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2 グラディオスside

グラディオス·ランバートはその日、なんとも嫌な予感がしていた。


前日に兄から訪ねてくるように要請があったのだ。


グラディオスは王弟だ。つまり兄とはこのストラグル王国の国王陛下である。これは王からの登城命令となる。



馬車のなかで昨日届いた兄からの手紙を内ポケットから取り出す。


王のみが使える封蝋をあけ中身を確認すると、やはり登城せよのと文言が。


しかしグラディオスが気になったところはそこではない。




大切な人を紹介したいから、いつもよりパリっとした服でおいで。




かなり砕けた文言は王が弟妹へとあてる手紙の中ではいつものこと。グラディオスが気になったのは内容のことだ。


気になるのは弟にきちんとした格好をさせてまで紹介したい人がいるということ。


他国の要人などであれば良いのに、と思うものの、手紙が完全にプライベートモードだったからこそ予想がつかない。



「まさか42歳にもなって愛妾を作りたいなどという面倒なことでは無いと思うが。」



最悪な事態を想像して、軽くため息をつく。


10代で正妃と4人の側妃を迎えた現在の王は妻たちをとても大切にしている。子どもも王子が3人に王女が4人。血統が濃くなっている最近の王家としてはまずまずな後宮の状況だ。


後宮がぎすぎすすると王城全体の雰囲気も悪くなってしまうからこそ、兄には現状を維持して欲しいと実体験から思うのだ。



「閣下、到着いたしました。」


手紙を握りしめ、考え事をしていると御者より声がかかる。窓からちらりと外を覗くと、王城内にある陛下の私室へとつながる裏口の近くまで来ていた。



「閣下、お元気そうで何よりでございます。我が主人も首を長くしてお待ちしております。どうぞこちらへ。」


王に昔から仕えている侍従のベリルがグラディオスを出迎えた。


「ベリルは変わらないな。相変わらず陛下にこき使われているのか?」


「老体に鞭打って働いておりますよ。」


「私のほうから陛下に老人を敬うようお伝えしておこうか?」


「ありがたいお心遣いではございますが、それには及びません。陛下や閣下のご成長を見守るのが、わたくしめの人生最大の楽しみでございますゆえ。」


「ベリル、私はもう38だし兄上なんて40を越えている。退化することはあっても成長はせんよ。」


昔馴染みのベリルと軽快な会話を楽しみながら進んでいく。




「陛下、ランバート公爵閣下がいらっしゃいました。」


「入れ。」


張り上げてもいないのに良く通る声はまさに為政者そのもの。私室での会談ということで気を利かせたベリルが退室し、静かに扉を閉める。


「陛下、ご無沙汰いたしております。ランバート公グラディオス、ただいま参りました。」


「グラドがご無沙汰すぎて、お兄ちゃんとっても寂しかったぞ!」


先ほどまでの威厳を完全にひっくり返し、子どものようにニコニコ笑う陛下がそこにいる。


40歳を越えているというのに艶を失わない銀髪は全て後ろに撫でつけられており、彫りの深い目もとには神秘的な金色の瞳が光っている。これは王家特有の瞳の色だ。


(いやあ、この人はいくつになっても美形だな。王はやっぱり見栄えも良くなくちゃな。)


などと勝手な評価をしながら口を開く。


「陛下ー。」


「他人行儀な言葉はやめてくれ。」


「はあ、兄上。我々はもう40前後。ベタベタするのも気持ち悪いというものです。」


「いくつになってもお前は私の可愛い弟だ。それは変わらん。」


「ああ、もういいや。どうもありがとうございます。」


「そういう物わかりの良いところも良い。私の可愛いグラドのまんまだ。」


「はあ。」


これ以上この件について話しても無駄だということを、経験上理解しているグラディオスは無駄話を切り上げる。入室した時に淹れてもらった紅茶で喉を潤すと、豊かな香りが口に広がる。


「で、兄上。今日はどのような用があったのですか?」


「手紙でお願いした通り、パリっとした服だね。」


「ええ。普段通りの装いで来て着替えさせられるのも面倒ですのでね。」


「なるほど。用意していた服は一式君の所に届けさせるから、何かの場面で使ってよ。」


「どうも。」



「そう、これが本題なんだけど。グラドにお嫁さんを紹介したくてね。」


ニコニコと太陽のような笑顔を輝かせて意味が分からないことを言う。そんな兄を、グラディオスは睨みつける。


「はあ。兄上、もうお嫁さん5人もいるじゃないですか。なんですか?欲張りなんですか?後宮費がかさみますし、パワーバランスが崩れると面倒もおこるのでやめておいたほうが良いのでは?」


「グラド、その心配は無用だ。なんせ君のお嫁さんだ!!」


「ブッ…、ゴホゴホ。ゴホッ。何ですか!?その話は!」


「お前ももう良い年だからね。人生の伴侶を得てみようよ。」


「私が結婚しないと言い続けているのは知っているのでしょう?」


グラディオスが吹き出してしまった紅茶をハンカチで拭きながら呟くと、しょうがない子だなあとまさに兄らしい顔をして見つめてくる。


「知ってるよ。でもそれは王位争いを起こさないためでしょ?お兄ちゃんには5人のお嫁さんとの間に子どももたくさんいるしね。それにもうすぐ一番上のルキアスは立太子するよ。そうするとさすがにもう心配もないでしょう。」


その言葉はまさに正解で、だからこそグラディオスは困ってしまった。


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