幼馴染のおっぱい
……カラーン！カラカラ。
落とした桶の落下音だけが、大浴場に響き渡った。
「こ、康い……」
全てを見られたショックで言葉にならない、
立ち入り禁止の札を間違いなく掛けたはずなのに。
タオルで前を隠す暇もなかった、晒したこともないおっぱいもだ。
どうしてなの？ これまで苦労が水の泡になってしまう！
康一とも幼なじみの親友のままではいられない。
大浴場の引き戸に手を掛けたまま、康一は微動だにしない。
その出で立ちはトレードマークのメガネを外し、
小脇に洗面道具の防水ポーチを挟み、たくましい胸板が見えた。
下半身は……、良かった、大事な所にはタオル巻いている。
……康一って結構、細マッチョなんだ。
駄目、駄目！！ こんな非常事態に何ポワポワしてんのよ。
「……ま、正美？ ど、どうしたの、その格好、
いやいや！服は着ていないから格好というのはおかしいな……
そ、そして、な、何なんだお前、そ、そのおぱーいは！！」
……あ、康一がバグった。
「あ、わかったぞ、映研の佐藤だな、特殊メイクと言えば
アイツの右に出るやつはいないからな！
ドッキリなんだろ！ その嘘おっぱい！！
今も隠れて撮影してるんだろ、おっぱい星人捕獲の瞬間って」
キョロキョロとあたりを見回し、隠しカメラを探す康一。
「……そ、そのおっぱい」
康一がじりじりとこちらに距離を詰めてくる。
瞳孔が開き、完全に目が据わっている。
「何で俺の理想が分かった？ 色！ 艶！張り！形！
最高のおっぱいじゃないか。
分かったぞ、佐藤のヤツめ、どこまで俺を苦しめる気だ！
深夜チャリを飛ばしてエッチな自販機で購入したアレだ！
あの本をモデルに忠実におっぱいを再現したんだな！！
（綺麗なおっぱいしてたんだね、知らなかったよ……
隣にいつも君がいてくれたことを、貧乳だと思っていた
幼なじみが隠れ巨乳だったなんて、夏）だな！」
はあっ？ 長いよタイトル、康一の性癖は分かって嬉しいけど。
「堅物の正美には内緒！って仲間はずれにした罰なんだな、
そ、それにしても…… けしからんおっぱいだな、
俺の理想を忠実に再現してやがる！ 冗談にしても酷すぎるぜ……」
あれっ、めっちゃ興奮してません？
康一の肩が、激しく上下する、まるでゴリラみたいだ。
「よりによって男の正美におっぱいを装着するなんて！」
コイツ、もしかして胸しか目に入ってないの？
下もすっぽんぽんの僕を目の前にして、
どう見ても女の子でしょ、今の僕は、
付いてないでしょ、股間にアレが！
おっぱい星人銭湯に現る！！
「全く！ けしからん！！、何だ、このおっぱいは！！！」
ふうふうと、康一の鼻息がおっぱいに掛かる距離だ。
「しかし、よく出来てんな、シリコンフォームか何か？
さすが佐藤、和製リックベイカーの名は伊達じゃないな」
手を伸ばしておっぱいの先端に触れようとする。
次の瞬間、ハッと我に返った。
「さきっぽ触っちゃ駄目ぇ！！」
火事場ならぬ風呂場の馬鹿力で康一の肩を押す！
……間一髪で乳輪に触れられなかった。
ツルッ！ サーー！ ガガガガガガガン、グシャ！！
押されて転倒した康一は、磨き抜かれたタイルの床を
滑り始め、積まれていた洗い桶の山に激突してしまった。
ボウリングのピンさながら、桶が四方八方に散乱した。
「康一！！」
散乱した桶が散らばる中で、仰向けに康一は気絶していた。
どうやら頭を富士山の壁画前のコンクリに打ち付けたようだ。
おっぱいが激しく揺れるのも厭わず、康一に駆け寄った。
「大丈夫、康一！ しっかりして」
……どうやら脳震盪を起こしているみたいだ。
外傷がないか康一の身体を確認する。
「何？ これ！！」
見たこともない光景が康一の身体に起こっていた。
康一の下半身、みぞおちから下の当たりで洗い桶が宙に浮いていた。
「不思議、ＵＦＯみたい……」
亀の湯謹製の桶、明治時代から登録商標の亀の絵は変わっていない。
黄色い洗い桶が、まるで未確認飛行物体のようにクルクル回っていた。
何かのトリックがあるんだろうか？おそるおそる桶に近寄ってみる。
「嫌っ！！」
……トリックを見破ってしまった。
勢いよく上下運動しているんだ、お正月恒例の皿回しみたいに、
ぼ、棒が……これ以上、おぼこ娘には言えない。
……いつもより余計に回しております！！なんて♡
次回に続く！！
