第一章 起
本人視点の作品です。
残酷なシーンが出てきて一応ざまぁはありますが、死人は出てきません。
ヒロインは少々お馬鹿で残念悪女ですが、割とシリアスな話です。そして一見救いがなさそうですが、とりあえずハッピーエンドです。
読んで頂けると嬉しいです。
侯爵令嬢である私、ジェニファー=レイヴィンは、学院の卒業パーティーで婚約破棄を宣言しました。
相手は私より三つ年上で子爵令息のアンソニー=ローゼンメイデ。政府勤めの男ですわ。
頼みもしないのに屋敷からここまで私をエスコートしてきました。もちろんフロアに入ったら追い払おうとしたけど、しつこく付き纏ったのです。
濃い茶色の髪を七三分けし、薄茶色の瞳を持っていて、地味だけど一応整った顔立ちをして、均整の取れた体格をしている。
まあ、見かけだけなら、私に相応しくないこともないけれど、たかだか子爵家の次男のくせに一々口うるさく説教をする、身の程知らずな男です。
しかも実の妹を私の見張りに付けて、人の交際にまでいちゃもんつけてくるなんて信じられないわ。
だから元々卒業してから婚約解消するつもりだったの。
だけど、せっかくの私の卒業パーティーにまで付いて来て嫌がらせをするから、どうせなら多くの人々の前で婚約破棄をして、彼の罪を暴いてやろうと思ったのよ。
彼は目を大きく見開いて、まるで信じられない物を見るかのように私を見たわ。
さぞショックだったでしょうよ、この私を手に入れられなくなったのだから。
本気で私と結婚したかったのなら、今私をエスコートしてくれている二つ年上の従兄のジャレットのように優しくしてくれれば良かったのよ。今更遅いけど。
「こんな場所で何馬鹿な事を言っているんだ! 非常識にもほどがある。さあ、屋敷に戻ってからちゃんと話そう」
アンソニーは怒りながらも、声を抑えてこう言ったが、冗談じゃないわと私は思った。
半年前から彼は政府で働きながら、我がレイヴィン侯爵家の領地経営を父から学ぶ為に、うちの屋敷に住んでいた。
でも、婚約破棄したのだから、一緒に同じ屋敷になんかいたくないわ。
「いい加減にして。もう貴方とは一分一秒もいたくないの。婚約破棄したのだからもううちの屋敷には来ないで頂戴!」
私はまずアンソニーに向かってこう言ってから、周りを見渡したながらこう訴えました。
「皆様、聞いて下さい。この方は私の婚約者だからといって、もう侯爵にでもなったかのように上から目線で、私に小言や注意ばかりして、人を見下しておりましたの。
これってモラハラですわよね?
それに私が従兄のジャレットと二人でお茶を飲んでいるだけで、嫉妬して引き離そうとするんですよ。
その上実の妹であるシルヴァが私と同級生なのをいいことに、私を見張らせて、一々学院内の事を口出ししてきましたのよ。
そんな底意地の悪い冷たい人と結婚なんか出来ませんわ。皆さんもそう思われるでしょう?」
私がそう言って改めて周りを見渡すと、同級生の女子達は皆私から目をそらしてパートナーの方に隠れてしまった。
えっ? 何故? そう思った時に同級生達がスッと動いてホールの中に一本の道が広がりました。
そしてそこに同じ卒業生であるネルリア王女がシルヴァ様と共に現れました。そしてなんとこうおっしゃった。
「アンソニー卿が婚約者の貴女を妹のシルヴァに見張らせていたですって? そんな訳がないでしょう。馬鹿馬鹿しい。
シルヴァはただ、近い将来義姉妹になる予定の貴女が友達もいなくて可哀想だと思ったからこそ、側にいてあげただけじゃないの。
そして貴女の振る舞いが余りにも淑女らしくないから、このままでは宰相閣下や侯爵家のためにならないと危惧したからこそ注意して差し上げただけでしょう。
大体学年一の才女に勉強を教えてもらったおかげでようやく卒業出来たというのに、それに感謝するどころか、悪し様に言うなんて呆れてしまうわ。
シルヴァは私の親友で、卒業後は私の侍女になるのよ。その彼女をこんな祝いの席で貶めるような事を言うなんて、貴女はどういうつもりなの?」
私は王女殿下の言葉に震え上がったわ。だってシルヴァが王女殿下の親友だなんて知らなかったもの。
あんなに地味で面白味がなくて頭でっかちな女のどこがいいの?
それに私に友達がいなかったですって? 一体何を言っているの?
侯爵家の一人娘で、その上自分で言うのもなんだけど、金髪碧眼の美人なのよ、私は。そんな私に友達がいない訳がないでしょ。ねえ?
私は再び周りを見渡したが、誰も目を合わせてくれない。しかも、ヒソヒソと扇子を口にあてたまま、あちらこちらからこんな声が聞こえきました。
「せっかくの卒業パーティーだというのに、何故こんな騒ぎを起こすんだ!本当に迷惑だ」
「まあ、あのジェニファー嬢だから何かやらかすのではないかと思っていましたが、まさか婚約破棄だなんて、なんて非常識なの!」
「それに生徒会活動や勉強で忙しい中付き合って下さっていたシルヴァ様になんていう物言いかしら」
「本当に恩知らずだな。自分がぼっちだってまさか気付いていなかったのか?」
「あら、女友達はいなくてもとっても親密な殿方はいらしたんじゃない?」
「でも、それって従兄だろ? 身内だろう? 友達じゃないよな」
「いくら従兄妹だって、以前誰もいない中庭に二人きりでいた事もあったわよね。それでは、浮気していたと思われても仕方がないんじゃない?
それなのに、注意されて逆切れするなんて、なんて恥知らずなのかしら」
「いや、完全に浮気だっただろ? ジャレットが在学中、二人が接吻していたのを見たぜ」
「まあ、なんて破廉恥な!」
あまりにも酷い事を言われて私は頭にきてしまった。何故被害者である私ばかりを悪く言うの?
たから誤解を解く為に言ってやったわ。
「皆様、私は浮気などしていませんわ。私は幼い頃からジャレットと愛し合っていたのです。これは真実の愛ですわ。
それなのに父の親戚筋のアンソニーが、無理矢理に私達の仲を引き裂いて私の婚約者になったのですわ。ねぇ、義伯父様、伯母様」
私はすぐ側にいたジャレットの両親である伯母夫婦に同意を求めた。
伯母は亡くなった母の姉で、本来はレイヴィン侯爵家を婿を取って跡を継ぐ予定だった。
しかしハイネル伯爵家の伯父と恋に落ちて、祖父母の反対を押し切って結婚してしまった。子供が出来てしまったので、認めざるを得なくなったのだ。
そして次女だった母が、親戚の強い勧めでたかが子爵家の次男だった父を婿にして跡を継いだのです。
何故子爵家から婿を取らないといけないのと、母は不満だったらしいけど、それは私も同じ事。
侯爵令嬢だとはいえ、父親はしがない子爵家の次男だと、幼い頃に母と共に訪れたお茶会でよく陰口を叩かれたわ。
もっとも私が美しく成長してからは、私にあんな陰口を言う者などいなかったのに。何故今になってこんな掌返しのような真似をされるのか理解出来なかった。
伯母も私の言葉に頷きました。
「ジェニファーと息子のジャレットは幼い頃からとても仲良くて、大人になったら結婚しようと話し合っていましたのよ。
ですから私達もそれを応援しようと思っていたんです。
それなのにこの子の父親が自分の身内を無理矢理に婚約者にしたんです。子爵家が侯爵家を乗っ取ろうとしているのですわ。
本当に恐ろしい婿ですわ。ねえ、あなた」
伯母にそう振られた義伯父は何故か真っ青な顔をしている。
ああそうか、いくら父が子爵家の出身としても今は侯爵家当主、しかも宰相という地位にあるから、伯爵でも官職のない義伯父では、こんな人前で文句を言えないのかも知れないわね。
そこで私はエスコートをしてくれているジャレットに向かってこう言った。
「ねっ、ジャレット、私達は永遠の愛で結ばれているのよね?」
「もちろんだよ、ジェニファー。君が婚約破棄した今、僕達を妨げるものはもう何もない。結婚しよう」
「嬉しいわ、ジャレット。そのプロポーズを喜んでお受け・・・・・」
私が愛するジャレットのプロポーズを受けようとした時、私は両肩を後ろから勢いよく引っ張られて最後まで言えなかった。
驚いて振り向くと、そこには烈火の如く怒る父の顔があった。
「卒業パーティーという晴れの舞台でお前は一体何をしているのだ!
周りをよく見ろ!
友人達の迷惑そうな顔が見えないのか! 愚か者!」
今まで見た事のないような父の恐ろしい顔に怯えながらも、怖いからこそカラ元気を出して、私は大きな声を張り上げたわ。
「ここに私の友人なんて誰一人もいませんわ。そんな友人でもない人達がどう思うかなんてそんな事どうでもいいですわ!」
「ジェニファー! お前は何ていう事を。帰るぞ!」
私は卒業パーティーで一度もダンスを踊る事もなく、父に引きずられて屋敷に連れ戻されたのでした。
この婚約破棄宣言がとんでもない大きな波乱を呼び起こします。
もちろんざまぁされるのですが、それがとんでもないざまぁで・・・
一時間事に投稿します。三章で完結します!