『家族/姉の存在』
ここはとある高級車の中。時は現代に戻り、ヌイココはクララと共に、ヌイココの実家の執事であるデジュニが運転している高級車に乗っていた。行先は『カラリエーヴァ邸』。ヌイココの実家である。
しかし何故、ヌイココは実家に向かっているのか。実は先程、シヴィエットが、どうしても軍隊に入隊したいと言うクララに対してチャンスを与えた。その内容が「ココちゃんと一緒にココちゃんの実家へ行ってあげてほしい」という物だった。
すると、それをするだけで入隊できると聞いたクララは、ヌイココに対して「行こう!! ヌイココの実家!!」と元気よく言った。しかし、ヌイココは「そんなの一方的すぎる。私は行きたくない」とちょっと強く言った。
でも、それもそうだ。何せ数時間前、ヌイココの父親に伝言を頼まれ、軍事基地を訪ねて来たデジュニに対して、ヌイココは「帰る気はないと御父様に伝えて」と言い、帰らせたばかりだったからだ。
そして実家へ行く行かないの論争を繰り広げていた2人の意見を、両耳から同時に聞いていたシヴィエットは、頭を混乱させ、2人に一旦、黙るよう言い、苦笑いを浮かべた━━。
「ごめんごめんごめん! 一回落ち着こう……僕がもっと詳細に言わニャかったから悪かったね。実はね、ココちゃん。これは単にクララ君に入隊のチャンスを与える為だけに、行って欲しい訳じゃニャいんだよ。これには、ちゃんとした理由があるんだ。
でもココちゃんさ、1人では絶対に行かニャいでしょ? だから友達のクララ君の入隊チャンスとして一緒に行って欲しいんだよ。そうすれば、行きやすいでしょ?
ちなみに、その実家へ行くべきちゃんとした理由については、行けばわかると思うよ。あとこれは一応、僕からの命令ニャンよ。だからどっちみち、行く以外の選択は取れニャいんだ」
軍隊では上官の指示に従うのは絶対。つまり格闘部中隊長のヌイココは、司令部小隊長のシヴィエットに逆らうことは出来ない。その為、ヌイココは仕方なく実家へ行く事となり、デジュニに車を手配する様、連絡した。
━━そして現在に至る。余談だが、ヌイココの実家はとてもお金持ちで、カラリエーヴァ邸という、とても大きな家を持っており、手配された車はまさかの"リムジン"だった。なのでヌイココとクララは、デジュニが運転するリムジンに乗り、プローハシティーの街の中を移動していた。
ちなみに何故、プローハシティーの街に居るのかと聞かれると、言うまでもない簡単明瞭、カラリエーヴァ邸とプロツェターニエ軍事基地が、ここプローハシティーにあるからだ。
プローハシティーは、プロツェターニエにある町の中で、最も都会で賑やかな街だ。そんなプローハシティーを初めて訪れたクララは、リムジンなどお構い無しに、窓へ手を付き、外を眺めながら「すごーい!! 建物がたくさん!!」と言い、嬉しそうにしていた。
しかし突然、クララが何か思い出したかのように、ヌイココの方を向き、こう言った━━。
「そういえばヌイココは何で軍隊に入ったの? というかどうやって入ったの? ヌイココも推薦で入隊したって言ってたけど」
するとヌイココは、クララと初めて出会った時にしていた様な少し悲しい表情を浮かべ、外を見ながらしみじみ話し始めた。
「私は八年前、ミハイロワという女性に出会った。彼女はとても強くてかっこよくて、当時の格闘部大隊長だった。そんなミハイロワに、まだ弱かった頃の私は憧れを抱き、10歳ながら軍隊に入りたいとお願いした。そしたらミハイロワは、全く反対せずに、すぐ入隊させてくれた。そして、私は軍隊の寮で暮らし始めた」
話を聞いていたクララは、少し疑問を感じていた。何故なら今、格闘部中隊長になる程の実力があるのに、ヌイココは「まだ弱かった頃の私」と言ったからだ。
というのもクララは「ヌイココは昔から強い女の子で、僕みたいに弱い人間ではなかったんだ」と思っていたからだ。
でも、仮にそうだったとしても、当時10歳の女の子であるヌイココが、現在に至るまでの八年間で、格闘部中隊長になる程の実力を付けるなんて一体、どれだけの努力を積み重ねてきたのだろう。
そして、その努力の裏には一体、何があったのか。気になったクララは、再びヌイココに問いかける━━するとヌイココは、より悲しい表情をして、こう話した。
「入隊した後、私はミハイロワに色々教えて貰いながら、とにかく訓練を続けた。そして、いつの日からかミハイロワは、私の姉のような存在になってた。
これは今だから言えることかもしれないけど、ミハイロワがいなかったら今の私は絶対に存在しない、絶対に。それくらいミハイロワは、私に全てを与えてくれた。
だけど三年前、私が格闘部小隊長に昇格して少し経った時、ミハイロワが変なことを言ったの。『ごめんな、私はここまでだ』って。でも当時の私は、そこまで深く考えずに聞き流してしまった。そして、その次の日━━ミハイロワは姿を消したの。
理由は分からないし、どこに行ったのかも分からない。でも、私は今でも彼女をずっと探してる。"あの時に意味を聞いていれば"という後悔をしたまま。ほんとにずっと。
もっと言うなら、今すぐにでも、あのターニングポイントにタイムリープして、ミハイロワとずっと一緒に居られるパラレルワールドを創ってしまいたい、そんなくらいに私はミハイロワに憧れていた。
でも居なくなってからは、ミハイロワの格闘部大隊長の穴が空き、当時の中隊長は大隊長となり、私は小隊長もままならない状態で中隊長に昇格した。だけど私は、ミハイロワが付けていた大隊長の肩書きを受け継ぎたい。その為に最近は毎日、訓練に励んでいる、といった感じよ。
長々と暗い話をごめんね。でも、クララから聞きたいって言ってきたんだからね? そこんとこ分かってよね。あれ?」
ヌイココの過去話を聞いていたはずのクララだが、さっきまでの煩さとは打って変わって、妙に静かだったので、ヌイココは不思議がりながらクララの方を見る。
するとクララは、初めて見せるような真剣な面持ちでメガネを外し、こう言った━━「気になるね」と。