おとめなももくり。
「皆さん、注目してください!!」
ざわついていた教室が一瞬にして静まりかえった。
先ほど知り合いになった美馬桃花さんとの、
会話を切り上げ、教室の入り口に視線を向けた。
「今日はもう一人、転校生を紹介します」
担任のシスターが女生徒を教壇に上げ、黒板にチョークで名前を書く。
「三枝康恵さんです、みなさん仲良くしてあげてね!」
二年B組の女生徒達が一斉にどよめく、僕は周りの反応に驚いてしまった。
「可愛くない? 何だかモデルさんみたい……」
「背が高くて、顔ちっちゃ!」
「お姉さまって呼んでもいいですか?」
隣に座る美馬さんまで、喜びを隠せない様子で、
壇上の康恵ちゃんに向かって大きく手を振っていた……
「康恵ちゃん、こっち、こっち、シスター、ここの席が空いてます!」
「ミス美馬、お行儀が悪いわ、神様はあなたの行いを見ていますよ!
まあ、いいわ、三枝さん、空いている席について……」
担任のシスターに咎められ、途端にしゅんとなる美馬さん、
康一もとい康恵ちゃんは、僕に目配せしながら自分の席に向かう。
へ~、本当にあるんだな、絵に描いたようなお嬢様学校って……
ただでさえ女の子初心者の僕には、先程のおっぱい検査でも驚かされて、
面食らう事ばかりなのに、先が思いやられるな。
だけど康一が無事で本当に良かった……
にゃむ子さんの妹さんが、保険の先生だってことには驚いたけど、
絶体絶命のピンチに現れてくれて本当に助かった。
シスターが言っていた神様が見ているって何のことだろう?
あとで美馬さんに教えて貰おう。
「じゃあ、授業を始めます、テキストを開いて、
皆さん、課題はやってきましたよね?」
「は~~い!!」僕と康恵ちゃんを除いた女生徒達が手を上げた、
あれっ? 隣の美馬さんの様子がおかしいぞ、挙手の仕方がぎこちない……
「大迫さんと三枝さんは隣の人に内容を教えて貰って……」
担任のシスターの指示で僕は隣の人に課題のテキストを見せてもらう
英文を訳す問題だ、僕が通っていた高校よりハイレベルだな、
進み具合が違うぞ、さすが都内でもトップレベルの女子校だ。
ふと気になって康恵ちゃんの様子を伺う、美馬さんとペアになっている、
だけど肝心の康恵ちゃんより、教える側の美馬さんの様子がおかしいぞ、
英語のテキストを広げたまま、何やら困り顔だ……
「では、代表して課題を発表してもらいましょう、そうねミス美馬、
読み上げてみて」
「えっ!発表? はっ、はい……」
急に指されて慌てふためく美馬さん、さっきから一体どうしたんだ?
立ち上がろうとしたが何故かためらう仕草、
がたがたと椅子が音を立てる、
「……あ、あう、ええっとぉ」
明らかに様子がおかしい、顔は真っ赤で、その表情はうつろだ……
もしかして…… 英語の課題が解らないのか、こちらからテキストが見える、
やっぱり、課題のページの答えが空欄のままだ……
「どうしました…… ミス美馬、早く答えを発表して!」
担任のシスターから厳しい催促が飛んだ。
「あ、……ううっ……」
握りしめた手が震え、美馬さんが泣き出しそうに見える、
どうしよう、何とかして助けて上げたいけど、僕には何も出来ない……
次の瞬間、康恵ちゃんが動いた、課題のテキストを自分に引き寄せると、
一瞬にして答えを書き込み、無言で美馬さんに手渡した。
「あっ、ありがとう……」
僕の席で微かに聞こえる小声で感謝の意を表す、
「もし私がヒーローなら、きみを助けることができたのに……」
すらすらと解答する彼女を、康恵ちゃんが安堵した表情で見守っていた。
そうだ、僕はすっかり忘れていた、康一の良いところ、それは困った人がいたら
手を差し伸べずにはいられないという性分だ、自分が窮地に追い込まれても、
助けた相手に感謝されなくとも、結果、貧乏くじでも、考える前に身体が動く、
だから僕は康一に惹かれたんだ……
じっと見つめる視線に気が付いたのか、こちらに視線を落とし、
眼鏡のつるに指を掛け、顔の前でレンズ部分を上下させておどけて見せた。
照れ隠しですぐにふざける癖は、子供の頃から変わっていない
「馬鹿っ……」
僕の中で膨らむのは胸だけじゃないんだ…… いつかあなたに伝わるといいな、
花束のようなこの気持ち……
午前の受業が終わり、僕たち二人は美馬さんに誘われて、みんなで昼食にした。
「さっきはホントに、本当に助かったよ!! 三枝さん、ありがとう……
恩に着るよ、桃花、昨日、体調が悪くて英語の課題、出来てなかったんだ」
「康恵でいいよ、体の具合大丈夫なの? 美馬さん」
「う、うん、急に熱だしちゃってね、もう平気だけど、
あっ、私のことも桃花でいいよ、康恵ちゃん!! ねえ大迫さんも名前でイイ?」
「もちろんだよ、桃花ちゃん!! 正美って呼んでね、じゃあお弁当食べよっか」
「うん、やっぱり神様は見てるんだね、素敵なお友達と知り合わせてくれて……」
「桃花ちゃん、その神様は見てるってどういう意味なの?」
教室でシスターも言っていた言葉だ、桃花ちゃんに聞こうと思っていたんだ。
「そっか、二人とも転校してきたから、まだ知らないよね、ウチらの女子校は、
カトリック系だから、恥を知りなさいと言うのがモットーで、日々の行動規範に
品位ある行動、いつ神様に見られても恥ずかしくない所作が、この国を担う女性、
健全な精神、肉体の婦人を作るんだって……」
「じゃあ、あのおっぱい検査も関係あるの? それにノーブラ推しも……」
「嫌だぁ、康恵ちゃんったら、おっぱいなんて、シスターに聞かれたら、
反省房行きよ…… 気を付けてね、んっ、まあ、えっちな女の子には、
興味はあるけど……」
「ごめん、ごめん、おっぱい、いやお胸様にしとこう……」
「きゃははっ、なにそれ、おかしいよ! お胸さまって……」
反省房か、不穏な響きだ、桃花ちゃんの言っていたことが何か引っ掛かるぞ?
「そうだね、あの毎朝の規律検査も、この学校独自の物なんだ……」
おっぱい検査のことになると、桃花ちゃんの表情に険しさが増した。
「いいわ、ちょうど午後、体育があるから、着替えの時に規律検査のこと
二人に教えて上げるね!!」
桃花ちゃんはにっこりと笑い、お弁当を美味しそうに頬張った。
体育の時間で着替え? 女装の康一が着替えをしたらヤバいか、
対策を考えておかないといけないな……
そうこうしているうちに体育の時間が来てしまった、
二年B組の生徒は体育館に移動した。
体育館の奥に更衣室がある、さすが名門お嬢様学校、広いスペースに
ロッカー、パウダールーム、その奥にはシャワールームまで完備で、
聖胸女子は部活動も盛んで、設備が充実しているのも納得だ。
手前のロッカーに桃花ちゃんが、着替えの入ったバッグを置く。
「空いている所を自由に使って、康恵ちゃん、私の隣使えば!」
「うん、ありがとう、桃花ちゃん!!」
「着替える前にさっきの話の続きをするね……
規律検査と、何でノーブラ推進なのか、全部教えるから!!」
桃花ちゃんが、女子更衣室の扉を確認する、
カチャリ、鍵をロックしたみたいだ。
「誰かに聞かれたら大変なの、シスターだけじゃないから、
特にミューズの先輩に聞かれたら……」
ミューズ? またその単語だ、生徒会長の今宮美鈴さんが言っていた、
自分がミューズの代表だって……
「急がないとね…… ふたりとも制服を脱いでくれる?」
えっ、いきなり制服を脱ぐ? 康恵ちゃんの女装をガードしなきゃ……
「じゃあ、恥ずかしいけど桃花が先に脱ぐね……」
そう言って彼女は制服を脱ぎ始めた、最初にローファーの靴と、
学校指定の紺色のソックス、少女の白い足があらわになる……
「……!?」
「ここでも神様に感謝かな、えへっ、可愛いショーツを穿いてきて良かった……」
「……も、桃花ちゃん、何をするの」
「ノーブラ推しの理由だよ…… 康恵ちゃんと正美ちゃんに見て欲しいんだ、
大人のシスターに見られるのは嫌だけど、二人なら……」
そうして彼女はスカートのホックに手を這わした。
次回に続く……




