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11 ジョゼフィーヌside

ルキアスやクリスティーナたちと顔合わせを終えた後、疲れ切っていたジョゼフィーヌは気を失うようにして夕飯も食べずに眠ってしまった。


寝台で寝た記憶もないため、おそらく侍女がベッドまで運んでくれたのだろう。


朝日を浴びながらぼおっとしていると、コンコンと寝室の扉を叩く音がした。



「ジョゼフィーヌ様、起きていらっしゃいますか?」


「はい、昨日はご迷惑をおかけしてすみません。私、気を失うように眠ってしまったでしょう?」


「いえ、昨日は予定が詰まっておりましたので、お疲れになるのも無理ございません。夕飯を召し上がれなかったのでお腹が減っているのではありませんか?」


「確かに。」


空腹でお腹がなってしまいそうなのを押さえながら聞く。


「すぐにお持ちいたしますね。」


そういうと侍女は静かに部屋を後にした。夫となる予定のルキアスはビジネスライクで妃候補たちからは歓迎されていない。でも城の侍女はしっかりと教育されているようで、居心地の良さを感じられることにほっとした。




食事を終えドレスへと着替える段階になって、ジョゼフィーヌは異変に気が付いた。


「あの、私薄めの金髪で瞳も緑でしょう。できれば濃い色合いのドレスではなくて柔らかい色が良いのだけれど。」


持ってこられた紺色や深いモスグリーンのドレスを見つめながら、侍女に要望を伝える。色白で髪や瞳の色も薄いジョゼフィーヌは、はっきりとした色のドレスがあまり似合わない。侍女も分かるはずなのに、色の濃いものばかりを持ってくることに疑問を感じる。


普段であればてきぱきと用意をする彼女たちだが、困ったような顔をしたまま立ち尽くしてしまう。


「ああ、なるほど。妃候補の皆さんでお色を合わせているのね?」


昨日会った妃候補たちは、みんなそろって色のはっきりとしたドレスを身に着けていた。昨日顔を合わせた妃候補たちのなかで、ピンクブロンドのミシュリナや銀髪のローゼリア、彼女たちは淡い色のドレスが似合いそうな容姿をしている。


「合わせる決まりなどは無いと思うのですが、昨日クリスティーナ様付きの侍女がいらっしゃって、濃い色のドレスを着用するようにと言付けられたのです。どういたしましょうか?」


侍女はフルフルと震えながらジョゼフィーヌへと伺う。おそらくクリスティーナ付きの侍女の方が立場が強いのだろう。


(まあ、何色のドレスを着たところで大した違いもないし。)


あっけらかんとそう思うことにする。確かに濃い色のドレスの中に、ジョゼフィーヌだけが淡いものを来ていると目立ってしまう。妃たちと平和に過ごしたいのであれば、着るものに文句を言うべきではないだろう。


「じゃあ紺のドレスで良いわ。わがまま言ってごめんなさい。」


その場を明るくしようとジョゼフィーヌが軽くそう言うと、侍女はようやく安心したようで微笑んだ。




ジョゼフィーヌは庭を散策しながら考える。


(クリスティーナ様や他の候補の方が嫌な気持ちになるのも分かるんだよね。)


彼女たちは数年前から妃候補として集められていた高貴な令嬢たちだ。候補の一人が病になり領地へ戻ったため、偶然空いた席に自分が座ることになる。何の努力もせず、後ろ盾だってない。


既に出来上がっている女性のグループの中に、突然入る。それは彼女たちにも強いストレスを与えているはずだ。


(皆さん、殿下に夢中な感じだったもんな。)


容姿に全くこだわりが無いジョゼフィーヌからしても、ルキアスは輝かしい美貌を持っている。さらに周りからの評判も良い理想の王太子なのだから、彼女たちが夢中になるのも頷ける。


それなのに、理想的な男性であるルキアスと実際に会っても、ジョゼフィーヌの頭の中には彼と幸せに暮らす光景はどうやっても思い描けない。


(愛されたことが無いのだし、結婚生活というものがそもそも思い描けないのかもな。)


そう考えるとストンと納得ができた。


たとえ恋い慕うことは無くても、ルキアスをしっかりと支える覚悟を持とうとジョゼフィーヌは考えていた。


「あら、こんなところでジョゼフィーヌ様はおひとり?」


「皆様方、ごきげんよう。お庭が美しかったので、散策しておりました。」


「わたくしどもを誘ってくだされば良かったのに。」


鋭い目線でクリスティーナがジョゼフィーヌを睨む。


幼いころからたった一人で過ごすことが多かったジョゼフィーヌにとって、突然思い立った散歩にわざわざ人を誘うという考えがまずない。だからこそ、クリスティーナが何に苛立っているか分からず、口ごもってしまう。


他者との関りがそこまで多くなかったジョゼフィーヌは、本来ののんびりとした性格も合わさってゆっくりと言葉を話す癖がある。


しかし、それは王都で生まれ育ってきた令嬢たちにとっては分からないことで、簡単に気分を害してしまう。


「ジョゼフィーヌ様がわたくしどもと慣れ合うおつもりが無いのであれば、もう結構よ。」


嵐のように現れたクリスティーナは、再び嵐のように去っていった。


クリスティーナの優雅な後ろ姿を眺め、かなり遠ざかってしまった頃、



「何で気分を害してしまったんだろう。」


美しい庭園の中、ポツリと呟いたジョゼフィーヌの言葉はヒュウと吹いた風に攫われて、誰のもとへも届かなかった。

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