神流登場
平和島競艇場
場内を行き交う人々。
ブロロロロロ
エンジン音が鳴り響く。
インコース一号艇は三号艇に捲られ、他四艇にも抜かれた。
「ああ。また一号艇が消えちまったよ」
レースを観戦していた初老の男が言うと
「爺。平和島のインは弱いだろ」と若い男が言った。
「でもSGレーサーだぜ」
「それは昔の話だろ。今は記念に呼ばれないB1レーサーだ」
そう言って若い男は後ろを振り向いた。
「ンっ!神流」
「よう。樫野、爺。しばらく」神流と呼ばれた男が言った。
「いつ帰ってきた?」
「さっき羽田に着いた」
「大村はどうだった?」樫野が聞くと
「やっぱりインが強かった。結構儲けたよ」神流は答えた。
「一杯飲みながら、神さんの話を聞こう」爺が言い、三人は食堂に向かった。
食堂
「乾杯」
三人は生ビールを飲み干す。
そして、もつ煮込みをツマミに話始めた。
「大村は、そんなにインが強かったのか?」樫野が聞くと神流は「12レース中、8レースがインの頭だった。優勝戦もインの頭で決まった」と答えた。
「取ったか?」爺が聞くと神流は黙って頷いた。
「いくら付いた?」樫野が聞く。
「三連単で340円だ」と神流は苦笑いして言った。