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前話のサブタイトルを「1」から「プロローグ」に変更したので
この話のサブタイトルを「2」から「1」に変更致しました。
いきなり《瞑想》を手に入れたわけだが…どうすればいいのだろうか、これ。うーん、このスキルなら周りに迷惑がかかる事も無いだろうしとりあえず使って見るか。
…周りの音が一切聞こえなくなり、視界が真っ暗になる。どうやら発動出来たようだ。何も無い空間に自分だけが存在している、そんな錯覚を覚えた。…どれくらいそうしていたか、あっという間に時間が過ぎたように感じた。
…そろそろ解除するか。段々と周りの音が戻ってくる。
「──ということなのです…勇者様!どうか魔王を倒し、この国を救って頂けないでしょうか?」
…えっと、どういうことだ?もしかして瞑想してた間にこの姫様?みたいな人が来て、召喚した理由を話して、国を救ってくれ、って頼んだって感じか?…思い切り聞き逃した。一番重要な所じゃね?これはやらかしてしまった。
…自己嫌悪に陥りそうだ。だが今は話を聞く方が先決だな。現在、クラスのリーダーシップを取っているのは日比谷のようだ。
日比谷 虎太朗、クラスの中心人物で、親が道場を営んでいる影響で幼いころから剣道をやっているらしい。そんでもって成績優秀で性格も良い超イケメン、なのに謙虚。そんな奴だから当然人望も厚い。大抵リーダーシップを取っているのは日比谷だから今回もそうなのだろう。
「個人的に僕は姫様を助けたいと思っている。そして、皆にも協力してもらいたい。皆が嫌だっていうなら無理強いはしないけど…どうかな?」
「そこまで言われたら…協力しないわけにはいかないな。俺は協力するぜ!虎太朗!」「俺も!」「私も!」
…どうやら、魔王討伐することになったらしい。まあ、俺としては異論はないが。
「ありがとうございます、勇者様!それでは、ステータスの確認をします。順番に、この水晶へ手を翳していって下さい。」
「分かりました。」
このあたり、サクサクしてるな。俺が瞑想していた時に説明されていたのか?俺の順番は…っと、もうすぐだな。手を翳した人のステータスが見れるらしいマジックアイテムに手を翳す。どうやら《必要経験値減少》は全員に付いているようだ。皆、自分自身のステータスを見て一喜一憂したりしている。
次は日比谷の番みたいだ。
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日比谷 虎太朗
Lv01 age16 HP54/54 MP36/36
《勇者Lv01》《逆境Lv01》
《剣術Lv08》《身体強化Lv05》
《光魔法Lv05》《必要経験値減少》
《獲得経験値増加》
『勇者』
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…圧倒的だな。流石日比谷と言ったところか。スキルのレベルが最初から高いのはよくわからないが…剣術は恐らく日比谷が剣道を習っているのが影響しているのだろう。
「流石日比谷だな!」
「凄い!」
「皆も凄いし、僕なんてまだまだだよ?」
「そんなことないよ!」
なんていう風に賞賛されている。ここまですごいステータスを持っておきながら、謙虚な姿勢を崩さないのも日比谷のすごい所なんだろうな。
…そしてついに、最後の人。確か、渡辺だったか?クラスでは中の上くらいの立ち位置だったような気がする。最後だからなのか渡辺は少し緊張した様子で水晶に手を翳す。そしてステータスが表示された。
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渡辺 美織
Lv01 age16 HP12/12 MP4/4
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少し騒がしかった室内が静かになる。皆驚いた表情をしている。俺も驚いた表情をしているだろう。渡辺はとてつもなく焦っているように思えた。渡辺は必死な表情で姫様に問う。
「えっ、えっ?えっと、これはどういうこと?なんですか?スキル、ないんですけど、大丈夫、なんですよね?」
「…大変申し訳難いのですが、勇者様方が、通常持っているとされている《必要経験値減少》すら持っていないということは、あなた様は勇者ではありません…。」
複雑な表情で姫様は言った。渡辺の顔が絶望に染まる。
「嘘っ…うぅっ…」
渡辺はうずくまり、泣き出してしまった。そして、周りの目が軽蔑に満ちた目に変わる。誰かがたまらずといったような調子で笑い出した。それに釣られたように多くの笑い声が発された。
「止めないかっ!!」
日比谷の声が響いた。部屋は静まり返り、渡辺がすすり泣く声だけが聞こえる。
「勇者じゃないからってなんだ!?何が悪いんだ?それを笑うなんて間違っている!少しは渡辺さんの気持ちを考えろ!」
クラスメイト達何人かはばつが悪いように感じたようだ。
「っそれでは、勇者様方。今日はもう疲れたでしょう、それぞれの部屋に案内します。勿論、渡辺様もです。」
姫様が言う。その台詞に日比谷はハッとしたような顔をした。
「すいません、取り乱しました。」
「いえ、それではそれぞれ召使いを付けて案内をさせていただきます。」
これは、まさか…最近読んでいた本のような復讐系の話じゃないか?もし、そうだったら主人公は渡辺。そして、日比谷が勇者のまとめ役ポジションだとしたら…俺は、モブだな。だとしたら、俺って復讐される側じゃないか!
これは、ヤバい。どうしよう…?とりあえず、渡辺に恩を売っておけば復讐はされない…か?
…あ、このままでは俺も渡辺の中で渡辺を笑った奴だと思われるんじゃないか?渡辺はまだうずくまって泣いている。そこに日比谷が歩み寄って声をかけようとしているように見える。これを放置していたら、渡辺を助けたのは日比谷だけで他は復讐の対象になってしまう。
日比谷には少し悪いが、俺が先取って声を掛けよう。
「大丈夫?立てるか?」
その言葉に渡辺は驚いたように答えた。
「……誰?」
そこに日比谷が声を掛け、手を差し伸べた。
「大丈夫?」
「うん…ありがとう…」
日比谷が渡辺の手を引き上げ立ち上がらせた。え?なにこの差は?…えぇ…。どうしろって言うねん…。そしてそのまま二人は部屋から出て行ってしまった。部屋の外で別れたようだが。俺は呆然と部屋の中に突っ立っていた。
「佐倉様、部屋に案内致します。」
「…はい」