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「対面の夢」

 白い少女が絵本を閉じて言った。


『物語は終わりよ、ナナ』


 自分と同じ黒い髪の彼女は言った。


『さあ、早く私の所へ来て。私をここから出して』

挿絵(By みてみん)

 翌晩。


 天井の明かりが消えて夜になった後、ヤヤがなにかをいじっている音がする。


「ヤヤ、何をしているの?」

「うん、ちょっとね」


 物を叩く音と電子的な音が壁の向こうから響いてくる。しばらくすると、短い電子音と共に何かが落ちる音がする。


「あ、外れた」

「何が?」

「足枷」


 なんてことないようにヤヤが言うとナナはベッドから飛び起きた。


「――ほ、本当に!?」

「うん。壁の隙間を通ってそっちに行くねー」


 ヤヤは事も無げにこっちに来ると言う。しかし、ナナは他人に会うなんて初めてなのでどうしたらいいか戸惑ってしまった。


「ちょ、ちょっと、待って――」

「どうしたの?」


 言っている間に壁の隙間からヤヤの声が覗く。しかし、床のオレンジ色の明かりはそこまで届かないようで、彼女の顔は見えない。


「むう、ナナがよく見えないな。ベッドから降りてそこの床の明かりに来てよ。ボクも行くから」

「え、ええ……」


 言われたとおりにベッドから降りて床の明かりの近くまで行く。

 胡座をかいていたヤヤの顔が明かりに照らされて見えるようになった。ヤヤは、思ったより女の子っぽい可愛い顔で、本当にヤヤなのかと一瞬疑ってしまう。


「……ヤヤ?」

「うん。ヤヤだよ。ほら、ナナも座って座って。顔が見えないよ」


 ヤヤは床を叩いてナナに座るように促す。こうして二人は初めて対面(・・)する。


「えーと、初めまして? ナナ」

「は、初めまして……ヤヤ」


 お互いに顔を見合わせて固まってしまう。

 想像していた姿よりずっと美しく、ずっと可愛らしく、ずっと愛おしかったからだ。


「ヤヤって瞳の色も黒だったんだね」

「そういうナナこそ、真っ黒だよ」


 髪の色は、お互いに見えるので伝えあって知っていたが、瞳の色は自分一人では解らなかった。


 ここでナナの頭に不気味な予感がぎる。それを確かめるべく、ナナはヤヤを掴んで立ち上がり、正面から向かい合う。すると、目線の高さまでぴったり同じだということが解った。


「背も……同じ?」

「そう、みたいだね」


 なにか、おかしくはないだろうか。


 再び明かりの近くで見比べてみると指や爪の形までそっくりだ。手の大きさ、腕の長さ、足までも同じ。互いに顔を触りあってみると、顔の骨格やパーツの位置も同じようだ。違うのは、名前と内面と髪の長さだけ。



「どういうことなの? あまりにも似すぎていない?」

「……あ」


 何かに気づいたヤヤは、困惑するナナに近づき抱きしめる。その瞬間、ヤヤの暖かみがナナの全身を包み込んだ。


 初めて人の温もりに触れると、ナナは自然と涙した。何故泣いているのかは彼女自身も分からない。しかし、この心の奥で沸き上がるものは、初めてヤヤと触れあえた感動だけではないことは確かだ。


「思い出したよ」


 ヤヤがぽつりと言った。


「え?」

「全部、思い出した。これがトリガーだったんだね、ナナ」

「……ヤヤ、どうしたの?」

「ナナ、辛いと思うけど、よく思い出して。ボクたちが出会うのはこれが最初じゃないよ。もっと昔から、何度も何度も、ボクがハッチの時から――」

「ハッチ?」

「そう、ボクは白いお城にやってきた妖精のハッチだよ」

「ヤヤ、何を言っているの? あれは、ただのおとぎ話で……」

「違うよ。――ボクのここ、破けてるでしょ」


 そういってヤヤは自分の灰色のワンピースの裾を指す。確かにそこは半円形に破られたような跡がある。


「ナナの裾には『7』が刺繍してあるよね。でも、ボクのはそこの部分が破けちゃってる」

「そ、それがいったい……」

「ねえ、ナナ。レイのお話でさ、レイは色々な物をベッドの下に隠してたよね。脱出に使えそうなものをね」


 そういってヤヤはナナのベッドの下に潜り込む。

 すると、ベッドの下から色々な物がでてきた。大量のカードキーや堅い金属でできたナイフ、施設の見取り図やペンライトにロープなど様々な道具が続々と姿を現す。

 今まで自分のベッドの下にこんなものがあるなんて知らなかった。試しにカードキーを一つ拾って足枷に当ててみると、短い電子音がして簡単に外れた。他にも脱出に使えそうな道具が数多く揃っている。


 まるで、あのおとぎ話のように。


「ど、どうしてこんなものがベッドの下にあるの?」

「お話の通りだよ。ナナとボクたちが集めたんだ。長い時間をかけて、何度も、何度も、気の遠くなるほどの時間をかけて挑戦して……、あ、あったあった」


 ベッドの下から這い出てきたヤヤが隠す様に持っていたのは、半円形の汚れた切れ端だった。その切れ端を裾の破けた所に合わせると……。


「ほら、ピッタリだ。初めてこっちに来たはずのボクの裾の切れ端がここにあるんだよ?」


 ナナの頭の中のもやが急速に消えていく。様々な記憶が断片的に思い起こされ、今まで体験してきた、膨大な時間が大波となって押し寄せてくる。

 情報の多さにパニック寸前のナナに、ヤヤは完全な止めを刺す。


「刺繍の『7』でナナなら、ハッチにある刺繍は――」


 ヤヤが汚れた切れ端を持つ手で隠していた部分、『8』の刺繍をナナに見せる。


「あ、ああ……!」


 瞬間、ナナの頭のもやが吹き飛び、全てを思い出した。何年、何十年、何百年と繰り返してきた、この灰色の世界での過酷な生活の全てを。あのお話の全てを。

 あれはおとぎ話なんかじゃない。全部現実の事だ。


 レイは、実在する。


 そしてレイこそが、魔女なのだ。


 ようやく、自分の使命を思いだした。

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