『あやつり人形』
ミハイロワは、爆風で外に飛ばされ、向かい側の建物に激突し、頭部に外傷を負い意識が朦朧としていた。
そんな時、アジトの建物は爆発により崩壊し、火事になっていた。そして中にいた軍隊とマフィアの人間は、崩壊した建物の瓦礫の下敷きになり、更には、燃え盛る炎に焼かれてしまい、全滅してしまった。そして唯一、無事だったのが、オーチェン。この爆発を起こした張本人だ。
「クククク……ハッハッハッハ!! まさかここまで見事に策略にハマってくれるとはなぁ!! 俺の子分も死んだかいがあるってもんだぁ!!」
ミハイロワは、意識がハッキリしない状態で、何とか立ち上がり、ピンピンしてるオーチェンの姿と、崩壊し火事になっているアジトの建物の様子を視界に入れる。
(━━なるほどな。私ら軍隊が来る事は、既に想定済みだったって訳か。いや、想定済みどころか、事前に知っていたのか……? 今考えるとオーチェンは、いきなり奇襲をかけたにも拘らず、あまりに冷静だった。
それに私は、軍隊と名乗った覚えはないのに、何故かオーチェンは出会った時点で、私らの事を軍隊と知っていた。これはまさか━━。
まあいい。今はとりあえず、死んじまった隊員達の仇を取る為にも、目の前の狂ったゴミ人間を片付け、ック……!!)
さっき受けた頭部の傷が痛み、苦しそうにしているミハイロワ。しかし、最悪にも目の前には、無傷でピンピンしてるオーチェンの姿が。そして更に、オーチェンはポケットから"銃"を取り出し、ミハイロワに銃口を向けた。
「しかし爆発だけで死ななかったのは誤算だったが、その傷と今の状況でお前が助かる道は絶対に無い!! つまりお前はここで死ぬんだ!! そして俺はやっと、あの人から認められるんだ!! さらばだ"アウトサイダー"!!」
そう言いオーチェンは、銃の引き金を引こうとした━━その瞬間。
"小さなシルエット"が、オーチェンの頭に後ろからしがみつき、顔を覆うようにして目を強く塞いだ。するとオーチェンは、悶え苦しみ、頭をブンブン振り、取り払おうとする。
しかし、小さなシルエットは頑固で離れない。そしてミハイロワは、現況を確認する為、顔を上げてオーチェンの方を見ると、かなり驚いた表情をしていた。
何故なら、オーチェンの妨害をし、ミハイロワのピンチを救った小さなシルエットが、マフィアのアジトに来る前に出会っていたヌイココだったからだ。
そう、実は数時間前、ミハイロワに付いてきてた事を注意され、来ないよう言われたヌイココだが、まだ幼く好奇心を抑えきれなかった。その結果、ヌイココは再びミハイロワにバレないよう尾行を続けていたのだ。
それにしても、ヌイココは注意されたのにも拘らず、尾行を辞めなかった。それほどまでに、ヌイココはミハイロワの美しさに魅了されていたのだ。それに加えて、ミハイロワが言った「危険なところに行く」の言葉を聞いて、心配でもあったのだろう。
そして時は戻り、オーチェンは顔にしがみついていたヌイココをやっとの思いで取り払い、再びミハイロワに銃口を向けた。のだが、ミハイロワは今さっきまで居たはずの場所に居なかった。
いや、正確には居なかったのではなく、見えなかった。何せ、ミハイロワはオーチェンの視界に入らないくらいの深さまで体を限界に下げ、攻撃する体勢に入っていたからだ。
そしてオーチェンは、ミハイロワから恐ろしい程に強力なアッパーを顔面に喰らい、一発KO。
空高く吹っ飛んだオーチェンは、かなりの高さから凄いスピードで落ちていき、激しく地面に叩きつけられ、周辺に血が飛び散り、オーチェンは全身骨折で死亡した。
ミハイロワは「仇、取ったぜ」と言い、その場に仰向けに倒れ、晴れた夕暮れの空を見ながら、こう喋った。
「仕事終了〜。捕獲じゃなく殺っちまったけどな。それよりあんた、ほんと助かったよ、ありがとう。でもまさか、私がこんなちっちゃい子に救われるとはな」
感謝されたヌイココ。しかしヌイココは喜びよりも興奮が勝ったのか、目をキラキラさせ「か、かっこよかった!!」と言う。するとミハイロワは笑いながら「あんたもな」と言い、お互い褒め合う形で、運命的な出会いを果たした。
(━━それにしてもオーチェンが私をアウトサイダーと……? 何故だ、どういう事だ━━まさか知られているのか……? さっきも我々軍隊が奇襲をかけた時、オーチェンは奇襲されることを事前に知っていた様な振る舞いをしていた。
オーチェンは一体何者なんだ? それか裏に操っている人間が……? そういえばオーチェンは『正義は悪、悪は正義』とか言っていたが、あれはまさか知った上での発言だったのか……そうなると少し刺さる話だったな。まあただの屁理屈の可能性もあるがな。
だが本当にオーチェンを操っていた裏の人間が存在し、"あの事"について知っているなら、しっかり調査する必要があるな)
そしてミハイロワは、ヌイココを家に帰した後、軍事基地へ戻り、怪我の処置を受け、任務の報告をした。任務はオーチェンの捕獲だったが、殺してしまったので失敗。だと思われていたが、任務を与えた"総司令官パトレアチズム"から衝撃の事実を知らされる。
━━パトレアチズム(当時)。黒い肌に金色のマンバンヘアと顎髭の大男。身長は約185センチ辺りで両腕には金色の炎のタトゥーを入れている35歳。プロツェターニエ軍隊を束ねる総司令官。
その内容はこういう物だった━━。
「オーチェンはチェム・マフィアの真のボスではない。あれは単なるダミーだ。本物は全くの別人である。先刻、そう連絡を受けた」
(━━オーチェンがダミー……つまりやはりマフィアはあの時、私ら軍隊が奇襲をかけるという情報を事前に得ていたのか。そしてその情報を入手できる人物が、チェム・マフィアの本当のボスに当たる。となるとまさか、軍隊の人間にマフィアのボスが……? もしくはマフィアに情報を流している人物が軍隊に?━━どっちにしろ、内通者って訳か。
いや、待てよ。なにか引っかかる。もし本当に軍隊の情報をマフィアが入手してたとしたら、何故逃げずにわざわざ戦うような真似をしたんだ? 普通、捕えようとしている軍隊が来るとわかっていたなら、アジトになんて留まらないはず。それなのに何故?
仮説を立てるとするならこうだ━━チェム・マフィアは私の"命"を狙っていたとか。そう考えると辻褄が合う。
アジトに設置されていた爆弾、銃を撃つつもりだったオーチェン、そして私に対するアウトサイダー発言。全てが私に向けられていた物だった。でも仮にそうだとしたら、かなりまずいな……)
「総司令官。これから私は、真のボスの正体を突き止める独自調査を行う。よってその間は命令には従えない。でもマフィアの真のボスは絶対、今後も悪行を働くはず。だから放っとく訳にはいかないんだ。許してくれ」
そう言うと総司令官パトレアチズムは、ミハイロワの申し出を了承し「実行するのであれば必ず完遂だ」と言い、どこかへ行ってしまった━━そしてミハイロワは想う。
(━━つい総司令官を納得させる為、正義ぶった事を言ってしまったが、本当は何もかも偽善で、プロツェターニエの事なんか微塵も思っていない。全ては私情のためなんだ。でも仕方ない、これは私の使命だから)