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2 隠されたプロローグ


 prologue private // 隠されたプロローグ


 2332年11月23日――

 定刻となりました。


 手続きに従い、『人類の知的ピーク』と言われる21世紀人類の中から、この手の事件を解決するのにうってつけな者を選び、その頭脳と視覚入力系の一部を復元しました。その主体を『貴方』と定義します。


 別の言い方をするなら、今この文字列を読んでいるのが『貴方』です。


 遅ればせながら、この文字列を作っているワタクシは『当方』と申します。


「はじめまして」

 

 いや、それとも「お久しぶりです」でしょうか。


 前述した『選定』は無作為に行なわれましたので、ワタクシにも『貴方』の素性は知り得ません。


 もしかしたら、今回が『2回目』かもしれませんね。


 あるいは、前回の事件を解決する前の『貴方』――などということもあるかもしれません。


 いずれにしろ、『貴方』には先入観なく課題にあたってもらうため、記憶系の復元は意図的におろそかにしています。


 なにも憶えていなくても問題ありません。


 この文字列を読むことができている時点で『貴方』の復元は達成しています。


 さて、わざわざ21世紀人である『貴方』を復元した理由は、現在の日本――すなわち24世紀の日本で起きたとある殺人事件を解決してもらうためですが、まずは、この24世紀の『成り立ち』や『ルール』、『常識』などを軽くご説明いたします。


 いま『貴方』が復元……、あるいは『召喚』と呼び替えても良いかもしれません――召喚された2332年は、人類により『神』の役目を押しつけられた人工知能群【TEN】によって運営・管理された、絵空事のように理想的な世界です。


 『24世紀の地球』は、『貴方』が人生を謳歌した『21世紀の地球』とほぼ同じサイズ、同じ座標ですが、『軸』が異なるため、互いに干渉できない『異軸世界』に存在しており、あらゆる生物のうち、人類のみがこちらへと移住を果たしてから、すでに200年以上の時が経過しています。


 現在の地球――その海岸線は、『貴方が生きた21世紀地球』を模しており、陸地部分は『プレート』と呼ばれる砂色の地盤で覆われ、どこも海抜0メートルで統一されています。そこに住む現代人――『24世紀人』はこれら無味乾燥な眺めを【マシン】を使って、『自分が見たい世界観』に変化させ暮らしています。


 そう、【マシン】です。

 

 『異軸世界』に存在する『24世紀地球』は、言ってしまえばデザインされた亜空間であり、管理者である【TEN】には、その空間内の物理法則を自由に改訂することが許されています。ですから、【マシン】と呼ばれる、『擬似原子』のようなふるまいを見せる、ある種馬鹿げた存在を生み出すことも可能でした。


 この【マシン】の登場により、現在の人類は、自然災害、環境問題を始め、経済や食糧、エネルギィ問題、さらには病気や老化などの身体的不都合など、あらゆる障害、苦悩から解き放たれ、肉体的にも精神的にも安定しています。


 そのように何事にも恵まれ、欲を削がれ、達観し、老成した現代人ですが、『バトルワールド』と呼ばれる、もうひとつの『異軸世界』を舞台にした実体験型のスポーツ『バトルゲーム』に対する情熱、入れ込み具合は凄まじく、ほとんどの人間が寿命を迎えるまでに、このゲームに関連したなんらかの論文を書きあげると言われるほど盛況です。


 なにが言いたいかと申しますと、『バトルゲームでレアアイテムを手に入れたい。レベルを上げたい。イベントに参加したい』という理由だけで、現代人は、多少の無茶をするということ――それがこの時代に生きる人類の共通認識だということをご理解していただきたいのです。


 さて、ほとんどの犯罪を禁じ、その実行を未然に防ぐ【TEN】ですが、どういうわけか『ヒトによる殺人行為』だけは看過します。そして、いざ事件が起きた際には、冤罪えんざい防止のために、人類の捜査機関へ『絶対に間違いないウソ発見器』こと【エイリアス】を提供しますが、それ以外に犯人を特定するための特別な協力は、原則、致しません。


 このように捜査に非協力的な【TEN】ですが、人類の官憲が指名手配した人間の『身柄確保』などは滞りなく行ないます。たとえば指名手配された対象を『瞬間移動』させて、官憲のもとへと送還したりします。ただし、これは対象が『24世紀の地球上』に存在する場合に限ります。


 ゆえに『殺人事件の重要参考人』と目される人物が『24世紀の地球』以外の異軸世界――たとえば『バトルワールド』に逃亡した場合などは、法的拘束力の範疇外と見なし、【TEN】は身柄確保要請に従いません。


 ヒトに任せます。


 屏風びょうぶから虎を追い出すのは『ヒトの仕事』と認識しているのです。


 これが前回、『貴方』または『別の貴方』によって解決を見た『キユブキユ事件』が、こじれにこじれた理由のひとつです。



「お待たせしました」



 では、改めまして――


 今回の事件は、【TEN】が『ヒトによる殺人』と認定している案件となります。

 『貴方』に課せられたタスクは、前回のように『真相を明かすこと』というような曖昧なものではありません。

 

 ずばり、『殺害現場から逃亡した被疑者8名のうち、誰が殺人犯か、それを特定すること』です。


 ただし、『貴方』の復元をワタクシに命じた『24世紀生まれの権限者』は、弁護士という職業柄、なにより冤罪を嫌います。


 勘や当て推量などではなく、はっきりと完膚なきまでに『彼または彼女』が真犯人である理由を『理屈』でご提示ください。


 なお、【TEN】および【エイリアス】は、『貴方』を含めた人類に対し、あえて一部情報を開示しないなど非協力なところはありますが、決してウソはつきませんし、誤った判定もしません。

 

 それがこの24世紀世界特有の『ルール』であり、『貴方』の課題達成の足掛かりとなることでしょう。


 五体満足ではなく、権限者の日記――行動記録などの文字列を『読む能力』と、それを記憶し、『考える機能』しか復元されなかった『貴方』への、せめてものヒントです。


 くれぐれもご留意ください……。


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