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君の乳頭の色は?

「正美、ど、どうしよう、おっぱいを見せるなんて……」


 このままでは、すぐに順番は回ってきてしまうぞ、いきなり大ピンチだ。

 そうなれば女装で女子校に潜入している事が、すぐにバレてしまう……


「……っ……どうしたらいいの?」


 半歩先に立ちすくむ正美の顔から、血の気が引くのが横顔からでも見て取れた、

 俺こと三枝康一は、冷静な判断が出来なくなっている自分に、

 強い焦りを感じていた。


「一年B組、美馬 桃花 乳頭の色、自己申告はピンクです、

 確認お願いします!!」


 先に検査の列に並んでいた小柄な女子生徒が、シスターに名前を告げる。

 何だか無理して声を張り上げているように感じられた……

 肩の下から遮られた衝立の死角になって、前に整列した女子生徒の

 胸は見えないが、衝立の磨りガラス越しに上半身の動きは分かるので、

 シスターにおっぱいを晒している事は見て取れる。

 刺すような視線を女子生徒の胸部に巡らせて、名簿のような物に、

 何やら記入している、おっぱいをシスターに触診されているのか、

 ツインテールの美少女が、僅かに顔を歪めるのが俺の視界に入った。


 これが生徒会長の言っていた厳しい規律検査なのか……


「乳頭の色 確認、桜色なり良好、乳房のしこり無し、ブラ跡無し、検閲完了!

 乳房は至って健康、よし!当校内へ立ち入りを許可する……」


「乳頭の色は?」だと…… ゴクリ。

 女の子の乳首がピンク色♡と聞いたら、思わず「ええか~、ええのんか~?」と、

 敬愛する鶴光師匠の生き霊が、俺に憑依してしまいそうだ。


 何と羨ましい……ケフン、ケフン、もとい許されない行為ではないのか!

 俺は自他共に認めるおっぱい星人だか、女の子の嫌がる行為、

 相手の合意の無いおっぱい、自分本位なおっぱいへの接触は品性下劣だ。

 女性への限りない敬意の念、俺はおっぱいへのリスペクトを大切にしたい!!


 前で触診を受けていたツインテールの美少女が俺達の横を通った、

 感極まった俺は思わず、声を掛けてしまった……


「大丈夫? 顔色悪いよ」


「えっ、あ、ありがとう、心配してくれて…… えっと、あなた誰だっけ……」


 桃花と言っていたな、驚く程長い睫、その大きな瞳にうっすら涙を浮かべている、

 その涙の雫を見た瞬間、冷静で居られなくなる自分に気付いた……


「急に話し掛けてごめんね、今日から聖胸女子に転校してきたんだ、

 私は三枝康恵、隣にいるのが大迫正美ちゃんだよ!!」


「大迫正美と言います、今日からお世話になります、えっとみ、ま……」


美馬桃花みま ももかだよ、こちらこそよろしく……

 あっ、その校章、一年B組ってことは同じクラスだね!!」

 うなだれていた表情にぱっ、と光彩が灯る、彼女に笑顔が戻って良かった。


「ありがとう、私のこと心配してくれて……

 じゃあ、後で教室で会おうね!!」

 俺達に手を振りながら足早に部屋を後にする、健気な女の子だったな……

 だが理不尽な校則に、俺の怒りはまだ収まらない……


 今、俺の前で行われている検査は、学校教育という大義を隠れ蓑にした、

 スクールハラスメントではないのか!!


「ゆ、許さんぞ、絶対にだ、美少女のおっぱいを蹂躙し、

 その可憐な笑顔を曇らすとは!!」

 怒りで怒髪天を突くとは、まさに今の状態を指すのだろう。

 俺の細胞全部がおっぱいへの正義を貫けと言っているようだ……

 ドクン、ドクン!!


「……何だ、この疼きは!?」

 怒りに震える身体に突然、湧き上がるような熱、

 この感覚は前にも経験している……


「つっ、どおわっあああ!!」

 俺は自分の身体に異変が起こった事を強烈に痛感した、

 いや、そんな生易しいものじゃない、制服のスカートの中だ!!

 経験したことのない激痛が、俺のみぞおちに走った……

 普通ならその場に転げ回りそうになる鈍痛を、俺は必死で堪えた、

 脂汗がだらだらと、お下げ髪のウィッグ、男の娘化した俺の地毛部分に流れる。


「ぐはあっっ!!」

 こっ、コッドピースぅ、最凶又袋だ! 俺の相棒をちぎれんばかりに締めつける。

 正確に言うと、俺の相棒にこの間の亀の湯で体験した現象が起きているっ!!

 俺の感情が高ぶると、呪いの影響で相棒が鋼のように、ビンビンどころか

 おギンギンになっているんだ、前回と違うのは、むやみな暴発防止に、

 鉄の処女ならぬ、鋼鉄の又袋、コッドピース様を嵌められているんだぁっ……


 西遊記の孫悟空が頭に嵌められた鉄製の輪っか、正式な名前は、

 緊箍児きんこじと言うそうだが、悪いことをしないよう三蔵法師様が

 悟空に課した物だ、呪文を唱えると頭を締め付けて罰を与えるんだ。

 男性なら分かって貰える痛みだと思うが、孫悟空の輪っかがアレに

 嵌められてガンガンに締め込んで、男性自身を殺しに掛かってくる様を、

 想像して欲しい、相当なタマひゅん案件だ……


「こ、こほおおおおおっ!!」


「……や、康恵ちゃん?」


 このまま失神出来たらどんなに楽だろう…… 

 鈍痛と激痛が交互に俺に襲いかかって来て、意識を失わせてくれない。

 何という地獄だろうか、堪えようと固く握りしめた自分の膝が、

 みるみる赤くなり、自らの爪で血が滲みそうになる。


「は、はあああっ!! や、康恵ちゃんが大変だ!!

 誰か、お願いしますっ、助けてください、康恵ちゃんが死んじゃう!!」


 薄れゆく意識の中で俺を呼ぶ、正美の声が聞こえていた……

 俺は女装している上に、スカートの下に大変なモノを装着しているんだ、

 もしシスター達に発見されたら、潜入調査も全て出来なくなってしまう、

 正美、お前のことも心配だ、迷惑ばかり掛けて本当にすまない……

 色々な事を考えながら俺は完全に意識を失った。


 *******


 瞼が重い、眩しくて目が開けられない、

 今まで無音だった世界に、洪水のように音と光が流れ込んでくる、

 俺はまたベットに寝かされていた……


「……気がついたか?」


「ここは…… !? 正美は、何処だっ!!」


 周りを見回すと、ベットの脇に俺の制服が綺麗に折りたたまれているのが

 視界に入った、ああ、最悪だ…… 女装がバレてしまったに違いない。

   失望で頭が真っ白になるが思考を巡らす、何かいい解決方法はないのか?

 自分の身も大切だが、最優先は正美の安否だ!!


 飛び起きようと、自由の効かない上半身を起こそうとする。


「待て、その格好で表に出たら大変な騒ぎになるぞ……」

 静かだが厳しい声に、上掛けの布団をはね除けようとする手を止めた、

 そして俺は大変な事に気が付いてしまった……


「珍妙なお飾りを付けたまま、女子高生のるつぼに飛び込む勇気はあるか?」

 又袋…… コッドピース様は俺の中心に鎮座したままだ……

 あれっ、でも痛みはすっかり消えているぞ。


 医療用の棚が目に入る、その脇のデスクに腰掛けた白衣の女性、

 彼女が俺を助けてくれたのか?


 軽くウェーブの掛かった肩ぐらいまでの髪、

 白衣の上からでも分かるスタイルの良さ、クールな佇まいだが、

 形の良い唇から覗く八重歯、んっ、どこかで会ったことがあるか?


「なあ、三枝康恵ちゃん、いや三枝康一君だっだね……」


 俺の正体を知っている白衣の女性は一体誰なんだ!! 



 次回に続く!!

数ある作品の中からご一読頂き、誠にありがとうございます。


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