表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が祖国に滅亡あれ  作者: ひトヒトリ
1/2

逃亡

残念ながら、

これはおとぎ話などではない。

よって僕は、選ばれた勇者ではない。

伝説の剣を抜いたりなんかしないし、

世界を救ったりなんかもちろんしない。



1


僕は王の息子だ。

しかも嫡男にして、3人いた弟たちは全員、

5年も前に立派に戦死した。

国王の地位を巡って争うことなどないわけである。


僕の弟たちは、贔屓目に見なくても優秀だった。

次男のレオナルドは、剣術や馬術、さらには勉学にも秀でた落ち着いた青年だった。

三男のチャールズは、短気なところもあったが戦闘の才能は抜きん出ており、

こっそり参加していた腕試し大会では、幾度も優勝した。

四男のアルフレッドは気弱だが勉学に熱心で、父にチェスで負けたことがなかった。


僕に関しては、3人を足して、9で割ったような奴とだけいっておこう。


みんな僕が嫌いだった。

僕もみんなが嫌いだった。



5年前 、僕が20歳を迎えた年に、

父は初めて僕らを戦に連れていった。

敗戦などあり得ない弱小国との戦いだった。

父は弟たちを本陣で守らせ、僕のみを連れて前線へ向かった。


僕らは順調に敵を押し返し、悠々と本陣へ戻った。

そこには敵国の兵と自国の兵が折り重なって倒れており、血と土にまみれていた。

そして、本陣からわずか後方に、3人の弟たちが転がっていた。

レオナルドは背中を裂かれ、腹から血が溢れていた。

チャールズは全身が細かい傷に覆われ、最後に肩口から肺まで大きく切り開かれていた。

アルフレッドは綺麗なまま倒れていた。首と体が分かたれてはいたけれども。

父は慟哭した。

かつて息子だったものたちを抱いて、声を枯らすほど吼えた。

血が、父の服を赤く染めた。


しばらくすると父は立ち上がり、近衛に息子たちの移送を命じると、

僕の影を横切り、本陣に戻った。

すれ違った父の顔は弟たちにそっくりだった。


唇を噛みしめる僕を、近衛たちは同情したような目で見ると、

黙って立ち去った。


僕は、一人になった。


激しい悲しみが襲って、

来なかった。

ただただ疑問が湧いた。

何故だ。

こいつらは、僕の何倍も優秀だった。

なのに何故、彼らが地面に横たわり、僕が地面に立っている。


ああ、そうだ。


答えは自明だった。

僕が幸運だった。こいつらが不運だった。

それだけだ。


おかしさがこみ上げてきた。

頬が吊り上がる。

唇を噛んで抑えるけれど、

我慢できなかった。


僕は笑った。

腹を抱えた。

僕が生き、弟たちが死んでいる。

そのことが、ひたすら可笑しかった。



弟たちの葬儀は国を挙げて行われた。

国民たちは呆然としていた。

すすり泣く女、肩を震わす男、泣き叫ぶ子供たち、

彼らは国民たちに愛されていたのだなと、ただ事実確認をした。


その後5年が経った。

大きな戦は起こらず、小さな小競り合いがある程度だ。

父は以前の威厳を失い、明らかに腑抜けた。

国は形としては平和を保っている。


僕は半年後、25回目の誕生日を迎える。


ちなみに父は先月52歳となり、

豪華絢爛なパーティーで悪酔いした挙句、僕に便所に連れられ、

便器に胃の中身をぶちまけた。

その傍らで僕は嫌々父の背をさすりつつ、ナイフで刺してやろうかと割りと本気で思った。

もちろん刺したりなどしていないし、

そもそもナイフを持ち合わせていなかった


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ