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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
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第6節:第一次襲来体殲滅戦の裏側


 深夜に差し掛かった頃。


 花立を連れてハジメとアイリが辞し、ジンとコウ、おやっさんもふらっといなくなった。

 場に残ったのはニーナとヤヨイ、そしてミツキとケイカ。


 ミツキは、思い出話に花を咲かせるうちに、ぽろっと漏らす。


「そーいや、おかんの足の話って、聞いた事なかったなぁ」


 ケイカの顔が微かに強張り、ミツキはしまった、と思ったが、酔いに支配された頭は上手く回らない。


「まぁ、肆号って事を隠してたからね」


 壁に背を預けたヤヨイが特に気にした風もなく答え、ニーナがむふふ、と笑う。


「あの時のヤヨイはかっこよかったわよん。流石、鬼嫁! って言う感じだったわねん」

「それはちょっと違うような……?」


 ニーナの例えに、ケイカが控えめに言い。


「いや、合っとるやろ。おとんにとっては間違いなく鬼嫁ーーーッ!!」

「ミッツん……口は災いの元だってさっきも言われてなかったかしらん?」


 呆れたようにニーナに言われたミツキは、壁にもたれるヤヨイの両足で頭を締め上げられていた。

 万力で締められたような手加減のない足締めは、ミツキの意識を吹き飛ばしかけてるた。


「なんか言ったか、バカ息子」

「い、い、え、う、づぐじぃ、おがーざま……ッ!」

「最初から素直にそう言っときゃ良いんだよ」


 足が解かれ、ミツキは頭を押さえながら心の中で毒づく。


 ーーー肆号装殻を模した義足で本気で締め上げられたら、頭破裂するやろが! 殺す気か!


「またなんか言ったか、バカ息子」

「な、なんもゆーてへんやろ!」

「心の中で逆らったような気がしてね」


 母親の読心術、恐るべし。

 戦慄を覚えつつ、ミツキは話題を戻した。


「教えてや。あん時、花立さんとハジメさんはマザーと戦っとったんやろ?」

「カズキもね。で、私たちが周りの襲来体(イミテイト)と戦った。【黒の兵士(シェルアシスト)】と連携を取ってね」


 自分の父親の名が出て、ミツキは驚く。


「え? おとんってそん時、装殻なかったんやろ?」


 言われて、ヤヨイが、ニヤ、と笑いながらショットグラスを握った手の人差し指を立てて、ミツキを指したす。


「私のカズキが、何て呼ばれてたか知らないのかい? 〝赤鬼〟だよ。私が肆号になる前、それこそトウガが参式(ザ・サード)になる前から、ずっと一緒に暴れ回ってたんだ。『最後に戦るのはやっぱ親玉やろ!?』とか言って、嬉々として突っ込んで行ってたよ」

「おとん……無謀過ぎるやろ……」

「カズキも凄かったんだよ。考えてもみな。あのトウガについて行けるんだよ? あんたの親父は、大した奴だった。最後の最後でツメの甘い間抜けだけど、根性だけは人一倍だ」


 ミツキの父であり、ヤヨイの夫である井塚カズキは、封印される直前の襲来体母体(マザー)に因子を植え付けられて復活の依代にされた。

 その運命を受け入れて、耐えられなくなるまで自分の側にいようとした、と聞かされたミツキの最初の感想は。


 アホ過ぎるやろ、だった。


 助かる可能性が少しでもあったなら、命を惜しめよ、と思った。

 そして、カズキと過ごした思い出が頭を過って、泣きそうになった。


 厳しい武術の練習、大人気ない菓子の取り合い、たまに休めると、疲れただの寝たいだのと文句を言いながら、色んな場所にミツキを連れて行ってくれた。


 そうした全てが、カズキの命と引き換えに与えられたものだったのだ。

 ミツキは、その全てを受け入れて、与えられたものを背負って、肆号になった。


『人間が全力を振り絞っても届くか分からんモンに手を伸ばそうと思ったらな、最後の最後、必要なんは小賢しさでも技術でもあれへん。根性じゃ! 何もなくてええから、根性だけは持て。ヘタばっても負けん気がありゃ、足は動くんじゃ!』


 前時代的な精神論。

 だが、真理だ。


 綺麗なトレーニングを積み、最新のマシンで行って強い肉体を作っても。

 踏み堪えるガッツがなけりゃ、宝の持ち腐れ。


 ミツキは、それをカズキから学び、大阪で、四国で、散々実感した。

 カズキは、正しかったのだ。


 彼に挫けぬ心と思い出をくれた父親は、ミツキにとって偉大で、尊敬に値する男だった。


「そうねん。あの場にカズキ(カリー)が近くにいたら、結果は違ってたかもねん」


 テーブルに肘を置き、どこか懐かしそうにニーナが言う。


「どんな状況やったんすか?」

「あの時わねん。マザーの伏兵に、誰も気付いてなかったのよん……」


※※※


 大阪隕石の間近、最終決戦の地となった天王寺公園跡地で。

 母体複製体(コア・コピー)三体を倒し、《黒の装殻(シェルベイル)》の四人はマザーと対峙していた。


 黒の一号と参式がマザーを直接相手にし、周囲に蠢く襲来体(イミテイト)を弐号、肆号、そして【黒の兵士(シェルアシスト)】らが抑える布陣。


「ヤヨイぃ! 跳べぇッ!」


 それに最初に気付いたのは、少し離れた場所で黒の一号と参式を援護していたカズキだった。

 ヤヨイは、即座にその声に従い、ぐ、と膝をたわめたが。


『うぅ……』


 長時間、肆号装殻のエネルギーを制御し続けたケイカに限界が来ていた。

 予定した跳躍距離を得られないまま着地したヤヨイに、襲来体に混じってヤヨイを不意打ちしたコア・コピーの追撃が襲いかかる。


「コア・コピーは三体しか居ねぇんじゃなかったのか!?」


 カツヤがヤヨイを援護してマシンガンを撃ち放つが、コア・コピーのあまりの早さに攻撃は当たらない。


「四体目じゃないわねん! 一体目よん!」


 別の場所から現れたコア・コピーに対応しながら、弐号が言い。


「そうか……大阪隕石……!」


 ヤヨイは気付いた。

 ここは敵の本拠地とも呼べる、大阪隕石の傍だ。

 

 倒されたコア・コピーは作り直せる。

 どんな手段かは分からないが、倒されたコア・コピーを即座に復元して再び出撃させたのだろう。


 弐号は流石だった。

 コア・コピーを既に一体始末すると、次のコア・コピーを探しながら、ヤヨイの援護に回ろうとして。


「こっちは任せろ!」


 ヤヨイの言葉に従って、先に三体目を探す方に意識を集中する。


「ケイカ?」

『え、あ……』


 コア・コピーの一撃を防ぎながら呼び掛けると、彼女の意識は茫洋としていた。

 このままでは、ケイカが肆号に呑まれる。


 そう判断したヤヨイは、一度コア・コピーを投げ飛ばし。


「ゴメンね。……解殻!」


 ケイカを、自分の体から引き剥がすと、人の姿に戻った彼女を突き飛ばし。 

 腰に差していた大型のダガーを引き抜いた。


 その謝罪は。

 最後までケイカを相棒ではなく、自分の子どものようにしか見れなかった事への、謝罪だった。


 コア・コピーがヤヨイへと迫る。

 その速度は、装殻の手助け無しには完全に追い切れない。


 それでも。


「肆号装殻者、蜜島ヤヨイをナメるなよ!」


 ヤヨイは、自らコア・コピーへと突っ込んで行った。


「ヤヨイ!」


 カツヤの呼び掛けに、目を向ける余裕はなかった。

 頭を叩き潰そうと振るわれる鋭い爪を、紙一重で避け切れず、片足が太ももから断たれる。


 重い衝撃と、視界が白熱するような痛み。


「あぁああああああああッ!!!」


 ヤヨイは。

 足を断たれる寸前に、襲来体の脆い箇所の一つである顎の下に、順手に持ったダガーを突き立てていた。


 そのまま抉り抜くように刃を捻り、コア.コピーの頭を突き上げる。

 コア・コピーが倒れ込む先に。


「ーーー《黒の断絶ラインスフィア》」


 三体目のコア・コピーを始末した弐号の断絶領域が展開し、その首を跳ね飛ばした。

 

 ザ、と砂になって崩れ落ちるコア・コピーに。

 

「ざまぁみやがれ、石コロが」


 親指を下に向けて、ヤヨイは自分も倒れ込んだ。


※※※


「……なぁ、俺の親って何でこんな無謀なん?」


 ニーナが語り終えて、ミツキは頬を引きつらせてケイカに問いかける。


「……零号の攻撃を『青蜂』の極薄装甲で受けて、瀕死の状態で立ち上がったあげくにまだ戦おうとした無謀な人がいるんだけど、それがカズキとヤヨイの息子じゃなかったかしら」

「あー……」


 ミツキは視線を彷徨わせた。

 きっちり無謀の血を受け継いでいる自分に、自嘲するような乾いた笑いが浮かぶ。


「んで、流石に私もエネルギーが尽きてねん。ハジメとトーガがマザーを追いつめてなかったら、アレ以上は持ち堪えられなかったわねん」


 むふふ、と笑い話のようにニーナが言うが、今だからこそだろう。


「それで、ヤヨイさんが気絶してしまって。ニーナさんが止血はしてくれたんだけど、病院に着くまで生きた心地がしなかった。……私が、未熟だったから」


 しょぼくれるケイカに、ヤヨイがその額を小突き、ニーナが優しく頭を撫でる。


「そういう卑下は良くないって言ってるだろ。あんたもしょうがないね」

「むしろ、あの小ささでよくやってたわよん、ケイは。だから、あんまり気にしちゃ駄目よん」

「……はい」


 しんみりとした場で、少しだけ冷静なミツキが、空気を変えるように混ぜ返す。


「おかん。その優しさを、娘だけじゃのーて息子にもほんのちょっと分けてくれへん?」

「可愛い娘とバカ息子が同じ扱いの訳ないだろ。身の程を知りな」


 彼の母親は、にべもなくそう言って、笑った。


 

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