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6 グラディオスside

「と、言うのは建前だ!」


今までの真剣な声や顔つきを一気に崩し、そう告げるユリウスをグラディオスは睨みつけた。


「何が建前だというのですか。」


「うん。実はな、妃候補になったころからお前のお嫁さんになってくれたら良いのにな、なんて思ってたもんだからさ。ルキアスに妃候補から外したいと言われた時もあまり反対できなかった。」


ハハハと笑いながらユリウスはとんでもないことを言い放つ。



「その頃だって私は30を越してますよ。良い年したおじさんと幼女の組み合わせを考えるなんて変態ですか、兄上は。」


「いやいや、歴史的に見ても王族の結婚なら珍しくもないだろう。罵らないでくれよ、地味に傷つくから。グラドも彼女がこちらの国に逃げてくるとき、ほぼ何も持っていなかったことは知ってるな?」


「はい。服装も庶民のものでしたよね。それに不満を漏らすことも全くなかったと聞いています。そういう所も国民から支持されるポイントでしょう。」


「そんな彼女が一つだけ、国民に頼み込んで持ってきたものがあるんだ。何だか分かる?」


「いや、分かるわけないでしょう。」


楽しそうにそう聞くユリウスに対して、グラディオスはそっけなく返す。


「つまんない回答だなー。正解はね、君が書いた本だったよ。ほら、賢者のもとで学んでいた時に書いた植物図鑑。あれ、名前を変えて出版しただろう?」


グラディオスは確かに賢者のもとで学んでいる時にいくつか本を出版している。その中でも特に植物図鑑と鉱物図鑑にはこだわって作り上げた覚えがある。ただ全ての植物や鉱物に絵をつけたためかなり高価な、それこそ王族でも無ければ持てないような価格でやり取りされるほどになってしまったのだ。


「あの本ですか?10歳の少女には難しい内容だし、かなりの分厚さなので逃げるときには邪魔だったでしょうに。」


「彼女は故国の王族の中でも浮いていたらしいね。ほら、あの国の王族って享楽的だっただろ?だから放置されてたみたいで、城の図書館に入り浸ってたんだってさ。」


ユリウスの言葉をぼんやりと聞きながら、グラディオスは確かに嬉しい気持ちが心の中に広がっていくのを感じた。


食べるものや飲み物もままならない逃亡生活の中、それでも自分が心を込めて作り上げた書物を手放さないでいてくれた。それは40年近く生きてきたグラディオスにとっても、何と言ったら良いか分からないほどの嬉しさだった。



「図鑑をそんなにも大切に感じてくれているのなら、もっと早くに言ってくだされば他にも見せてあげられたのに。」


そう愚痴をこぼすように呟くと、眉をあげたユリウスが面白そうにこちらを見ている。


「色々考えているうちに妃候補に決まってしまってな。ジョゼフィーヌ嬢とお前が懇意にしていると、彼女が嫌なことを周りの貴族たちに言われるかもと心配したのだよ。」


確かに自分の出版した本を好んでくれるのであれば、グラディオスは彼女に親切に対応しただろう。第一王子の妃候補という身分がある状態でそういう場面を見られると、面白おかしく騒ぎ立てる者がでてもおかしくはない。



「でもルキアスが手放すのであれば、もう何の問題もない。それに以前からルキアスにとってジョゼフィーヌはもったいないと思ってたんだ。」


「自分の息子なのに手厳しいですね。」


「まあ、彼女の魅力を上手く引き出せないっていう感じかな。その点においては若いころの私が娶っても同じようなもんだろう。でもグラドなら彼女の人生をより豊かに、そして彼女の魅力をより輝かせることができると思うよ。そしてその未来はお前の人生の幸せにもつながっていると思ってる。」



再びユリウスは一呼吸置く。そして真剣な顔になり、もう一度グラディオスに告げた。



「もう一度言う。ジョゼフィーヌ・トランドルをランバート公グラディオスの妻に迎えて欲しい。亡国の王女でありながら北部の人気がある。そんな彼女を適当な貴族へ嫁がせることなんてできない。お前であれば安心して任せられるし、何よりも二人にとってこれは最良だと言うのが私の見解だ。」


ここまで言われてしまうとグラディオスとしても断る理由がなくなってしまう。なによりも自分が若いころに心血を注いだものを大切にしてくれた彼女を、不幸にはしたくなかったのだ。



「はあ、分かりました。彼女はうちで引き受けます。ただ、妻とするか養子とするかはこちらで決めさせていただきたい。彼女の希望も落ち着いてから聞きたいですし、何よりも親子以上に年が離れているのですから。」


グラディオスが了承すると、ユリウスはやっと安心したような顔になり深く頷いた。


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