あなたと連絡を取らなくなって。
彼女と連絡を取らなくなって、
その本はすっかり日常の景色の
盲点になっていった。
時は過ぎて、
懐かしい気持ちが毎日の一部になった。
この手の気持ちは女の子しか与えてくれないもので、僕も多くの人と同じようにそれを恋だと呼んでいる。
新しい彼女は僕に自分が確かに存在するということを教えてくれた。一人では誰とも抱き合うことは出来ないし、誰とも抱き合えなかったら自分の形を誰が教えてくれるというのだろうか。少なくとも僕は他に方法を知らない。
でもその代償として、
自分の胸に暗闇が不意に生まれることを受け入れる事となった。
一度その暗闇が生まれると、
気持ちとか言葉とか涙とか溜息とかは、
考えれば考えるほどにすべてが終わりのないブラックホールに吸い込まれていって苦しくなった。
そんな時は、すがるようにして
あの本を本棚から引っ張りだした。
ページはすっかり日に焼けていたけど、
矢印のカタチをした付箋は相変わらず道を照らすことをやめていない。
そして、僕自身も道標を残さないではいられなくなった。それは夜空に浮かぶ常夜灯のようなもので、いつでも元の道を照らす必要があった。時に古びることもあったが新しい道もまた沢山照らしだした。
そのおかげで、
その本を読むと辿り着く場所と景色は毎回違うという羽目になった。
気分が悪い時にはできの悪い迷路に思えたし、良い時には見覚えのある近所の地図と同じくらいに親近感を覚えた。
それは地図としても本としても
上書きをされ絶えず新しくいようとする
ようなもので愛おしかった。