絶世の美人とノーブラ検査
聖胸女子高等学校に続く駅前アーケード通り、毎朝同じ光景、
規則正しく通学する女子生徒達の列、ごくありふれた光景に見えるが、
他の女子校と大きく乖離する印象を、僕、大迫正美は最初から感じていた。
その理由は……
「皆さん、ご静粛に!! 道をあけてくださらない……」
まるでモーゼの海割りのように 声を発した女子生徒の前に道が開ける、
僕の前に歩み寄る彼女を見た途端、心臓の鼓動が嘘みたいに跳ね上がった。
何だ、この絶世の美人は? 綺麗とかのレベルではない、
本来の性別が女の僕でも、畏敬の念を覚え、思わず絶句する程の美しさだ……
気品が感じられるナチュラルな美しさで、昭和を代表する大女優さんに
面影を重ねてしまうのは、映画好きなお祖母ちゃんの影響だろう……
「どこかお怪我は、ない?」
「だ、大丈夫です……」
たおやかな指先が目の前にに差し伸べられるが、返事をするのがやっとだった。
「遠慮しないでね、せっかくの制服、汚れちゃうと残念だから……」
柔和な微笑みに射すくめられる、眩しすぎて相手の顔を見返すことが出来ない、
思わず視線を逸らすと、彼女がハンカチを差し出した事に気がついた。
「これ、使ってね、お友達も拭いてあげて……」
花の刺繍が施された白いハンカチ、戸惑う僕の手に優しく握らせてくれた、
高嶺の花ではない、気品の中にも細やかな気使いが伺える、
「あ、ありがとうございます!!」
「あなた、お名前は?」
「僕は大迫正美、この子は三枝、や、康恵ちゃんです、
本日より聖胸女子高等学校に入学させて頂きます……」
「ふふっ、元気が良いのは何よりだけど、シスターに怒られないよう気をつけてね、
ほらっ、正門前を見てご覧なさい、朝の規律検査の為に待ち構えているから……
私達、聖胸女子の校則は厳しいのよ、大迫さん、三枝さん、覚悟はいい?」
「はっ、はい、頑張ります!!」
僕とヤスミンが同時に返事を返す。
「困ったことがあったら、気軽に生徒会室を尋ねて来て、
私がミューズの代表として、何でも相談に乗るから……」
「あの~ 失礼ですけど、綺麗なお姉さんのお名前、聞いてももいいですか?」
康恵ちゃん!! 男の娘だって事を忘れてない? 康一の素がダダ漏れだよ……
「あっ、ご免なさい、まず名乗らなきゃ失礼ね、私は今宮美鈴《いまみやみすゞ》
三年生、あなたたちのひとつ上の学年ね、そして生徒会長を務めているわ」
みすゞさんかぁ、名は体を表すとはよく言ったものだ
絶世の美人さんは名前まで響きがいいんだな……
合わせて生徒会長とは納得の人選だ、 優しいなかにも威厳を兼ね備えている。
「生徒会長さん、どこかでお会いしたことありません?」
「えっと、三枝さんとお会いするのは、今日が初めてだと思うわ……」
康恵ちゃんが顎に手を当て、訝し気に悩む素振りを見せた。
ごきげんよう、そう言い残して颯爽と美鈴さんはその場を後にした、
いつもの静寂が通学路の光景に戻ってきた……
幸先の良いスタートかもしれないな、親切な先輩に出会えて、
僕たちが知らない、聖胸女子にまつわる校則の厳しさも教えて貰い、
大変参考になった、……でもミューズって何だろう?
非常に気になるキーワードだ、学校案内や生徒手帳にも載ってなかった……
お言葉に甘えて、後で生徒会室に聞きに行っても良いのだろうか?
入学初日朝のハプニングも終えて僕たちは門を抜け、敷地内へ足を踏み入れた。
門に立つシスターたちに誘導され、校舎に向かう途中の建物に集合させられる、
建物の周りには、外部からの視線を遮るフェンスが張り巡らされていた。
「ほらほら、早くしなさい、三列に別れて整列して、
一糸乱れぬ団体行動も、我が聖胸女子高等学校の美徳ですよ!!」
修道女の格好をしたシスターが、教鞭も取ると学校案内には書いてあった。
カソリック系の流れを組み、東京の有名女子校トップ三位に数えられる、
聖胸女子は、お嬢様の通う女子校を具現化した存在と言って過言では無い。
これが生徒会長である、美鈴さんが言っていた恒例の風景、
シスターによる朝の規律検査なんだ……
「では制服の胸元を開いて、順番に並びなさい……」
シスターの言葉に、ためらう事なく、並んだ生徒達が制服の胸元を開き始めた、
女子高生の禁断の果実が、あちこちに姿を表しはじめた、
可憐な少女たちの白いふくらみが目に眩しい、
驚きの光景に僕は言葉も出なかった……
制服の下に皆、ブラジャーを付けていなかったからだ!!
ええっ、校則検査って、まさかおっぱいを見せなきゃいけないの?
それに他の女子生徒全員、制服の下がノーブラなんて……
僕の頭のなかに、にゃむ子さんが以前、説明してくれた事が蘇った、
(ノーブラが聖胸女子高等学校に入学するとき、大事なことなんだよ……)
ハラスメントな校則で、教師による下着のチェックは聞いたことがあるが、
まさかのノーブラかどうかの確認? こんな横暴、僕には考えられない、
初日からいきなり大ピンチだよぉ!! どうすればいいの……
僕は頭ならぬ、おっぱいを抱えて悩む羽目になってしまった……
自分はもとより、男の娘に扮した康一の運命は風前の灯だ、
シスターの検査を無事、切り抜けられるだろうか?
「正美、ど、どうしよう、おっぱいを見せるなんて……」
「……っ…… どうしたらいいの?」
次回に続く!!