3 グラディオスside
グラディオスと兄であるユリウスは異母兄弟ながらかなり仲が良い。
大国の王家といえば家族の絆が薄いことが一般的だ。なんせそれぞれ公務が多い。王は政務や他国との関係強化、妃たちは社交による情報収集や慈善活動で1年のスケジュールはほぼ毎日真黒だ。
さらにそこに突発的な事件や国際事情が重なってくる。
子どもたちは乳母や教育係が養育するのが一般的で、さらには生まれた妃によって離宮が分かれていると兄弟でもなかなか顔を会わすことがない。
そんななか、ストラグル王国の王家第一子であったユリウス、後の国王陛下はかなり異質だった。
彼が7歳を越えたころ、様々な離宮を渡り歩いてこっそりと侵入し、異母弟妹を可愛がり倒したのだ。
庭で遊ぶぞ、木に登るぞ、避暑には全員同じ場所へ。
帝王学も語学も社交もみんなで。
そんな風にユリウスが異母弟妹にかまっていくものだから、最初は遠巻きにしていてもすぐに懐いてしまうのだ。
グラディオスを始め、異母弟妹は子ども同士の関わりに飢えていたし、何よりもユリウスに「よくできたな!」と頭を撫でられるのが嬉しかったからだ。乳母や教育係にはされない温かみを感じる触れ合いが、そこには確かにあった。
長子として生まれたユリウスは、勿論最初から王太子になるだろうと考えられていたが、それと同じようにグラディオスも対抗馬としてあげられることが多かった。
グラディオスは幼いころから非凡であることは知られていた。だが本人としては、一度も自分が兄よりも王位に相応しいとは思ったことが無い。
ユリウスは器が大きく、大概のことは笑って流すようなおおらかな性格をしていた。
一方でグラディオスは一人を好み、自分の空間に人がずかずかと入ってくるのを厭う。
この一点だけを見ても、兄の方が王に向いているとグラディウスは思うのだ。
ユリウスは学問も剣術もほどほどだ。
グラディウスは特に学問に秀で、ある分野では専門家も唸るほどの知識を有していた。
グラディオスとしては「だからなんだ。」と思うのだが、周囲は優秀な弟が王位を継いでも良いのでは?と考える。
グラディオスは幼いころから周囲がそう考えることが不思議でならなかった。
知識の深さが王としての役割に必要なのであれば、学者が王になれば良いからだ。そもそもどの分野においても誰にも負けない知識を持つというのは、現実的に考えて不可能だ。それならば、人を上手く扱えて、心地よく有識者から知識を引き出せる者が王になったほうが良いに決まっている。
一度だけ、ユリウスから真剣に聞かれたことがある。
「お前、王になりたいか?なるなら全力で支えてやる。」
あまりにも相手が真剣に言うものだからグラディオスも焦ってしまい、必死で王になりたくないことを訴えたのだった。
そんなグラディオスの考えを無視するかのように、12歳を越えるあたりから周囲の貴族たちはより煩くなっていった。それだけならまだマシだったが、父王までが王位争いを兄弟でさせようと動き出したことが面倒だった。
これ以上兄弟仲を引き裂かれてはたまらないと考えたグラディオスは、他国で賢者と呼ばれる学者へと弟子入りし、20歳になったら自国へ戻るという条件のもと無理やり国を去ったのだ。
本当であれば王位継承権を放棄して臣下に下りたかったが、第一王子のスペアとしての役割を考えると無理な話だった。
20歳になって自国に戻るころには兄もしっかりと権力を持っており、余計な争いごとがおきることもなくここまで来た。
しかし、兄が立太子するまで、結婚するまで、子が生まれるまで、子が成長するまで、そう思って自分の婚姻を見送るうちに自然を年を重ねてしまい、婚期をすっかりと逃してしまった。
また、グラディオスが学者気質で、一人が寂しいというよりは自由気ままな生活が気楽だと感じることも結婚しない理由の一つでもあった。
「でも兄上、私ももう38歳です。縁を結ぶほどメリットが感じられる貴族家もありませんし、正直気乗りはいたしません。」
ストラグル王家の兄弟たちは、みんなで溺愛した末の妹を除いて全員が政略結婚をしている。だから自分に求められるのもそうかとは思ったが、世情が安定している今、縁を結ぶべき家があるとも思えない。
「グラドには政略結婚は考えていないんだ。ただ、何の理由も無いという訳ではない。」
「訳ありの娘ということですか?」
「いや、彼女には特に欠点は無いんだ。あるとしたらこちら側。」
苦笑いをしながらユリウスが告げる。
「こちらということは王家ということですか?すみません兄上、まったく話が読めないんですが。」
「王太子に妃が複数必要なのは知っているよね?」
唐突な質問に驚きながらも是と答える。
ストラグル王家は大国で長く続く王家だが、問題が何も無いというわけではない。長く続く王家にありがちな血統の問題を抱えているのだ。
少し前まで、より濃い血筋を求められていた風潮があったため、ストラグル王家は近い血筋の姫君を妃に迎えることが多かった。そうやって何代にもわたって婚姻を繰り返した結果、出生率がおそろしく低くなったのだ。
王家の存続が危ぶまれる中、妃を複数迎える政策がとられるようになる。その結果父王の時代には正妃に側妃だけではなく、愛妾からたった数回寵をうけた愛人まで数十人が後宮で暮らしていた。
王子を複数、さらに他国への駒となる王女も多く生まれたことは良かったが、多くの妃を抱える後宮を維持するためには莫大な費用がかかることとなった。
これを解消するためにユリウスが考えたのが正妃と側妃4人のみとするという方法だ。正妃と側妃は血筋がバラバラになるように徹底的に調べられているためか、子どもも無事生まれている。
「勿論うちの長男坊も正妃と側妃4人となるよう、妃教育を5人に施していたんだ。」
「存じていますよ。5人を選ぶときには私も調査に関わりましたしね。」
「でだ、一人いらないんだと。だからグラド、お嫁にもらってやってはくれないかな?」
そのあまりの言葉にグラディオスの血管はブチっと切れたような気がした。
「はあ?あのバカ、今どこにいやがる!!」
そして王の御前とは思えぬ怒声をあげたのだった。