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転生したら俺も人生一発逆転できるだろ

トラックに轢かれたはずの俺は、無傷で目を覚ました。

そして、目の前に羽の生えた女が現れた。


「……は?」


現状を理解できない俺に女が言う。


「目が覚めたみたいだね、じゃあ行こうか。」


何処にだよ……。




俺は女に何処かへ案内されている。

廊下には赤いカーペットが敷かれていて、壁には神のような絵が飾ってある。

ここが病院じゃないことは間違いない。

目の前の女は、赤い長髪、長身、上半身は鎧、下半身は長いスカートの恰好だ。


コスプレイヤーかよ、でも綺麗だな……。


「何が起きたか分からないよねー。」


「あっ、は、はい!」


不意に話しかけられたせいで声が上擦った。

俺は息を整えて続けた。


「あの、ここって何処なんですか?」


女は足は止めずに笑顔で振り返って答えた。


「てんかい。」


「てんかい」という文字列が意味するものについて考える俺に女は続けて言う。


「君にとって一番重要なことから言うとね……君は死んだんだよ。」


「え?」


確かに俺はトラックに轢かれて……でも無傷で……だけど死んでる?

おかしな出来事におかしな出来事が重なって頭が真っ白になった。


「まあ私も驚いてるんだけどね、人間がこんなとこに現れるなんて前代未聞だよ。

 何を隠そうここは天使の世界だからね。」


女は笑いながら話していた。


「天界…」


さっきの文字列が意味のある単語に変わったことで状況が掴めてきた。

俺は確かに死んだ、そして天国に辿り着いた、だから身体が無傷で存在しているんだ。

死後の世界とかは信じてなかったが、目の前の羽の生えた女とこの城みたいな建物を見て、信じることにした。

やっぱり神様だけは本当の俺のことを理解してくれていたんだ、ありがとうございます。

俺はこれからここで本当の人生をスタートさせればいいのですね。


俺は天界での将来に思いを巡らせる。

ここならきっと俺の才能を生かせる環境があるに違いない。

俺も30代だし、そろそろ結婚も考える時期だろう。

家庭を持って、子供も作って、仕事でも活躍して……俺の人生、始まったな。


「なるほど天界ですか、いいですね。俺は天界のどこで暮らすんですか?」


また女は笑顔で振り返って言う。


「暮らす? ここで? それは無理だよー。」


理想の生活が一瞬で砕け散って、背筋が凍った。

女は変わらない調子で続ける。


「だって君はこれから転生するんだから。」


これは参った、神様、あなた最高です。

異世界転生って本当にあったんですか、ここまで来たら全部信じますとも。

チート能力、ハーレム形成、なんでも叶うじゃないですか。

確かに俺は恵まれない環境で努力してきましたけど、ここまでやれとは言ってませんよ。

今まで環境のせいで自分を過小評価しすぎていたのかもしれない、これが本当の俺なんだな。


「あの、俺が転生する世界ってどんな感じなんですか? 魔法があるとか。」


「魔法? もちろんあるよ、じゃんじゃん使って活躍しちゃってよ。」


「じゃ、じゃあ、凄い能力とかも貰えるんですか?」


「もう急に饒舌になるじゃん、まあその辺はこれからかな。」


俺が積極的に話を進めると彼女も楽しそうに返す。

会話の中で彼女のことも少し知った、彼女は天使で、名前はファルルージュというらしい。

天界で倒れている俺を発見して、運んでくれたのも彼女だったらしい。


そう、本当の俺は女性と楽しく会話することも出来るんだ。

生前の女は俺に対して、嫌な態度を取ってきたが仕方ない、あいつらと俺とでは、人間としてのレベルが違い過ぎたんだ。

あーあ、俺みたいな人間を失った世界もなんだか可哀想だな。

だが今更戻ってこいと言われてももう遅い。


それからまた、だだっ広い建物内を歩き続けた。


「着いたよ。」


気が付くと目の前には緩やかな階段があり、階段の下には数人の天使が、その上の玉座にはまた別の天使の姿が見えた。


「失礼します、ミスティーチャン様。」


「ありがとうルージュ、下がって構いません。」


ファルルージュは玉座の天使に挨拶を済ませるとこの場を後にした。


「それじゃあね、頑張って。」


すれ違いざまにそっと言葉を掛けてくれた。

短い間だったけど、彼女に気を持たせてしまったかもしれない。


改めてミスティーチャンと呼ばれていた天使と階段越しに向き合う。

装いはファルルージュと同様に、鎧とロングスカートを纏っていた。

しかし、短い銀髪と切れ長の目からは、軽い雰囲気のファルルージュとは真逆の印象を受ける。


その女は俺を見下ろしながら口を開いた。


「私はミスティーチャン、ここの責任者だ。まず簡単にお前の状況を説明しておこう。」


そんなことより早く転生させてくれよ。


「お前は我々が管理する世界とは別の世界から現れ、今のお前は精神体の状態だ。」


俺はどんなチート能力を秘めてるんだろうか。


「精神体は長期間維持することが出来ず、いずれは消滅してしまう。」


ヒロインからはどんな感じで惚れられるんだろうか。


「そこでお前を我々が管理する世界に転生させることで、第二の人生を与えようと考えている。

 どうだろう?」


ん、話終わったか? 今転生って言ったよな。


「はい! 転生します!」


「そうか、では早速お前の能力を測らせてもらおう。」


ミスティーチャンは階段を降り、俺の前に来ると、右手をかざしてきた。

さあ、俺の本当の才能を見出してくれ。


「お、おかしいなんだこれは……。」


やれやれ、「俺の能力がおかしいって低すぎるって意味だよな?」とでも言うべきか?


「能力が低すぎる……」


うんうんそうだよな……え?


「知力、社交性、体力どれを取っても低すぎる。

 普通に生きていればこんなことにはならないはずだ……。」


おい、その目をこっちに向けるな。

さっきの老害ジジイと同じ目だ、憐みなのか、軽蔑なのかは知らないが俺を下に見る目だ。

おかしいのは俺の才能を見抜けないお前の方なんだよ。


「いや、何かの間違いかもしれん。」


ああ、こんな評価間違いに決まってるだろ。


ミスティーチャンは俺に質問を投げかけてきた。


「お前が転生前に力を注いだことはなんだ?」


なんだそれ、そんなことより俺が秘めてるチート能力を教えろよ。

黙ってミスティーチャンの方を向いていたが、俺が答えるまで先に進まなそうだ。


俺が力を注いだこと……自分の人生を思い返した。

俺は今まで何をやってきた? そもそも力を注ぐってなんだ?

え、俺の人生って……いや違う、俺は大学も出たしそれから、それから……。


「お、俺はこれまで頑張ってきました。

 親や社会に恵まれなくても頑張りました。

 だ、だから、俺は力を注いで生きてきまし、た……。」


おかしいだろ……本当の才能を見出されて、楽しい転生ライフが待ってたんじゃないのか?


「下流だな。」


「え?」


「お前が転生する世界には、階級制度が存在している。

 そこでは階級で職業や生活圏が決められており、生まれ持った階級は生涯変わらない。

 下流はその階級の最低階級だ。」


それって底辺ってことじゃねえかよ。

なんで転生してまでそんな人生送らなきゃならねえんだよ。

国ガチャノーマルどころじゃねえだろ。


「あ、あの、何か特別な力とかは……。」


「転生後の能力は、本人の能力と適正の範囲内でしか与えることが出来ない。

 お前にそんなものがあるわけないだろ。」


ミスティーチャンの口調は当然のことと言いたげだった。


あ……死の。


「転生もういいです。このまま消滅でいいです。」


俺は返事を待たず来た道を引き返そうとした。

行き先があるわけじゃないが、少しでも早くここから離れたい。


「悪いがこちらにも都合があるのでな、転生はしてもらうぞ。」


後ろで何か言っているようだが、もう俺には関係ない。


俺を傷つけた女に背を向けて一歩前に踏み出した瞬間、足元に暗黒の穴が開いていた。

俺はその穴に落ちて闇に沈んだ。

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