『スナイパーの形跡』
ヌイココの両親を殺した犯人が、狙撃場所にしていたと思われる建物へ、デジュニが運転するリムジンで向かっているヌイココとクララ。しかし、急がないと犯人を逃がしてしまう恐れがあるにも拘わらず、道が混んでいて全く進まない。
するとヌイココは「これじゃあ走った方が速いじゃない!」と言うと、車で行くべきと促したクララは「ご、ごめん! 渋滞まで考慮してなかったんだ!」と誤り、2人はリムジンから下りて、走って狙撃場所と思われる建物へ向かった。
しかしヌイココの速度に追いつけないうえに体力が全くないクララは、三十秒遅れでその建物へ着いた。するとクララはめちゃくちゃ疲れたのか、建物の入口付近で、膝に手をついて一休みしていた。
だが一方でヌイココは、建物の屋上までやって来ていたが、犯人の姿は見当たらず、何か痕跡が残っていないか探していた。すると屋上の角っこに一瞬だけピカっと光る、何かがあったのですぐに拾い、確認するとそれは『スナイパーライフルの薬莢』であった。
━━薬莢とは、銃に弾丸や火薬を迅速に装着したり、発射薬を湿度や乾燥などから護ったりする物。また薬莢は発砲することにより銃から排出され地面に落ちる。
つまりヌイココが拾ったスナイパーライフルの薬莢は、先程までスナイパーがいたという証拠になる訳だ。そして更にヌイココは、その薬莢をよく調べ、あることに気づく━━。
「これはまさか……プロツェターニエ軍隊で使われている薬莢? もしかして犯人って軍隊の人間なの? いや、装ってる可能性もあるし、まだ判断はできない」
(━━けど、この薬莢が軍隊の物……というか"狙撃部"で使われている物である事は確実。何せ、私も入隊当初は狙撃部に所属していて、その時に使っていたのが、この薬莢だったのを覚えてる。
それにしても犯人は少し間抜け? 恐らくバレないと思って屋上の角っこに放ってあったのだろうけど、残念ながら薬莢は金属で、太陽の光が反射していて、とても見つけやすかった。これはかなり盲点ね)
こうしてヌイココが色々と模索しているうちに、入口付近で休憩していたクララがやっと屋上までやってきた。そして━━。
「ヌイココー!! 何かのバッジ見つけたー!! これって犯人の物なんじゃなーい?? ほらほらみてみてー!!」
クララは大きな声でそう言いながら、ヌイココに近ずいてバッジを手渡した。するとバッジをよく確認したヌイココは、かなり驚いた表情をしながら、思考を巡らせた。
(━━このバッジって……プロツェターニエ軍隊の隊員証? しかも一般隊員のではなく"役職者(小隊長や中隊長など)"が付けるような資格章だ━━え、ちょっと待って!? このバッジと言い、薬莢と言い、まさか犯人の正体って本当に軍隊の人間なの!?
となると犯人は軍隊のスナイパーであり役職者……つまり怪しいのは狙撃部の『小隊長、中隊長、大隊長』の誰かって事になる。でも一体、誰が? とりあえず基地に戻って調べよう━━)
ヌイココは「基地に戻るよ!」とクララに言い、渋滞を抜けて建物前まで来ていたデジュニのリムジンに乗り、再び基地へ戻る。そしてその移動中にヌイココは、犯人が軍隊の狙撃部にいるかもしれないという推理をクララに話した。
するとクララは、驚きつつもその内容に納得し「だから急に戻ろうって言ったんだね!!」と何故か、嬉しそうにしていた。
というのもクララは恐らく、ヌイココと犯人探しについての共通認識を持つことが出来て「自分も活躍してる!!」と思えて、嬉しかったのだろう。でも本当にクララは、狙撃場所やバッジを発見したという実績があるので、十分な活躍と言えるだろう。
こうして軍事基地に戻ってきたクララとヌイココは、とりあえずヌイココの実家へ行けと指示をした、シヴィエットを探す。
しかしなかなか見つからず、基地内を探し回っていると、偶然通りかかったある部屋から、謎の叫び声が聞こえ、2人はその部屋へ駆け込む。するとそこには━━。
「嘘嘘嘘嘘ぉぉぉぉ!!!! うちのバッジが無くなってるんじゃが!? なんでなんで、なんでなの?! うちどこで落としたんじゃが……大事な大事な資格章なのに……」
「も、もしかして……さっき転んだ時に、落としてきちゃったんじゃ……でも、またあそこに戻ると、ヌイココに鉢合わせるかもしれないし……というかバッジが拾われるという最悪のケースも……ああああ……まずいよ」
そこには狙撃部の中隊長と小隊長が何やら怪しい会話をしていた。そして幸か不幸か、その内容はヌイココとクララに筒抜けだったので、ヌイココはさっき拾ったバッジをポケットから取り出し、狙撃部の小・中隊長にバッジを見せつけながら、こう話しかけた。
「ゴバリット、ピッシミブ。お探しの物ってこれ?」
するとバッジを無くした本人である"狙撃部中隊長のゴバリット"は「え!! うちのバッジなんじゃが!! マジ助かったよ!! ありがとうヌイココ!!」と言ったが、その後すぐに二度見をし「え、ヌイコ……コ」と動揺していた。
━━ゴバリット。赤紫色のツイテールの小柄な女性。身長は約150センチ辺りでギザギザの歯をしている25歳。プロツェターニエ軍隊狙撃部の中隊長。
するとゴバリットのすぐ隣にいた"狙撃部小隊長のピッシミブ"は顔を青ざめながらヌイココに喋りかける。
「ヌ、ヌイココ……オイラ達の話……聞いていたのかい? というか本当に……バッジが拾われるという最悪のケースが……ああああ……ごめんよヌイココ」
━━ピッシミブ。緑色のミディアムパーマヘアの細身な男。身長は約170センチ辺りでメガネをしている25歳。プロツェターニエ軍隊狙撃部の小隊長。
その瞬間、ゴバリットがヌイココの持っていたバッジを奪い取り、ピッシミブがその場に煙幕を放ち、辺りは煙に包まれ、ヌイココとクララは狙撃部の小・中隊長を逃がしてしまった━━。
「ヌイココ!! 逃げられちゃうよ!! 追いかける?」
「いや、今から追いかけても無駄よ。もうどこかへ行ってしまっから。それよりもシヴィエットに報告を」
(━━逃げられた……でも大丈夫。何せゴバリットとピッシミブは、一切犯行を隠そうとしないで、明らかに犯人の言動をしていたから、御父様と御母様を殺したスナイパーが、あの2人なのはほぼ確実。だから逃げた所でただの現状回避で、今後またすぐに見つけられるはず。
それにしても、あの狙撃場所の後始末がやけに雑だった理由も、これでハッキリしたわね。何せあの2人は軍の中でも、群を抜いてルーズだもの。
というか犯人の人数って2人だったのね……確かに今思うと御父様と御母様は、ほぼ同時に狙撃された。つまりあの時は、それぞれが別々のターゲットを狙い、タイミングを合わせて引き金を引いた。これで計画的犯行は間違いないわね。でも一体何故、ゴバリットとピッシミブが私の両親を━━)