」×9
(ズッガッガッ、さすがに動揺しているなっ。なんたって1%だ……1%だもんなぁっ!
食いしん坊の俺達にとってこのダメージは痛すぎるだろう!
ズガガッ、これで俺の隊長としての信望は保たれたまま無事帰還確定だなっ)
ところが隊長の安心を他所に2匹のズッガ虫達がリンロとトゥーチョの元に向かい動き出していた。
「僕達、隊長のことは信じています! ですが隊長の名誉のため、部下として僕達は1%の食糧を犠牲にしてでも不安要素を完全に抹消しておかなければならないと思うんですっ!」
(っ!!? なんだコイツらぁ~! 今まで隊長生け贄上等精神だったくせに、変なとこで精神の成長始めんじゃねぇ~よっ! ……………くそ、だがここでコイツらを止めちまったらねじ曲がった成長を遂げてしまうかもしれないしっ。
アーーーっ! ったく、もうこの際バレたらバレたで仕方がないっ! 俺の威厳はコイツらの成長にくれてやるぅーっ!!)
そして2匹の部下が二手に別れ、リンロとトゥーチョに噛みついた。
ズガブッ!×2
「イタ」
「イチョ」
二人に噛みつき終えゆっくりと戻ってきた二匹が、息を呑む隊長に報告をする。
「追い討ち完了しましたっ! これで大丈夫です隊長っ!!」
「………………」
(あれ? …………バレてない?)
「…………あいつら死んでただろ?」
「はいっ! 近付いて見た時には既にどちらも表情が死んでおり、隊長の一噛みで絶命しておりましたっ!!」
(バレてないッ!!!!)
「ほ……ほぉ~らなぁ~っ! だ……だが~……あの心意気は素晴らしかったぞお前達ぃーっ!! よぉ~うしっ! お前達のその忠誠心と勇敢な行動に免じて、今回は晩御飯1%の搾取の件は撤回するとしようっ!!
さあっ! お前たちぃーっ!!
帰って昨日の【お菓子こぼしまくって延々とスカートに上書き保存しちゃってる系美少女】が落としていったお菓子たちでダウンポーパーティーだZEEEいッッッッッ!!!!! ズッガッガッガッガッ!!!!!」
そうして意気揚々とズッガ虫達が退散しいなくなった後、二人はズッガ虫に噛まれた足をかきながら我に返った。
衝撃の余韻が残った覚束ない脳ミソでリンロは状況整理を始める。
(ダメだ……。さっきの衝撃のせいで、俺の今日一日の記憶がほぼ飛びかかっている。
えっと~ロコイサ王があのサイコロ頭人形で~、ロコイサ王を拐ったダブルホワイトコットンキャンディーが~今の優しそうなお爺さん…………ということはつまり)
状況を把握しリンロが手を打った。
「あのお爺さんに頼んで、ロコイサ王返してもらえばそれで即解決ってことだなっ」
「チョはッ! お前はバカっチョかっ。どこをどう見たらそんな発言ができるんだっチョ。さっきヤツが剥き出しのべっちょべちょの煎餅を地面に置くところ見えてなかったチョか?
言っておくが、あれはまだヤツのヤバさの片鱗に過ぎないッチョ。ヤツを甘く見てたら大変なことになるッチョよ。
仮にリンロの言う通りにしたとして、ヤツの警戒度が一気にMAXになってロコイサ王様救出作戦が余計困難になってしまうだけッチョ」
「うん…………って言われてもなぁー。
相手が人間だってんなら俺に出来ることも限られてくる訳で……あのお爺さんのことだって危険にさらす訳にもいかないしな」
「チョあッ!? まさかお前っ、ロコイサ王様のこと見捨てる気っチョかッ!!?
チョうならお前を【ロコイサ王様見捨てた罪】と見なし!! ロコイサ王様代理としてオレ様が三大悪徳ティブが一つ【罪人・見捨てたティブ野郎リンロ】をこの場で切腹してやるっチョーーッ!!」
リンロに有無も言わさずトゥーチョは即座に地面に正座をし、猛烈な勢いでダンボールを折り畳み【切腹用ダンボール】を作り始めた。
「おいおいっちょっと待ってくれトゥーチョっ。誰も見捨てるとまでは言ってないだろっ。俺だってトゥーチョにはデカイ恩あるし勿論協力したいと思ってる。
だから今考えてたんだ、俺は限られた中で自分にも何かできることがないかって。それで一応、打開策2つくらいは既に思いついてある。
でも別にトゥーチョがロコイサ王を助けるのに俺の案も力も必要なくて、一人でなんとかするって言うならそれでもいいけど……。もしそうなったらトゥーチョには悪いけど俺も生きなきゃならないし、不信の眼差しを駆使してお前から全力で逃げさせてもらうからそれだけは伝えておかせてほしい」
「ッ!!!! …………そうか、そんなにオレ様に協力したいんなら仕方ないっチョね。お前の命乞い聞いてやるから、早く言ってみるっチョ」
「ごめん、恩を仇で返させないでくれてありがとうトゥーチョ。
じゃあさっそく一つ目の作戦を発表させてもらうんだけど─────────
【カウリに電話で頼んでみようっ】」
(………人任せだっチョ)
カウリに電話をかけるリンロを黙視するトゥーチョ。
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「あれっ? 繋がらない……珍しいなっ」
「…………。
何も手ェ出してないのに一つ消えたっチョ」
「…………まーこれはしょうがないとして、二つ目の作戦の方は俺とトゥーチョがいれば出来ることだから心配いらないぞ」
(…………何か嫌な予感がするっチョな……)
「そんで二つ目の作戦なんだが、それ即ち【トゥーチョがあの玩具屋さんの中からここまでロコイサ王を運んで来てそっから俺が二人をロコイサ王国まで運ぶ作戦】だっ」
「…………」
リンロのその作戦を聞いた直後、どうにも気が乗らない様子で渋い顔を見せたトゥーチョ。
あれっ? 別に難しいことを頼んだつもりはないんだけど………にも関わらずあんだけロコイサ王に忠誠を尽くしてたトゥーチョがあの反応……。あ~非常に残念ながら、どうやら俺はトゥーチョに恩を仇で返さなきゃいけなくなってしまったようだ。
覚悟を決めたリンロはエンジンを吹かすかのように、不信の眼差しの調整をしトゥーチョから逃げる準備を始めた。
一方リンロのその様子を目にしていたトゥーチョは。
(チョわッ! 何だっチョかあれ!
信用のない目に変えたり元に戻したり、完全に煽ってきているッチョ!
きっとこれでオレ様が断ったらリンロのヤツ「あらっ? そんなことしたら【ロコイサ王様の救出案断った罪】と【ロコイサ王様見捨てた罪】がダブルで罪が増えちまうんじゃないかぁ~?
ダブルホワイトコットンキャンディーだけになぁっ!」なんて言ってくるに違いないッチョッ!! くチョぉ~! オレ様がやりたくないことを強制的にさせてくるリンロの術中にまんまと嵌められてしまったッチョ!!)
甚だしい被害妄想をしていたトゥーチョは、心を落ち着かせまいと咄嗟に地面に咲いていた花を摘んで眺めた。
が、花を眺め始め2秒と経たぬ内に不安が抑えきれなくなり、今度は血眼になりその花をちぎり始める。
「ロコイサ王様好き、ダブルホワイトコットンキャンディー嫌い、ロコイサ王様好き、ダブルホワイトコットンキャンディー嫌い、ロコイサ王様好き、ダブルホワイトコットンキャンディー嫌い、ロコイサ王様好き、ダブルホワ……ダブホワ嫌いッ!! ダブホワ嫌いッ!! ダブホワ嫌いッ!! 嫌いッチョ!! 嫌いッチョ!! ヤダッチョ!! ヤダッチョ!! 行きたくないッチョ----ッ!!!!!!
………ロコイサ王様好きッチョ」
逃げる準備が万端だったリンロは、突然のトゥーチョの異常行動に唖然としていた。
思わず心配になり声をかけるリンロ。
「……お……おいどうしたトゥーチョっ、大丈夫かっ?」
「ヨシ、リンロ。ソノサクセンデイキマチョー」
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