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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『最終決戦篇』
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第14節:黒の一撃


 コウの通信に答えた黒の一号は。


 半壊し、火花を散らす外殻を維持しながら、軽くスラスターを吹かした程度の速度でコアを目指していた。


 現在、完全な素体―――黒殻形態(アンチボディ)である肉体は、その外殻質量故に補助なしの人工筋肉のみで動かすのは難しい。

 さらに腰の回路が損傷した事で下半身の感覚はなく、僅かに残っているスラスターは、襲来体に組み付かれたのと反対側……右の背部スラスターと腕部スラスターのみ。

 

 冷却装置も損傷した為、おそらく、後一撃で装殻は許容熱量の限界を超える。

 

「俺はこのまま……オーファンのコアを破壊する」

『可能なんですか?』

「成し遂げる……その為に、俺は……」


 ゴウキの意志を継ぐと決めた時から、続いて来た時間、関わった者の全てが。


『ハジメ……』

「俺は……この場所まで来た。お前たちのお陰で……」


 ニーナの呼び掛けに、ハジメは独白する。

 ハジメが装殻者となりこれ程の時間を戦い続けてこれたのは、彼女の存在があったからだ。


 ラボの裏切りから、マザーの襲来を凌げたのは……そして今までオーファンの来訪を抑え続けてこれたのは、彼女の尽力があったからだ。

 その明るさと、聡明な頭脳は自分などには勿体ないと、黒の一号は彼女に想われる程に考えてしまう。


『本条』

「我は、【黒の装殻(シェルベイル)】が一人……」


 マザーとの二度の対峙に勝ち、そして肆号……ケイカという存在を得られたのは。

 参式にしてしまった黒の一号を受け入れてくれた花立を筆頭に【黒の兵士(シェルアシスト)】が戦線を支え、希望を捨てなかったからだ。


 恋人を、父親を、そして親友までも失い。

 彼ほど、重い枷と責任を意に染まぬままに負い、支え続けてくれた男はいない。


『ハジメさん!』

『ハジメさん……』

「律に背き―――」


 ミツキと、ケイカも、心の強い子ども達だ。

 彼がいなければ、コウは零号として一人前にはなれず、またケイカも、真の力を発揮する事は出来なかっただろう。


 彼らを育て上げたカズキとヤヨイには感謝してもしきれない。

 そして二人の目覚ましい努力は、間違いなく黒の一号がこの場にたどり着く為の大きな力だった。


『ハジメさん』

「権を拒み―――」


 ジンは、気付いていないだろう。

 真っ直ぐに自分の想いを口にし、常に挑戦し、成長し続ける彼の姿が、どれ程黒の一号にとって支えになったか。


 彼の友人の命と、彼がただの人として生きる道を、黒の一号は奪い去った。

 だがジンが、憎みながらも黒の一号として立つハジメが騙る正義を信じ、監視しながら背中を追い続けてくれたから、自分は道を踏み外さなかったのだと……黒の一号は思っている。


『黒の一号!』

『―――ハジメさん』

「力を以て望みを通す―――」


 コウ、そしてアイリ。

 彼らとの縁は、数奇だった。


 ゴウキとマザーの因縁。

 マサトとアナザーの因縁。


 黒の一号が装殻を流通させなければ、コウの苦悩はなかった筈だ。

 そしてアイリが生体移植型補助頭脳(インナーベイル)の実験体となる事もまた、なかった。


 アイリを花立とカツヤに預けなければ……シェイドの暗躍するフラスコル・シティで彼らと出会わなければ。


 《白の装殻(クルセイダー)》との和解はなく、アナザーとシープすらも倒せなかったかも知れない。

 オーファンのコアが、目の前に迫る。


『全テ、ハ、デウス、ノ、意志、ノ、ママニ……』

「我は、正義を騙る修羅―――」


 オーファンを倒す、その為だけに生きてきた。

 赤子のような、凝り固まった意志。


 共にデウスに翻弄され……諸共に滅すべき存在だったが、オーファンがいなければ、仲間を得る事もなく。


 後の世界を生きる人々を祝福しながら死ねるこの幸福な想いもまた、存在しなかっただろう。

 己が犯した全ての罪を、右の拳に握り込んで。


 彼は、共に戦ってくれた仲間の存在に感謝しながら、己の存在を(うそぶ)く。




「―――名を、黒の一号」




自動展開(システムコール)―――重力場形成(グラビティ・バインド)


 補助頭脳の宣告と共に黒の一号を包む重力場が発生し、周囲の質量を巻き込んでいく。

 特に巨大な目の前のオーファン・コアは強固に固定されている為、黒の一号自身が徐々に加速しながら引きつけられて行く。


出力解放(アビリティオーダー)―――」

実行(レディ)


 いつも通りに応える補助頭脳が、右腕にエネルギーを充填し始め。

 黒の一号は、全霊を込めて重い体を極限まで捻った。


目標捕捉(ターゲット・インサイト)


 黒の一号は、完璧なタイミングで拳を解き放って重力場の影響に身を任せ。




「―――《黒の一撃(グラビティブレイク)》」




 拳の威力と叩きつけられたエネルギーの破壊力で、オーファン・コアを粉々に吹き飛ばした。


※※※


 その瞬間、アイリの脳裏に走った衝撃は形容しがたいものだった。

 アカシックレコードの情報に触れた時ともまた違う、世界が変容を始める感覚……とでもいうべきもの。


「コウ!」


 アイリが呼び掛けると、彼も同じ感覚を覚えていたようで、一つうなずいてから答えた。


『……ああ。これがきっと、ゴウキさんの言ってた『合図』だ』


 世界が、一度円環を閉じる時に、時空外部との繋がりを閉じて世界を安定させようとする―――即ち、霊号によって世界に開けられた、停止霊子を取り込む為の穴が閉じようとする。


 以前、マザーが未来へ跳んだ時にゴウキが転生した―――コウになった時に同じ体験をしたらしい。


 ―――それを利用して、時空改変で霊号の力だけを切り離して時空の外に放り出せば、霊号であった者が生き残っても新たな襲来体は生まれない。


 それが、ゴウキがコウに囁いた裏技だった。

 誰も試した事はないだろう、一発勝負。


 試す価値のある賭けだ。


「まずは全員を……!」

「ああ、地球へ」


 もう邪魔をする存在はいない。

 アイリは、コウと息を合わせた。


「「時空共鳴(アカシックリーディング)!」」


 アイリの脳に、凄まじい情報の波が押し寄せて意識を呑み込もうと牙を剥くのに、歯を喰いしばって耐える。


「こ……の……!」


 時間を含めた全世界という情報の中から、自分と、仲間たちと、地球の位置を割り出し。


「コウ……!」

「ああ。跳躍!」


 コウが跳躍を制御し、アイリが意識の触手を仲間たちと繋げる。

 最後に黒の一号に伸ばしたが……その触手が、不意に遮断された。


「な……ッ!」

「オーファン……!」

『霊号ニ……滅ビ……デウス、ノ、……』


 コアを破壊されてなお、その一念をもって黒の一号を道連れにしようとするオーファンが、邪魔をしたのだ。


「黒の一号ッ!」


 だが、アイリの意識は届かない。


「ぐぅう……!」


 時間がない、その焦りでアイリは集中を乱し。

 オーファンの意識が消え去ると同時に空間跳躍が起動する。


 黒の一号だけを、救えないままに―――コウ達は、地球へ向かって跳んだ。

 


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