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そして今。
そして今、
数年振りにあの本にすがっている。
あの本のページを開けると、
何処もかしこも照らしだされていて、
深い夜の闇で読む本としてはこれ以上ないものだと思う。
ページをめくり
何度も読んだ文章を目で追い、
大半の部分は追い越していた。
もうこの本の役目は終わっているのかもしれない。
ふいにそんな思いにとらわれて、
それを正しいと思い込むことにした。
僕にはこの本を古本屋に売ることは出来ないし、かといって昼間の庭で焼いてしまうには感傷がすぎる。
僕はこの本をダンボールに詰めて、
棚の奥底に埋めることにした。
次にこの本に出会う時は、
僕はだいぶ老いていて、
思い出の発掘の最大の発見になることを想像すると、今から少し微笑ましい。
こうして、あの本はカタチを変えた。
出来上がったのは、
たくさんの付箋できらきら光る
思い出の本ではない。
出来上がったのは、
真っさらな、
付箋も何もない、
この一つの物語。
きっとあなたは気に入ってくれるだろう。
願わくば、
この物語に誰かが付箋をつけてくれますように。
付箋で誰かを導きますように。
おしまい。